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第194話 訪れたのは…?


「僕に…、お客さん…ですか?」


 来客がある事を伝えてくれたのは社交場現在(サロン)の周囲を警戒してくれているミケさんだった。誰だろうか…、僕を訪ねてくる人というとまさかブド・ライアーだろうか?

 嫌だなあ、話す事などないし会いたくもないし。


「ちなみにどんな方でした?」


「ああ、女だったよ。見知った顔じゃねえ。大剣(ナジナ)双刃(ウォズマ)が護衛に付いている。あやしい奴じゃないとは思うがね。で、どうする?会うかい?」


 ううむ…。ナジナさんたちが一緒にいるなら悪い人ではないかな。よし、会おう。


「分かりました、会います。ても、会うとすればこの仕事が終わってからになるかなあ…」


 そこにヒョイさんがやってきた。


「もし、ゲンタさんがよろしければこの店でお会いになられてはいかがですかな?」


「ここで?良いんですか?閉店の時間を過ぎてしまいますよ?」


「なあに、構いませんよ。我々もすぐに帰る訳ではありませんからな。それに訪ねて来たのは私も存じ上げている方です。私も顔を合わせておきたいものでして…」


「分かりました。では、ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」


 そう言うと僕は料理半分、片付け半分といった感じで作業をする。注文が立て込んでいなかったのが幸いした。

 閉店後にヒョイさんをはじめとして従業員の皆さんが夕食を摂ると聞いていたのでその準備をする。マオンさんの白いパンにクリームシチュー、そして水で戻すタイプの海藻サラダ。メルジーナさんはこの海藻サラダに塩を振って食べると言うので中華ドレッシングを添えておく。


 僕は訪ねて来たというお客さんと会う為、メルジーナさんと同時に食事は出来ないだろうから、事務用品のふせんに『海藻サラダにかける新しい調味料を用意してみました、お口に合えば良いのですが…。初めは少しずつ使って味見しながら使って下さい』と添書きしておいた。


 そしてつつがなく社交場(サロン)での営業は終了した。



 閉店後の社交場のそれなりに人数の入れるブースで僕はその女性と対面した。互いの護衛も含めて十人が一堂に会する。

 僕を訪ねてきたのは切り揃えた黒髪が印象的な女性だった。僕より少し年上がな、冷静で知的、そんな第一印象だ。


「イ…、イブ・ネネトルネと、も、申します、こ、この度はきゅっ、急な面会の申し入れにも関わらず、お…お受けいただき感謝の言葉もありません」


 あれ、完璧な見た目に反して急にセリフを噛みだしたぞ。でも、とりあえずそこはスルーしておこう。それにしても…、ネネトルネ、何処かで聞いたような気がするような…。


「いえ、お気にしないで下さい。元来、商人とは時間(とき)を大切にするものです、いつ何時(なんどき)冒険者ギルドで(あきな)いをさせていただいておりますゲンタと申します。こちらはマオンさん、僕の遠縁に当たる方です」


 そう言って軽く会釈をする。その言葉に幾分(いくぶん)かイブさんの表情が和らぐ。

 僕も緊張しない訳ではないが、相対(あいたい)する人がガチガチに緊張していたりすると何というか冷静になれるものだ。

 

 そしてこの場には僕たちを取り持つ意味もあるのかも知れないがヒョイさんもいる。また、互いの護衛として先方側にはナジナさんとウォズマさん、こちら側にはミケさんたち四人がいる。知り合いが多いというのはそれだけでありがたい、僕にとってホームかアウェイかと言われればホームだろう。落ち着いて話す事が出来た。


 また、何かが起こる事はないと思うが護衛としての務めなのだろう。ナジナさんとウォズマさんはイブさんの後ろに、ミケさんたちは僕たちの後ろに屹立(きつりつ)した状態で控えている。顔を合わせた瞬間はにこやかに『よぉ』と挨拶をしてくれたナジナさんたちであるが、すぐに表情が引き締まる。いざ有事の際にすぐに動けるようにしているのだろう。


「よろしければこちらをどうぞ」


 そう言って僕は借り物のティーポットからアールグレイの紅茶を注ぐ。それを前にしてイブさんが目を見張る、紅茶好きなのだろうか?


「こ、これは…。と、と、とてちゅもない上質な茶葉ッ」


 うーむ、噛み方が可愛い。見た目、香り、そして味を確かめ驚きの表情を見せる。そして何やら確信めいた表情を見せると、今回僕を訪ねてきた理由を話し始めた。何回もセリフを噛みながら…。



 イブ・ネネトルネさん、彼女はネネトルネ商会という王都や大きな港を持ち商都と言われる商売(あきない)の中心地にも店を構える大店(おおだな)を営む一家の娘さんだそうだ。


 そのイブさんであるが、ここミーンの町には今日たどり着いたそうだ。ちなみにナジナさんたちが隣町に行ったのはこのイブさんを迎えに行く為だったらしい。

 そして訪ねて来た理由であるが、以前ナジナさんやガントンさんたちが巨大猪(ジャイアントボア)を狩猟した一報を聞きネネトルネ商会はその肉を注文してくれたが、その夜に焼肉パーティーをしてしまった為に届けるのが半日遅れてしまった。その時、ナジナさんが配達する際に胡椒やナツメグなどの香辛料や焼肉のタレを付けた。

 

 それがイブさんの心を掴んだらしい。


「こ、今回!き、来ましたのは、こ、ここ、胡椒の取引の為です。し、しかし、お、お会いして…わ、分かりました。こ、胡椒以外にもこんなこ…ここ、紅茶があるなんて!『かれー』のお噂も聞きましたので、ぜっ、ぜぜ、是非、私どもネネトルネ商会と取引をお願いしましゅッ」


 噛み噛みのイブさんだが言いたい事は理解した。


「分かりました。明日にでも見本を用意いたします。が、取引前に一つお約束いただきたい事があります」


「そ、それはッ?」


「紅茶などいくつかの商品はこの町では販売しない…、この事をお約束していただきたいのです」


 これは譲れないよとばかりに僕は申し出たのだった。

次回予告


 イブ・ネネトルネ…、彼女との商談をするにあたってゲンタは条件を設ける。果たしてその条件とは…?


 その頃、ブド・ライアーは次なる手を講じようとするが…。

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― 新着の感想 ―
[一言] このど緊張、ゲンタの人となりを試す演技のような気がするー
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