第16話 冒険者ギルド(中編) 。エルフの受付嬢
なんか、主人公が何故かドMっぽくなっていく(笑)
「ここから先は私がお伺いいたします」
その澄んだ声の持ち主はカウンターの一番左に座るエルフの受付嬢さんだった。
「シルフィさん…」
僕たちのたい対応をしている受付嬢さんがその人の名を呼んだ。
シルフィさん…、この方も金髪だ…、そしてとんでもなく美しい。肩の所で切り揃えられた髪、そしてジト目のような冷たい美しさを放つ視線。そう言う視線に見られるのが好きな人には堪ないだろう。
…ちなみに僕もですが。
「ゲンタ様、マオン様、私はシルフィと申します。このお話を引き継がせていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします」
「は、はい、こちらこそよろしくお願いします」
「それではお話をお伺いいたしますがその前に…。ゲンタ様、マオン様、今までの対応どうかお気を悪くされませんよう…」
そう言って彼女は僕たちに頭を下げた。そして先程まで僕たちの対応をしてくれた受付嬢を示した。
「こちらの受付を務めるフェミはまだ若いですが、知識、経験もありお客様の身になれる受付嬢と我々ギルド職員一同自負しております。しかしながらお持ち込みいただくのが前例の無いパンという事もあり、その対応がお断りする事を前提になった事を改めてお詫びいたします」
「は、はい。初めて来た僕にも分かりやすく丁寧に説明してくれましたし、全く気にしてませんよ」
「ありがとうございます。それでは立ち話というのもなんですので…そちらのテーブルにてお伺いいたします」
シルフィさんが手で指し示した先にはテーブルと、座る為に丁度良い高さに輪切りにした丸太を椅子にした物があった。見ればそのテーブルはカウンターとは反対側にいくつもある。
おそらく時間帯によっては冒険者で賑わうのだろう。
「ああ、助かったよ。年寄りはすぐ座りたくなってねえ」
マオンさんが、カラカラと笑いながら僕と丸太のイスに向かう。
一方、シルフィさんはゲンタ達の対応していた受付嬢に声をかける。
「フェミ、あなたの対応は間違っていません。丁寧な対応でした。おそらく私もエルフでなかったら…同じ対応をしたと思います」
「えっ!?シルフィさん…?」
「おそらく…、私でなければ、気付いてはいなかった…」
そんな呟きのような声が聞こえた。
□
「お待たせいたしました。改めまして…、ミーン冒険者ギルド受付を務めておりますシルフィと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。僕はゲンタ、そして…」
「パンの辻売、マオンだよ」
それにしても…この町、ミーンっていうのか…。初めて知ったよ。
「それでは…、この度のお話につきまして…。パンの納品をされたいという事でよろしいですか?そのパン自体については後ほど拝見させていただくとして、いくつか事前にご提案申し上げます」
すちゃっ…、ジト目エルフ(シルフィさん)が眼鏡をかけた。
な、なんだと。ジト目美人が眼鏡装備だと…。あ、圧倒じゃないか…。その綺麗な口元から僕への罵声とか飛び出さないかな…。そんなしょうもない事を考えていると、その罵って欲しくなる涼やかな声で僕は現実に戻される。
「パンの納品ですが、ギルドでは今まで前例のない事です。こちらのパンを納品ではなく、ギルド内で売店のように小売りにするのは駄目なのでしょうか?」
「実は…」
僕はここに来るまでに商人ギルドでのトラブルのせいで僕たちが町中で小売りしようとすれば嫌がらせされる可能性がある事を伝えた。
その後に助けてくれたミアリスさんに聞いて冒険者ギルドに納品ならば販売にならないのではとアドバイスを貰った事を隠す所なく話した。交渉に不利になるかも知れないとも思ったが先程フェミさんが親身に話を聞いてくれた事もあり、なぜだか分からないけどこのシルフィさんなら大丈夫なのではないかと考えたからだ。
「それはひどい…。しかし、正直にお伝えいただき感謝致します。しかし、ギルドとしてはやはり小売りを提案いたします」
「え、でも、それでは…」
販売になってしまうと言いかけた所で…
「ご心配もお有りとは思いますがここは冒険者ギルド、独立した組織です。いくら商業ギルドの取り決めと言えどもこの冒険者ギルドの中には及びませんのでご安心下さい。また、まがりなりにも商取引を保護するのが商人ギルドです。一個人の商取引を邪魔立ては出来ないはずです」
シルフィさんの言葉は続く。
「しかし、冒険者ギルドでは小売りに割けるほどの人手はありません。そこでお二人には売り上げたパンの数を報告いただき、その数を冒険者ギルドが納品依頼として出した事にしましょう。勿論、許可が下りてから…と言う事になりますから…。そして許可が下りた暁にはこの辺りのテーブルを使ってスペースを作り販売するのはどうでしょう?」
なるほど、テーブルを使って購買コーナーみたいなのを作って…。売店みたいな形になるな…それなら現金収入になりそうだし悪くないぞ。
日本で帳簿上黒字なのに倒産してしまう企業があると聞く。それは『掛売(かけうり』、品物を販売しその代金を例えば翌月末とか翌々月末にと言ったような指定した日に入金されるシステム。
しかし、その先延ばしされた入金日まで販売した側の会社の資金が持たず倒産してしまう…。帳簿上は黒字なのにそんな倒産をしてしまう。全てはお金が入ってくるのが先延ばしになるのが原因だ。
でも、これなら即座に現金が入って来る。だから売れさえすれば失敗はない。そして聞いた感じでこの世界の食事は石のようなパン、水みたいな薄いスープ、塩もほとんどふってない肉など…。そんなメニューで一食白銅貨五枚(500円)くらい、これなら僕のパン一つを同じくらいの値段にしても売れるんじゃないだろうか?
「分かりました、では壁際のこの辺りで…。販売するとなったらテーブルを二つほど貸していただいて…」
「では、基本的にはこの話は進めていくとして…。この場所でお売りになる場合の料金なのですが、当ギルドではギルド所属者が一日このように物を広げて売る場合、白銅貨10枚をいただいておりますが…。それでよろしいですか?」
一日千円か…、でもそうなるとパンをいくらで売ろうか。一個を500円にして…それなら二個売れば利用料は賄える。よし、多分大丈夫だろう。
「はい、大丈夫です」
「ありがとうございます。では次に商品ですが、どのようなパンをお売りになりますか?」
さあ、来たぞ!ここで販売する許可が出るかどうかの分かれ目だ!先程、取り出しかけた本日勝率100パーセントのジャムパンを取り出す。
そう言えばマオンさんが言っていたっけ…、ジャムは高価なんだと。しかもそのジャム…本物のジャムは『エルフのジャム』というらしい。
エルフの里でしか作られない秘伝のジャム…市場に出回れば高値で取引されるという。一方、僕のジャムパンのジャムは秘伝とかではないありふれた物、さしかも昨夜、半額44円で買ったものだ…。
もしかして僕は、ジャムパンに対して一番詳しく厳しいエルフの面接官に当たってしまったのではなかろうか…。しかし今さら後には引けない、取り出したジャムパンを戻す訳にはいかないのだ。シルフィさんは相変わらずのジト目で僕を見ている、その視線はやはり鋭く冷たさのらような物さえ感じる。戦いはすでに始まっているんだ。
ブックマーク、評価ありがとうございます。
これからも頑張って書いていきます。
次回予告
冒険者ギルド内でパンの取引ができないかと相談に向かった
ゲンタとマオン。商品サンプルとしてジャムパンを
取り出したゲンタだったが相手は秘伝のジャムに親しんだ
切れ者のエルフ受付嬢。
ジャムパンを一口食べ、エルフはその瞳を一変させた…
次回『家に帰るまでが商談です(仮題)』