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第159話 『塩商人』ブド・ライアーの空振り & 明日に向けて

 塩商人ブド・ライアーは自身の商会に帰り着いた。


 スープが売れない、そもそも客が来ない。やはりドブ川は所詮(しょせん)ドブ川なのだ。景観悪く、悪臭が(ただよ)う最悪の場所。

 こんなところでは売れるものも売れない。簡単な事だ。


 では、なぜここに屋台を置いたのか?簡単だ、冒険者ギルドという商売の素人が大繁盛をしたからだ。ブド・ライアーは考えた、景観が良く悪臭も少なかったのだろう。

 それがたまたま重なって人の流れがそちらに行き、大繁盛となった。ブド・ライアーはそう結論付けた。


 その点、今日は風向きに恵まれなかった。ただそれだけの事だ。ゆえに明日はどうするか?簡単だ、元の位置に戻す。あの下水の流れ

る川べりに奴らの屋台を開かせる。


 代わりに俺が広場の中央に屋台を戻す。元々あの場所がこの広場の一等地だ。人は当然集まる、やはりこの場所にしておけば良かったのだ。

 所詮、ゴミ同然の奴らだ、ドブ川の横で良い。


 広場を後にする際、商業ギルドの名前は何と言ったか…あの顔色の悪い奴に明日の場所変更を言い渡しておいたから問題無いだろう。


「明日は広場の中央で屋台を開く、準備を忘れるな!!」


 手代たちに言い渡す。何やらホッとしたような表情を浮かべている。まあ当然か、一日中ドブ川の横にいてはな…。


「それと、今すぐ傘下にある塩の小売店の奴らに連絡(つなぎ)をつけろ!明日、全店から手伝いを出せとな!」


 ざわっ、俺の発案に一同が(ざわ)めき出す。ふふん、低能(バカ)には理解が出来ないか…。


「明日は大きな商売(あきない)になる!だから人手がいるんだ!傘下の店から人を寄こさせる!なぜなら…」


 聞いて驚け。俺はタメを作って言ってやった。まさに秘策を披露するのだ。


「スープに香辛料(スパイス)を入れる!そうすりゃ、町の(バカ)共はありがたがって土下座してでも買いに来る!!」


「おおっ…」


 手代たちが思わずといった感じで声を上げた。


「さあ、分かったら行け!!脅してでも人手を集めるんだ!」


 手代たちが町へと駆け出して行った。


「さて、残っている奴らは旗を作れ!文言(もんごん)はそうだな…、『ブド・ライアー商会』と『香辛料(スパイス)のスープ』ってなあ!」


 今日の屋台営業で一つだけ冒険者ギルドのやり方で感心したものがあった。幟旗(のぼりばた)だ、あれは良い。何をやっているかが一目瞭然、どうやらバカはバカなりに考えていたのかも知れない。


 あれなら愚かな町の(やつら)にも何をやっているのかは分かりやすい。ああ、バカだからバカ同士の考え方が分かるのか…。それは盲点だった。


 まあ良い。明日になれば全て取り返してやる。


「おい、昼間のスープはお前らで食っていて良いぞ。俺は出てくる」


 そう言い残し俺は店を出た。


 こんな上手くいかなかった日は憂さ晴らしに行くに限る。町の社交場(サロン)、そこには俺の気に入っている兎獣人族(パニガーレ)がいる。そこで女給(ホステス)として横に(はべ)らせ飲むとしよう。俺は馬車を出させた。



 ブド・ライアーは知らない。


 絶対の自信を持って繰り出す香辛料(スパイス)入りのスープに対して、ゲンタが用意したのは異世界の老若男女に大ウケしている香辛料をふんだんに使い味も大人気のカレーである事…。

 さらに香辛料を苦手としているエルフ族や女性ウケも良いクリームシチューをニの矢として準備をしている事…。


 この事を事前に知っていれば、売り上げ勝負の行方がどうなるか…気まぐれな勝利の女神でなくとも容易に想像がつく事に…。



 ブド・ライアーは知らない。


 憂さ晴らしに向かった社交場(サロン)酒場(バー)も臨時休業している事に…。お目当ての兎獣人族(かのじょたち)がいまだに広場にいて、ゲンタの屋台もヒョイオ・ヒョイの野外酒場も大盛況である事を…。


 ブド・ライアーは今夜のお目当ても、明日の目論見(もくろみ)についても既に空振りしてしまっている事を思いもしなかったのだ。



「いやー、凄い売り上げですねえ」


 一日の仕事を終え、だいたいの後片付けを終えて販売を手伝ってくれたスタッフや、共に仕事をしたヒョイさんや兎獣人族(パニガーレ)さんたち、メルジーナさんらとお茶を飲み(くつろ)ぐ。


「うーむ、相変わらずゲンタさんの紅茶は素晴らしい…」


 ティーパックの紅茶、柑橘系の香りを()き込んだアールグレイを楽しみながらヒョイさんが呟く。横でシルフィさんが頷いている、やはり果物に目がないようだ。

 マニィさんたちは慣れた緑茶がお気に入りのようでそちらを飲んでいる。


「それにしても…。この『付箋(ふせん)』というのは便利ですな。それにこの『ぼーるぺん』、屋外でこんなに注文が楽に書き記せるとは…」


 さすがは社交場(サロン)などを手広くやっているヒョイさん。その目は経営者のそれに変わっている。


「良ければその一揃(ひとそろ)いお持ち下さい。もし役に立つようなら次回からはお取引をさせて頂ければ…」


「ほっほっほ!それは是非…」


 座って話している僕の右隣には現在メルジーナさんがいる。


(わたくし)、少し酔ってしまいまして…」


 お酒で上気した頬と下向きの眉…いわゆる困り眉がとても似合う。微妙に僕に体重を預けてくるのがちょっと(なまめ)かしくもある。

 フェミさんとはまた違ったタイプの接近戦型"(インファイトタイプ)だ。


 明日もヒョイさんたちはオープンからラストまでいてくれる事になった。明日はカレーとたい焼きを売る。そしてもう一つ、秘密兵器がある。

 僕たちの大きな目標が叶うんだ!


 明日もやるぞ!この商戦に勝ち、ハンガスとブド・ライアーに仕返しを!

 そして、復活の第一歩を踏み出すんだ!


《次回予告》


 一日目の屋台の売り上げはゲンタの一方的な勝ちであった。そして、二日目にゲンタが繰り出したのはカレーとクリームシチュー。そしてもう一つの秘密兵器であった。それこそ悲願の…、大きな目標であった。


 次回『異世界産物記』第160話。『僕がパンを売る理由。〜復活のM〜』

 あの悲しみにさようなら。



《皆さまにお願い》


 面白かった、続きが気になる、などありましたら是非評価や感想をお寄せ下さい。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あちらこちらにどっかできいたような奴らが
[良い点] 常にブドライアーが一歩先を行かれてるところ [気になる点] ゲンタの悲願とは?カレーを何にかけるか楽しみにしております
[一言] ブドライアーのモチーフは典型的な「勉強できる系バカ」なのかね
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