第181話 ゲンタの護衛、応募者殺到?
「え?そんなに希望する方がいるんですか?」
「ええ、こんなに…」
そう言うとシルフィさんはたくさんの木の板を取り出した。
僕はそれを受け取り、テーブルに置いた。内容を確認していく。報酬などについてはまだ提案していなかったので、希望者と相談する事になる、あるいはすでに提示されているものもある。
内容を確認していく。
まずは…ナジナさんとウォズマさんだ。あっ、自己PRが書いてある。なになに…、剣の腕には自信あり。そりゃあそうでしょうねえ…。
次は、おお…、パーティでの応募だ。エルフの姉弟たち、セフィラさんたちのパーティだ。全員が精霊魔法を中心に魔法が使える…。離れた敵には弓や魔法を、接近戦なら剣をもって対応する…と。報酬は金銭ではなくジャムか果物を希望する…と。
他にはミケさんら猫獣人族の姉弟四人組、街中の入り組んだ場所や身の軽さを必要とする事に自信アリ…。ラメンマさんら犬獣人族の皆さんの名もある、万が一武器を手放し素手になったとしても戦える…と。うーむ、確かに。
他には…、あ!ガントンさんらドワーフの一団の名がある。うーむ、筋力と頑強さを活かした肉弾戦、手先の器用さを活かして弩弓の扱いにも長ける、と。うーん、物理戦闘の専門家って感じだ。
あれ?変わった所ではゴロナーゴさんの名前があるぞ、なになに…ケンカと度胸なら誰にも負けない?うーん、素手の戦闘とは限らないからなあ…。それにしても…そもそもゴロナーゴさんは冒険者なのだろうか?報酬は…やはり魚ですか。
おや?ミアリスさんの名もある。戦闘は苦手ですが怪我に備えて私を雇いませんかとの事。なるほど…、彼女の治癒魔法は体験済みだ。備えあれば憂なしとも言う。常に護衛…というのは危険が付きまとうだろうから、有事の際に治療をお願いするような形で依頼が出来ないだろうか?このあたりはミアリスさんに相談してみよう。
虎獣人族のダテナさんやタイガさん、マースクさんも名乗りを上げてくれたんだ…。なになに、瞬発力に自信アリとの事。迅速に敵を制圧する事に自信があるらしい。これはアレか…、チーターみたいに時速110キロの最高速度を出せる、ただしおよそ三秒間みたいな感じか…。
シルフィさん、マニィさん、フェミさんも応募してくれている。伴侶となる人を守るのは当然ですとの事。ただし受付の仕事のない日に限る。しかし…、うーむ、伴侶ですか…。なんだろう、この外堀が埋まっていく感じは…。嫌な訳ではないんですけど…。
次は…あれ?おかしいぞ。なぜか兎獣人族のミミさんも立候補している。自己PRは…おやすみからおはようまであなたを守る、ベッドの中での護衛を希望…。なんか違う目的があるような気がする。そもそも彼女はゴロナーゴさん同様に冒険者なんだろうか?
あっ!ギルドマスターのグライトさんも志願してくれたんだ。なになに…最近出番が無い、頼むから呼んでくれ…と。…次いってみよう。
他にも顔が思い浮かぶ冒険者の方が何人もいる。これだけの応募をしてもらえるのはとてもありがたい事だ…。感謝である。
「んで、ダンナ。誰に依頼する?」
マニィさんから声がかかる。さて、誰にお願いするか…それが問題だ。
□
僕が護衛を誰に頼むか悩んでいると、シルフィさんが翌日以降の予定から最適な人を選んでみてはどうかと助言してくれた。
「えっと…明日は…」
予定としては早朝にギルド内でパンを売り、その後は夕方にパンを売るつもりだ。ガントンさんらドワーフの皆さんの力作、移動式のパン焼き窯。これがあればどこでもパンが焼ける。
つまりはパンの辻売として生活していたマオンさんの日常が完全に戻ってくる。おまけにこのパンは強力粉100パーセント、歯触りの良い白いパンだ。ハッキリ言ってもの凄いご馳走だ。
というのも、ここ異世界では黒麦にその他食べられる雑穀のようなものを原料にした黒パンが一般的だ。その為、黒麦独特の酸っぱさみないなものと、嵩増しの為の雑穀のせいでボソボソとした口当たりになる。
少しお高くなると黒麦100パーセント、それに小麦の粉を混ぜたものになるともうそれは高級品。先日の屋台でカレーを売った時に、ハンガスの屋台ではその高級品とやらを売ろうとしたが、僕らの屋台は小麦100パーセントの白いパン。
「この『かれー』も凄えが、この真っ白なパンも負けてねえ!」
そんな声がチラホラ聞こえた。しかし、それはマオンさんのパン作りの腕があってこそ。生半可な腕ではこうはいかない。
何しろマオンさんのパンはふわふわの食感、材料良しで腕も良し。絶品のパンが出来る。そう言えば、セフィラさんたちがこのパンにあのジャムをつけて食べられたなら…、そんな事を言ってたっけ…。
ナジナさんとウォズマさんはネクスの町に向かったから明日はいないし…。
よし…、ならこうしよう。少しばかりマオンさんと相談する。
「シルフィさん、護衛の件ですが…」
シルフィさんのいる受付カウンターに向かう。
「明日はセフィラさんたちにお願いしようと思います。僕たちの予定としては…明日の早朝にいつも通りギルド内でパンを売った後はしばらく移動はありません。そうして女王の刻になったらギルド前で辻売をしたいと思います。売り物はマオンさんのパン、セフィラさんたちの報酬としてはジャムとマオンさんのパンをお付けします。その内容で打診していただければ…」
それにしても…。まさか僕のような一般人が護衛をお願いする事になるなんて…。日本でなら考えられない事だ。SPをつけるような感覚だもんね…。
まあ、でもセフィラさんたちなら精霊の加護が宿るという『エルフの服』を作ってもらった縁もあるから面識もある。やはり全く知らない人にお願いするのとは違う。
とにかく明日の予定は決まった。セフィラさんたちにはシルフィさんが風の精霊の力を借りて通信してくれた。ちなみにセフィラさんたちからもすぐに返事が来た、引き受けてくれるとの事。
顔合わせは明日の朝、ギルドでする事にした。さあ、明日の為の準備に取りかからないと…。