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第176話 不意に修羅場はやってくる…のか?

「これは…、孤児院からの依頼…」


 マニィさんは僕の手渡した木の板を戸惑いながら受け取った。


「本当に受けるのかい?」


「はい、こちらの依頼を受けます」


理由(ワケ)を聞いても良いかい?」


 マニィさんが向かい側の丸太椅子(スツール)に座り直した。


「この依頼は孤児院にいる13人いる子供たちにカレーを食べさせて欲しいというものでした。でも、他にも人はいますよね?例えばこの依頼を出した方とか…。子供たちだけで暮らしているとは考えにくい…、大人の方もいるはずです。だけど、子供たちの事だけ書いてある…、だから僕は受けたいと思ったんですよ。自分の事は良いから子供たちに食べさせてあげたいっていう気持ちに」


「だけど大丈夫かい?こういうのは材料も自分持ちだ。ダンナ、大損しちまうんじゃ…」


「大丈夫ですよ、そこをやりくりするのが商人というものです」


「ダンナは冒険者なんだけどねえ…」



 それからしばらく冒険者ギルドで休ませてもらい、約束の時刻より少し早い時間に再びマオンさんと合流した。朝と同じくガントンさんが同行している。そして…、


「坊や、ウチに一番に知らせてくれるたぁ嬉しいじゃねェか!」


 猫獣人族(キャトレ)で鳶職の棟梁、ゴロナーゴさんと何人かのお弟子さんも一緒だった。なんでもオタエさんからアジの干物を売ると聞いたら、本来なら夕方くらいまでかかる仕事を休憩どころか水の一杯も飲まずに突貫工事でやり遂げてここに駆けつけて来たらしい。


「それならここで先に人数分売ってしまいましょうか?なにか袋はあります?」


 そう言うと、それは話が早いとゴロナーゴさんは大きな布袋を出した。そこにアジの干物を二十枚、代金を受け取る。


「へへっ!これでお使いは終了よォ。まァ、棟梁だなんだと言われても一番強いのは女房殿と来らァ。安心したらノド乾いちまったぜ、なァ坊や…あの緑茶(みどりのこうちゃ)って奴ァあるかい?」


「ありますよ、ついでに魚を売るのが終わったらどうです?久々に一杯。ガントンさんも?久々に義兄弟(きょうだい)で…」


「なっ!?そ、それなら(ワリ)ィが坊や、緑茶はナシだ。せっかく乾いてるノドだ、このまま我慢して酒で潤してェ!!」


 うーん、これはアレか。サウナにギリギリまで入ってからビールを飲む…みたいなものかな。分かるような気がする。


「それと…、アレだ。ウチの若ェのも良いか?奴らどうも坊やの魚にゾッコンのようでな」


「はい、大丈夫ですよ。ただ、魚は切らしているんで猪肉とかを焼く感じですね」


「分かった!よし、お前ら出てる奴らに連絡(つなぎ)だ。終わったら坊やン所に集合だ!それと、コレはしっかりオタエに届けるンだぜぇ」


 そう言ってお弟子さんたちを町に走らせる。


「さて…、と。なら俺は坊やの用心棒にでもつくとするか…。なに…、オタエが町のあちこちでしゃべって回ったろうからな…。魚が売られる事は猫獣人族(キャトレ)はみんな知ってるだろうよ。滅多な事は起こらねえだろうがよ、(にら)みは()かせとかねえとな」


「なら、ワシも少しは働くかの」


 ゴロナーゴさん、ガントンさんが腰を上げた。


「では魚の販売に出ます。よろしくお願いします」


 ギルドの扉を開けるとすでに人集(ひとだか)りができていた。これはすでに完売御礼の札でも作った方が良いかも知れない。



 あっさりとアジの干物は完売した。その間、わずか三十分ほど。


 また、鰹節(かつおぶし)も熱狂的なファンが誕生していた。その筆頭はミケさん、なんでも屋外で野営する際はこの鰹節を両手の平ですり合わせるようにして細かい粉末にしてスープにするのだという。

 いわゆる魚粉みたいにするのだろうか。ラーメンの仕上げのようである。


 ギルドに戻り、辻売をした手数料を払いにシルフィさんのいるカウンターに向かう。すると薬草の納品を済ませたらしいミアリスさんが空の背負い籠を担ぎ上げた所だった。


「あっ、そうだ。ミアリスちゃん。ゲンタさんが『かれー』の依頼を受けてくれたんだよぅ」


「えっ、本当ですか?」


「うん、明日の夕方にお伺いしようと思ってまして…」


「ゲンタさんッ!!」


 がばっ!喜びのあまりか、ミアリスさんが抱きついてきた。


「良かったです。お金もあまり出せないから駄目かなって思って…」


「大丈夫ですよ。…もしかしてこの孤児院はミアリスさんがいたり…」


 コクン。小柄なミアリスさんが僕を間近で見つめながら頷く。こ、これは…破壊力A(超スゴイ)だ。

 なるほど…ミアリスさんにゆかりのある孤児院だったのか…。そう言えば、ミアリスさんはシスター見習いをしていると言ってたっけ。もしかすると教会と孤児院を一つの建物でやっているのかも知れない。


 だとすれば、なおの事この依頼を受けて良かった。


 そんな風に思っていたら、スンスンと抱きついた状態のミアリスさんが鼻を動かした。


「あれ?ゲンタさんのここから女の人のニオイがします」


 そこはヒョイさんの所に訪問した際に抱きついてきたミミさんにスリスリされた場所であった。もしかして僕、マーキングされた?

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