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第167話 とまどい

「ひぃえっくしょん!!」


 誰かが噂しているのだろうか、僕は 一つ大きなくしゃみをした。マオンさん宅に帰宅する、ガントンさんたちの姿は一見しただけでは見えない、しかし近づいてみると、


「おお!戻ったんだべな!」


 下の方からゴントンさんの声がする。それもそのはず、現在のところドワーフのみなさんは地下室作りに(いそし)んでいる。この町を、そしてマオンさんの敷地で暮らす毎日を気に入ったようでここを拠点にお弟子さんたちと石工や木工、鍛治の技術を磨いていくと言う。そんな訳で彼らはドワーフ族の別名『洞窟の民』らしく地中を生活の場として、そして騒音などで迷惑をかけぬように鍛治場にするのだと言う。


「待っておれよ、坊や。この鍛治場が出来たらワシらが包丁にもなる入魂の短剣を作っでやるでな!」


「はい!ありがとうございます!その時にはその短剣で何か酒に合う物を作りましょう」


「ふくくくっ!ワシがしようと思っていたおねだりを先に言われてしもうたわい!」


 がっはっは!ガントンさんが体を揺らし豪快に笑っていた。


 昨日、一昨日と屋台で忙しく働き今朝も早くからマオンさんには販売を手伝ってもらった。だから今日はゆっくり休んでもらう。あまり無理はいけない。


「行ってきます」


 僕はそう声をかけ、シルフィさんと二人歩き出した。



 町の西側には門が無い。あるのは町に沿って流れる川と外からの進入を防ぐ柵。今から向かうのは町の西にある森だから、門のある町の南から外に出ると思ったのだったが…シルフィさんが


「こちらへ…」


 と言うのでついていくと西の外れに向かっていく。でも、この先には門は無い…。どうするんだろう?そんな事を考えていた僕であるが、数分後には僕たちは町の外、西側の柵と川を越えた先にいた。二人並んで手をつなぎ歩いている。


「まさか…ああやって川を渡るなんて…」


 僕は思わず呟いていた。


 門も橋も無い町の西側、柵まであるのにわずか数分で町の外にいる理由…シルフィさんが『光速』の能力を使ったのだ。

 『光速』は目に見える場所…、いわゆる短距離の瞬間移動だ。その能力は手をつなぐ等、接触していればその相手もまた共に瞬間移動できるそうだ。その能力のおかげでわさわざ遠回りの南門まで行く事なく、最短距離の西側から町を出る。


 ちなみに『光速』は移動先が見えていないと瞬間移動は出来ないらしい。この町の西側は木を組んだ柵で囲ってあるだけなので川の向こう岸までが見えた。それゆえ向こう側に行く事が出来た。

 もし、これが城壁などの向こう側が見えないような遮蔽物の先には残念ながら『光速』による瞬間移動は出来ないようだ。見える範囲…という事だろうな…。


「光の精霊のおかげです」


 シルフィさんが優しげな笑顔で僕の呟きに応じる。

 時折吹く風が優しく僕の頬を撫でていく。隣を歩くシルフィさんの手が柔らかい。瞬間移動の際につないだ手、そう言えばつないだままだった。

 

 こんな綺麗な人と手をつないで歩けるなんて正直思ってもいなかった。日本でこんな風に歩いていたらどう見てもリア充確定だ。


 って言うより、観客参加型のバラエティ番組とかで人気の女性タレントが登場すると客席から『かわいい〜』とか声がかかったりするが、シルフィさんを見てしまうと美人の評価基準がそこになる。

 もしかすると客席の歓声は仕込みなのかも知れないが、仮にシルフィさんがそんな番組に出演したらおそらくは誰もが言葉を失い息を飲む、そんな感じだろう。

 その後にどんな女性タレントが出演しても全くの無駄、『無駄無駄無駄ァ!』状態。とてもじゃないが『かわいい〜』なんて言ってもイヤミにしか感じない。そのぐらい差がありすぎるのだ。


 そんなシルフィさんと手をつないでいる、ただ単純に瞬間移動の為につないだ手を離し忘れているだけだと思うが今はそんな偶然がありがたい。

 ズルいのかも知れないけど僕からはそれを指摘しない。そんな事をしたらこの至福の時が終わってしまうだろうから。だからこの手を離したくなかった、だけどそんな時間も終わりを迎える。


 時間にして一時間くらいか…僕たちは森にたどり着き少し入ったくらいの場所に座る事にする。敷き物を広げ、まずはお茶にしよう。

 さすがにこの準備は片手では出来ない、だから名残(なごり)惜しいが手を離す。


「ゲンタさんの手はとても優しい感触ですね…」


 一緒に敷き物を広げている時、シルフィさんがそれこそ優しい微笑みでそんな事を言う。

 えっ!?もしかして手を離すのを忘れていた訳じゃなくて、僕の好きにさせていたのだろうか?


「ご、ごめんなさい!ど、どうしてもシルフィさんの手を離したくなくて!」


 こういう時は正直に言って謝る。悪いと分かっててやってたんだからタチが悪い話なんだけれど…。


「は、離したく…ない…?」


 目の前には明らかに動揺しているシルフィさんがいた。


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[一言] T-BOLANが浮かびました(*´-`)
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