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第209話 ミーンの町に塩が満ちる


「すっかり坊やの塩がミーンの町に行き渡るようになったの」


 ヒョイさんの社交場(サロン)前に昨日から設置した自動販売機を一日稼働させてみて不具合が出ていないかなどを確認をしてきたガントンさんが戻ってくるなり開口一番そう言った。


 ミーンの町の中でもいわゆる高級住宅地のような感じのエリアにあるヒョイさんの社交場でも塩の自動販売機の前には行列が出来ていたという。


 マオンさん宅の庭、鈍く黒光りする石木(せきぼく)のテーブルに僕やマオンさん、ドワーフの皆さんや四人の犬獣人族の皆さんも席に着いている。


「雑貨屋の方も盛況だべ!」


 ゴントンさんも嬉しそうに言う。


「そうでしたか、それは良かったです」


 僕がミーンの町に持ち込んだ塩、ありがたい事に評判は良い。


「白い塩、しお996(キューキューロク)…、呼び方は色々あるけど町の衆にも親しまれてきたね」


 マオンさんも嬉しそうだ。


「ワシも知っておるぞ!犬獣人族(ドギーマ)の間でも大人気じゃ!良い塩が前より安く手に入る、しかも相場は一定じゃ!今日は上がった、下がったと騒がずとも良いのじゃ、安心して買えると町の衆も話しておるよ」


 マオンさんの言葉に長老さんも同意する。


「冒険者ギルド前以外でも買えるようになった事でギルドまでが遠く、買いに来るのが困難だった人にも買いやすくなってきた。あとは南の方で買える所があれば町の衆も喜ぶだろう」


「確かに、南西部は職人も多い。ミーたち犬獣人族もね。日中は仕事場を離れられない者も多いだろうからな…」


 ラメンマさんやテリーマさんがそんな風に言っていた所に、


「坊やの塩があのあたりでも買えると良いのだが…」


 ロビンマさんの言葉に僕は少し考える。


「うーん。辻売(つじうり)に行ってみたいんですが、マオンさんはどう思いますか?」


(わし)も良いと思うんじゃが…。家から遠かったから南の方で辻売をした事が無くてねえ…。場所を借りるにしても伝手(つて)が無いよ」


「あ…、確かに。場所を借りないといけませんからね…」


 辻売と言うのは道端で商品を売る言わば行商人。そこで商売をする為にはまず場所を確保しなければならない。

 しかし、店を開くにあたってその土地で辻売をする為の場所を貸してもらう訳だが、その為の顔見知りがいないのだ。どうしたものかと思案していた所に長老さんが立ち上がった。


「ならばワシの家の前でやれば良い。幸い、あのあたりは犬獣人族も多い。『とんこつらめえぇぇ!?ん』によって坊やの存在は我々犬獣人族に広く知られておる。前もって辻売をする事を知らせておけば皆も来るじゃろう」


「長老さんのお宅の前で良いんですか?」


 確かに長老さん宅の前で辻売ができるのならありがたい、なんたって犬獣人族の長老さんだ。そこらへんの適当な空き地で辻売をするより、長老さんのお宅の前で商売ができるなら信用も違うだろう。

 マオンさんと相談すると出来るなら明日にでもやってみようと言う、なら話は早い。


「では長老さん、お世話になります。早速ですが明日にでもいかがですか?」




 翌日…。冒険者ギルドで早朝のパン販売を終えた後、僕たちは荷車(リヤカー)を引いてミーンの町の南の区画へと向かう。いつもの荷車とは異なり今引いているのは自動車のように車輪が四つ。重い物を引くのに適しているとガントンさんが貸してくれたドワーフ族の木工技術が詰まったものだ。


 なぜ今日はその荷車を使っているかと言うと、防犯機能などが付いていない一番単純な構造の塩の自動販売機を乗せている為だ。

 単純に白銅貨一枚(シロイチ)を投入して、塩が9.96(ウェイ)(10グラム)出てくるという単純仕様だ。だから、多機能かつ持ち逃げ防止の数百キロあるらしい自動販売機よりもの凄く軽い。

 それでもこの自動販売機は数十キロあるから安定性が高い四輪の荷車が良いだろうという事になった。そんな自動販売機を二台借り受け僕たちは長老さんのお宅に向かっている。


 護衛は昨日と変わらず長老さんたち犬獣人族四人が務める。特にトラブルも無く目的地に着いた。


 マオンさんといつものように『でもお高いんだろう?』の口上を述べながら辻売を始めた。このミーンの町ではテレビもゲームなどの娯楽も無い。そのせいか異世界では日常の中に娯楽を求めているのかも知れない。


 そのせいか、物売りの口上も面白ければ娯楽になる。それ以外にも硬貨(コイン)を入れてレバーを引き塩が出てくる自動販売機の機巧(からくり)は注目を集めた。


 さて、これだけだと自動販売機だけを置いておけば成立してしまう商売だ。極論、売り子がいなくても良い。

 そこで僕はとんこつラーメンに続く第二のヒット商品を生み出すべく新たな商品の用意をして実演販売をする事にした。


 それはビーフジャーキーとサラミソーセージ、試食として長老さんに食べてもらう事にした。焼酎を一杯注いで感想を聞く。


 こりゃ、スッキリとしてるが強い酒だ!ビーフジャーキーについても保存の為の干し肉と違って、酒を飲む為にあつらえた逸品だと大喜び。商品はそれなりに高値だが完売した。


 後に魚でもそんな風な物はないかと猫獣人族のゴロナーゴさんから問い合わせがきたので、カワハギを干したものなどを用意する事になったのだがそれはまた別の話…。

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― 新着の感想 ―
[一言] 貴方にも色々有ると思いますが、次が楽しみでなるべく早くの更新をお願いします。
[一言] 仕事が忙しいんですかね?身体には気をつけてくださいな(^-^)/
[一言] 完結ですか?
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