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第163話 たい焼き、新味爆誕!

「世界一、かわいいよ」


 僕のその言葉にアリスちゃんは一瞬固まった。そして再び動き出す、右手を頬に当て『ほわあぁぁぁ』と顔を赤らめる。


「ほんとぉ!?」


「うん」


 可愛いなあ、妹とかあるいは年下の従姉妹(いとこ)がいたらこんな感じなんだろうか…。僕は兄弟がいないし、親戚のイトコの中でも一番下の世代だったからこういう経験が無い。

 もっともアリスちゃんほどの美少女…、ましてやモノホンの金髪碧眼の…。考えてみれば無い物ねだりだ。


「ゲンタぁ!」


 アリスちゃんが飛び付いてくる。


「アリスちゃん。もう少しでカレーが売り切れる、そしたらたい焼きを売り始めるから手伝ってくれる?」


「うん!」



 カレー販売、昼の部が終わった。


 価格はカレーとパンのセットで白銅貨十五枚、日本円にして1500円ほどの金額だ。かなりの高額と言える。ちなみに冒険者ギルドに加入している人や、一緒に販売活動をしている兎獣人族(パニガーレ)の皆さんには白銅貨十枚(シロジュウ)だ。少し割引している。


 やはりカレー人気は凄まじい、次から次へと売れた。オープンから長蛇の列。『これが香辛料って奴かぁ』、町の人々が喜びの表情を浮かべる。マオンさんのパンの評判も良い。


 広場にはいくつもの屋台が出ているが、中央で屋台を出しているハンガスとブド・ライアーは言うに及ばず他の屋台もまた客はほとんど入っていない。

 ハッキリ言ってしまえば親の総取り、一人勝ち。客の流れは完全にこちらにのみ来ている。


 カレーを作っては売り、作っては売りを繰り返す。広場の開場前に冒険者ギルドの関係者には200皿以上を販売していた。さらにおよそ700皿以上を売った。単純に考えれば百万円以上の売り上げだ。


「売り切れたのでカレー販売を終了します。仕込みに時間がかかるので夕方から販売を再開します。よろしくお願いします!」


 大きな声で告げて、手伝ってくれている人に交代で休んでもらう。


「マオンさん、しばらく時間があります。早めに休んで下さいね」


「分かったよ、でもゲンタも無理をするんじゃないよ!」


 夕方以降に販売するパンの仕込みをしながらマオンさんが返事をしてくる。


「大丈夫!ゲンタには私がいる!」


 アリスちゃんが胸を張って言う。


「ありがとね。でも無理はダメだよ」


「うん!」


「じゃあ、新しいメニューを貼らないと」

「私も行く!」


「じゃあこれを持ってついて来て」


 アリスちゃんはカレー販売の後、ずっと僕の横にいて色々と世話を焼いてくれている。なので、看板に紙を貼る作業について来てもらった。


 昨日販売しているから甘いものだと言うのは皆さん知っている。しかし、今日はもう一つの新メニュー『ハム&チーズ』を登場させる。その告知の為に看板にレポート用紙を貼っていく。


『はむ と ちーず の たいやき しんはつばい。くろこしょう ふうみ。はくどうか じゅうまい。げんてい 40しょく(ハムとチーズのたい焼き新発売。黒胡椒風味。白銅貨十枚。限定40食)』


「ゲンタ、売れると良いね!」

「ははは。売れるよ、だってアリスちゃんが手伝ってくれるんだから」


 僕がそう言うとアリスちゃんは嬉しそうに僕の手を握ってきた。可愛いなあ。よし、僕もアリスちゃんにとって良いお兄ちゃんになろう。さあ、新メニューのお披露目だ。



「…なあ、フェミ?」


「なぁに?マニィちゃん」


「ダンナにはさ、もっとこう…こっちからグイグイいった方が良いのかな?アリスの嬢ちゃんみてえに」


「かも知れないねぇ…。ゲンタさんって時々すごく積極的だけど基本的にはあまり来ないもんねえ…」


「その点、姉御(アネゴ)はスゲーよな。ダンナの手を取ったりした事もあるし…」


「まったく…、何を言って…」


「えー、そんな事言ってて良いのかい?もしかしたらアリスの嬢ちゃんが一番最初にダンナをモノにしちまうかもよ?」


「そんな訳…」


「あっ!でも、分かるぅ。ゲンタさんって女の子の方からいくと、基本受け入れるもんねぇ…」


「ッ!?」


「なあ、姉御…。明日は久々の休みだろ…。前に言ってた…一緒にワインを飲むハナシ、いけんじゃね?あの女にガツガツしてねぇダンナが、姉御には自分からコナかけてきたんだからよ…」


「一緒にワインを飲みませんか…でしょう?シルフィさんがワインを好きなのを知ってるからですよぅ。しかも、一緒に飲みたいって言ったセフィラさんたちを断ってまで…。これってシルフィさんの為だけのワインですよぅ…」


「私…だけの…」


「良いなぁ、姉御。それにさ…、酒の力を借りれば姉御…もっとグイグイいけんじゃね?」


「そうですよぅ!もしかしたらゲンタさんもお酒を飲んで積極的になってるかも…」


「おっ!?そうなりゃお互い距離を詰めての接近戦(インファイト)かも!」


「きゃあきゃあ!まさに肉弾戦ッ!?」


「そろそろ私、怒って良いかしら?」


「「すいませんでしたー!」」


「ふう…、冗談よ。…でも、こちらから…か。…良いかも知れないわね…」



 たい焼き販売スタート。


 甘いたい焼きについては昨日も売ったから既に女性たち…と恋仲なのだろう男性も混じって列を成していた。カップル、良いなあ。末長く爆発して欲しい。


 あと、一つ痛感した。レストランとかでクリスマスイブにバイトすると切ない気分になるとよく言うが、まさにそうだ!これはまさに同じ気分だ!…悲しい。


 一定条件を満たし三十歳を迎えた男性は魔法使いになると言うが、クリスマスイブにカップルが集まる飲食店などで働いたら人は狂戦士(バーサーカー)になれる…、って言うかなって良いと思う。間違いない。

 

 それはそうと…新しいたい焼きも宣伝しないと。


「ハムとチーズのたい焼きをお求めの方はこちらに並んで下さい!限定40個しかありませんよー!」


 ナジナさんを先頭に男性たちが列を成した。あんこのたい焼きはマニィさんに任せ、僕は厚切りハムととろけるチーズを半分に切ったものを2個ずつ入れる。

 断面的には、たい焼き生地・ハム・チーズ・チーズ・ハム・たい焼き生地といった感じだ。これは左右同時に生地を焼き始め、早めにそれぞれにハムとチーズをのせる。胡椒を振りすぐにサンドする。

 具に関しては焼くというより加熱だ。チーズがとろけるくらいに。温かいものを食べるような感覚、それが狙いだ。


 もしかするとこれは無理にたい焼きにせず、ホットサンドメーカーみたいな調理器をガントンさんに制作を依頼し、(ホット)サンドイッチを売った方が楽かも知れない。

 でも原材料費はたい焼きの方が格段に安い。このへんは後々考えよう。今後も屋台をやる事があれば…だが。


「はい、アリスちゃん!」


 隣に立つアリスちゃんにハム&チーズのたい焼きを包装紙に包んだモノを7つ、容器に入れて渡す。


「うん、『はむ あんど ちーず』です!」


 その隣ではシルフィさんが代金を受け取っている。


「うおおっ!中身がこんなに伸びて!」


 ナジナさんがとろけるチーズに感動している。


 うーむ、相変わらず美味さを体全体で表現していくスタイル、今後の観衆の前で新メニューの試食をやろうかな。ナジナさん、良い反応(リアクション)するし…。


 しかし、このハム&チーズのたい焼きは宣伝する必要はなかった。あっと言う間に40個、完売してしまった。その中にはギルドマスターのグライトさんやドワーフの一行もいて、内部消費が激しい。


 むしろ、一般のお客さんから『もう無いの?』と言われる始末。さすがに無いものは作れない。材料が無いので完売ですと正直に伝える。


「また屋台を出す時によろしくお願いします」


 そう言ってノーマルの…、あんこが入ったたい焼きにシフトする。

 ちなみにあんこのたい焼きも完売。合計680個のたい焼きが次々と消えていったのである。やはり甘いものは強い。


 さあ、後は夕方からのカレー販売を残すのみ。

 軽く仮眠して備える事にする。寝転がると、シルフィさんが例の魔法をあらかじめかけていたのだろう。葉っぱの毛布が体にかかる。


「シルフィさん、ありがとうございます」


 僕の右側に座ったシルフィさんにお礼を言って休む事にする。


「ゲンタ、私も!」


 メイド服のまま、シルフィさんの反対側、つまり僕の左側にアリスちゃんが僕の腕を抱えるようにして横になる。


「うん、おやすみ」


 そう言って僕は目を閉じる。アリスちゃんも一緒にお昼寝するようだ。僕がもう少しで眠りの世界に落ちようという頃、シルフィさんの声が聞こえたような気がする。


「たまには…、積極的に…」


 葉っぱの毛布の下、誰からも見られない死角。そこにあった僕の右手をしなやかで柔らい感覚が包んだ。

 シルフィさんだろうか…?だが、答えは分からなかった。


 その答えを確かめる前に僕の意識は眠りの世界に入り込んでいたのだから…。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >一定条件を満たし三十歳を迎えた男性は魔法使いになると言うが、クリスマスイブにカップルが集まる飲食店などで働いたら人は狂戦士になれる…、って言うかなって良いと思う。間違いない。 名言だ今年…
[良い点] ついにワインの約束が果たされる?!色々と飲ませたら楽しそうなのがあるので次回の楽しみにしておきます(*´-`)
[一言] 早くあの二人のクズが潰れるのを見たいですね。
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