第183話 ゲンタ、襲われる?
仮眠しようとした小部屋に現れた誰か。
ほっそりとした手足はとても白い。シルフィさんだろうか?何か起こったのだろうか?
「がちゃ…」
そんな言葉を口にしながら閉めたドアに後ろ手に鍵をかけた。うーん、そんな事を言う人を初めて見たぞ。
そしてこの声、聞き覚えがある。
「ミミさん…」
現れたのは兎獣人族のミミさんだった。
その彼女は姿勢を低くしながら仰向けの僕に近付いてくる。彼女は四つん這いの体勢になり僕の間近に来た。光精霊サクヤのおかげでわずかに明るい部屋の中、紅い瞳が輝く。
「ど、どうして鍵を…?」
「ちょっと…雰囲気…出してみただけ」
そう言いながらもミミさんはにじり寄ってくる。
「ど、どうしてそんなに近づいてくるの?」
「大丈夫、何もしない…、何もしないから…」
そうは言いながらもミミさんの接近は止まらず、むしろ覆いかぶさるように迫ってくる。あれ?なんだかコレおかしいぞ。なんだろう、『何もしない』と言いながらも迫ってくるような…、男女が逆転した状況なら間違いなく貞操の危機と言う奴だ…。
そんなミミさんの顔が僕の首筋に触れるか触れないかぐらいのところまで来る。吹きかかる吐息が妙にくすぐったい。
「ミミさん、呼吸が荒いんですけど…」
「大丈夫、大丈夫。痛くしない、痛くしないから…」
「ヤる気満点じゃないッスか!!?」
「発情したから仕方ない。こうなったら…」
ガバッ!ミミさんが抱きついてくる。完全に野生化したと思った瞬間、こんこんこん…とドアをノックする音がした。
「は、はいッ!!」
僕は慌てて返事をする。
「ゲンタさん、起きてらっしゃいますか?」
シルフィさんの声がした。
「良かった…、またブド・ライアー商会から指名依頼が入りまして…」
「わ、分かりました。すぐ伺います」
僕が起き上がろうとすると、ミミさんは素直に僕の体の上からどいてくれた。
「残念…」
「いや、さすがにコレは…」
「でも、体は嫌がってなかった」
ま、まあそれは認めますけど…。ミミさん美少女だし…。
「は、ははは…」
曖昧に笑って誤魔化す。
「次は必ず…」
小さな握り拳を作ってミミさんが決意を新たにしている。
「そう言えば、ミミさんはどうしてここに?」
「ヒョイおじさんと一緒に来た。そしたら丁度、ゲンタは仮眠に行ったと聞いた。だから護衛する」
「えっ?護衛?」
ミミさんはこくりと大きく頷く。
「人は入浴中や寝てる時が一番無防備。だから護衛。ベッドの中は私がつきっきり」
おい、その護衛に今襲われたんだが…。
「入浴時の護衛でも良い。ゲンタは服を脱いでいる。…じゅるり」
「ヨダレ出てるよー!」
なんだろう、身の安全はどうなるか分からないけど貞操が危なくなるのは分かった。まさか、夜這い…いや日中だから昼這いか、それに遭うとは…。
もしかしたら異世界は色々と危ない事があるのかも知れない。地球だと女の人が被害者になるような事が、ここでは男の人がなる場合があるのかも知れない。魔法とかあるし…。
やはりシルフィさんの護衛を付ける提案は正しいのかも知れない。そんな事を思った仮眠時の経験、今後に活かしていこう。
「次は必ず『せいこう』する…」
ミミさんが何か言っている。うーん、『成功』だろうか?それとも『性交』だろうか?どちらにせよ内容は一緒か…。
拒否しきれないあたり僕の弱いところだ…。