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第161話 『商売敵たち』。高級(と思っている)品で巻き返しを謀(はか)る二人


 ゲンタたちが広場に到着してからおよそ小半刻(こはんとき)(一時間弱)…。

 今日の販売の為の下準備を終えた頃の事である。


 ドブ川横の広場の外れだが、スペースだけは広い。昨日の広場中央よりは二割か、三割か広いスペースには既に多くの人がいる。

 ほとんどが冒険者たちだが、中には珍しい面々もいる。


 まずはヒョイオ・ヒョイ率いる社交場(サロン)に属する者たち、兎獣人族(パニガーレ)の少女たちに歌姫メルジーナ。弦楽器(リュート)を持つ者の姿も見える、おそらくは歌姫の伴奏をするのであろう。


 そしてゲンタたちの屋台の横で店を開く者が一人。様々な雑貨を広げているノームの商人、ナジナによく『爺さん』と言われては『爺さんじゃねえ』と言い返している雑貨屋の主人。


 冒険者ギルドの関係者という事で既に現地入りしている。その数はゆうに二百人を超えていた。まさに他種族連合軍、そのつながりのどこかにこの世界の住人ではない者の存在があった。



「ライアー氏、今日は忙しくなりそうだな?」


 そんな風に開店準備中のブド・ライアーに話しかけてきたのは商業ギルド組合長(ギルドマスター)の息子にして小麦をはじめとした穀物やパンを扱う通称『粉屋(こなや)のハンガス』。


「広場に入って来る時にもう行列が外に出来ててよう、小耳に挟んだんだが香辛料(スパイス)を使った料理を出すそうじゃねえか!。その噂で外は持ちきりだぜっ!ありゃあアンタん屋台(トコ)の事だろう?その旗にも書いてある、『香辛料(スパイス)入りスープってよォ!」


 ブド・ライアーはふふんと鼻を鳴らす。冒険者ギルドのものと比べるとあまりにも小さい、人の背丈よりはやや高い旗竿に品名を書いた布を取り付けた旗。


 高さにして5メートルを超える冒険者ギルドの幟旗(のぼりばた)に比べればミニチュアみたいなものだが、それでも近くに来れば何を売っているかは分かる。冒険者ギルドのマネをスケールダウンして作ったものに過ぎないが、商業ギルド副組合長(サブマスター)ブド・ライアーの自信作であった。


「耳の早い事で…。その通り、今日は勝負をかけるつもりでねえ。今日は全ての客を(さら)わせてもらうつもりだ」


 ニヤリ、ブド・ライアーは自信アリとばかりに不敵に微笑んだ。


「へえ…、それなら俺も(おンな)じ事考えてンだ。ちっとばかしよォ…、質の良いパンを持って来てンだ。普通(フツー)の黒パンじゃ稼げねえからよ、少し高級なモンも持って来てるんだ。(ライ)麦に小麦(シロ)を二割ばかし混ぜた高級なヤツをよォ…」


 ブド・ライアーに負けず劣らずこちらも手応(てごた)えアリという表情のハンガス。


「ほお、そりゃあ良い。パンとスープは相性が良い。こりゃあ力を入れ過ぎたか?他の店に客が行かねーんじゃねーか?」


「そりゃそーだろ!大店(おおだな)の本気だぜ!しかも始まる前から町の衆が噂してやがるんだ。迷いなくここは大行列!儲けは俺たちの総取りだぜ!」


「それにしても…町の(やつら)も案外と耳ざといな。香辛料(スパイス)入りスープの事は秘密にしといて開店したら発表しよーって思ってたんだけどな」


「まあ、()ーんじゃね?秘密なんてどっかから漏れるモンだ!それが早いか遅いかってだけだ。逆に良かったんじゃね?最初(ハナ)っから客が押し寄せて来るンだからよォ」


 それもそうか…。ブド・ライアーはとりあえず納得した。


「それよりよォ…、ちょっとこれから飲みに行かね?朝からやってる酒場(トコ)知ってンだ。女もいるしよォ…。そこでこれからこの町をどうしていくか…計画()でも描きながら()んねェか?」


 悪くねーな…、ブド・ライアーはそんな風に思った。昨夜はなぜかお目当ての社交場(サロン)酒場(バー)もなぜか臨時休業だった。お目当ての兎獣人族(パニガーレ)にも会えず(じま)いだった。

 おかげで飲む気が失せ帰宅してしまった。欲求不満はそれなりにある。


「行くか…。手代どもに指示だけだしとけば大丈夫だろ。よし、お(メェら)、スープをどんどん作っておけ!かまう事は無え、作れば作っただけ今日は売れる!逆に品切れなんか起こしてみろ、そしたらお(メェ)らの給金は今日はナシだかんな!」


「俺もやっとくか…。おい、誰か商会(みせ)に走ってパンをどんどん焼けと言っておけ!そンで、この広場にガンガン持って来い!!黒パンじゃねえ、高く売れるように小麦を混ぜたヤツを中心にな!いいか?今日は祭りだ、派手に作って派手に売れ!パンを山と積んでよォ、町の(ヤツら)に買い尽くさせろ!」


 二人とも強気と言うか、ノーガードで全力攻撃に行くような指示を出した。当然、売れれば大きな利益が見込まれる。

 しかし、それはあくまで売れたら…の話である。


 少なくともその日の滑り出しを見てからでも指示を出すのは遅くなかった。まして明らかに売れていないのにその理由が分からない状況で強気な指示を出すのは狂気の沙汰(さた)だ。


 さらにブド・ライアーは致命的な見落としをしている。昨日、自分たちがたくさんの在庫(スープ)を抱えて帰る時に冒険者ギルドの販売状況はどうだったのかを…。

 ひっきりなしに行列が続くあの状況を『ただの幸運(ラッキー)』と位置付け、その理由をあえて知ろうとしなかった事…。焼きそばを…、あるいはたい焼きを見て、そして食べてみれば勝てない事は明らかだ。


 その分析をしておけば、まだ手の打ちようはあった。大損害を出さない為の…、あるいは冒険者ギルドとの付き合い方やゲンタという商人とのやりとりがわずかな可能性とは言えあったかも知れない。


 そんな事を何ひとつ考える事なく、ハンガスとブド・ライアーは飲みに行ってしまった。夕方近くになり広場中央に戻った時、どんな結果ぎ待っているか…、二人は知る(よし)も無かった。

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