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第15話 冒険者ギルド(前編)。交渉難航、納品するのはパンですが。


 表通りにあった商人組合(ギルド)とは異なり、冒険者ギルドは表通りから一本裏に入った通りにあった。


 具体的に言えば、先程まで僕とマオンさん、そしてミアリスさんが座っていた大きな石がある通りをそのまま西へと少し歩いた場所である。


 マオンさんの家からなら、商人ギルドに行くより冒険者ギルドに行く方が距離は短かい位置にあった。


 営業を続けていくなら家から近いのはありがたい。その前に採用して貰えるかどうかだけど。


 腕時計をチラッと見れば、時間は午後三時半を過ぎている。商談をするならラストチャンスになるかも知れない時間だ。僕は気合いを入れて声を張る。


「行きましょう、マオンさん」


「ああ!ゲンタ!(わし)はゲンタについていくよ」


 残念ながらミアリスさんは既にいない。


 教会の仕事に戻らなければならないそうで、彼女とは再会を約して先程別れたところだ。この町にいるなら、いつかまた会えるかな。でも、その為には頑張らないと…。


 レンガを用いた三階建ての商業ギルドに比べて、冒険者ギルドは木造の二階建てであった。しかし、床面積は冒険者ギルドの方が広い。


 きっとこの中には海千山千(うみせんやません)の強者達がいるんだろうな…。


 普段なら通り過ぎるような所だけど今日はそうも行かない。勇気を出してギルドの扉に手を掛ける。商人ギルドのような豪華さは無いが質実剛健、分厚い扉が手に重い。僕はそれに負けないようにグッと押す手に力を込める。左右両開きの扉に僕はそれぞれ両手を沿えて力を込めて押し開く。僕たちの未来の為に。


 そして僕は冒険者ギルドへの第一歩を踏み出したのだった。



 冒険者ギルドに入った僕はまず開けた扉を押さえる。マオンさんに入ってもらい扉を閉める。


 焦るな焦るな、ゆっくりで良い。マオンさんの歩調に合わせる。周りを見渡せば冒険者らしき人はいない。彼らが仕事から帰ってくるとすればもう少し遅い時間なのだろうか。


 だけど、他に人がいないのは好都合だ。僕は人前で何かするというのに慣れていない。せっかく来たのに言いたい事もロクに言えず『ハイ終了』にはなりたくない。


 意を決しまっすぐにカウンターへ向かう。


 扉を入って正面から左奥にかけてがカウンターになっている。受付には三人、全て女性。ここから一番遠い左奥の受付嬢はエルフのようだ。まっすぐ歩いてしまったので一番右端にいた受付さんに声をかける形になってしまった。エルフ女性の存在に最初に気付いていれば…。


 いや、雑念はいけない。ここからが僕の戦場だ!


「いらっしゃいませ。本日はどのような御用件でしょうか?」


 入り口からまっすぐ歩いて来た席に座る、向かって一番右の受付嬢が応対する。ふわりとした長い茶色の髪が動作に合わせ小さく動く。どこの世界でも受付さんは可愛い人がやるものなんだろうか。異世界というのもその例外ではないらしい。


「こんにちは。実はこちらに商品を納品させて欲しいのです。冒険者の方が討伐以外にもこちらに納品して収入を得る事があると聞いたもので…」


「分かりました。一般の方の利用ですと買取価格からギルド所定の手数料二割頂きますがよろしいですか?」


 あ、手数料が掛かるのか…。


「冒険者の方が納品すると…手数料はどうなるんでしょう?」


「その場合は、手数料はかかりません。元々の買取価格はギルドの取り分を引いてありますので」


 となると、長い目で見れば加入した方が良いのか…。


「ちなみにこちらのギルドに加入するには何か資格は必要ですか?あと、継続するには?」


「新規のご登録には銀貨が一枚必要です。更新については一年に一回、こちらも銀貨一枚です。ちなみにお客様…、失礼致しました、まだお名前を伺っておりませんでした」


「あ、ゲンタと言います」


「ゲンタ様、こちらにご入会なされますか?薬草などの納品を中心にされる方もいらっしゃいますよ。冒険者でなくても薬師(くすし)の方で調合した薬草を納品されたりとか…」


「良かった、戦う力が無くても入会はできるんですね」


「でも、戦えた方が良いのは間違いありません。先程の薬師の方は自分で採集に行かれますし、必要としない余った分を納品されています。採取するのは森の中が(おも)ですから。例えば猛獣に出会(でくわ)した時に身を守る(すべ)があるに越した事はありません」


「身を守る術…」


 僕は先程の商人ギルドでのトラブルを思い出していた。力こそ正義、そこまで言うつもりは無いがここは日本のような法治国家ではなさそうだ。その日本だってロクでもないやつが大手を振って歩いていたりする。イヤな世の中だ。


「戦うのが苦手な商人の方は護衛に冒険者を雇う事もあります」


 なるほど…。護衛か…。でも高いんだろうなあ…。


 さて、どうしよう?長い目で見れば入会した方が得だが….。


「ちなみにゲンタ様、先にお伺いいたしますが納品される物はなんでしょう?薬草でしょうか?それとも鉱石等でしょうか?」


「あ、はい。こちらのパンになります」


 僕は担いでいたリュックを前に回し、ファスナーを開ける。


「え?パン?」


 受付嬢の声がもの凄く意外な物を言われた驚きに満ちている。


「し、失礼ですが…パンって、食べるパンでしょうか?」


「は、はい。食べるパンです」


「そ、それでしたら私共(わたくしども)冒険者ギルドではパンは取り扱っておりません。食べる物では…例えば狩猟した獣の肉とか珍しい果物などぐらいで…」


 受付嬢がすまなそうに説明する。


「それにパンはありふれております。すぐそこにも商店がありますし、…あと、横におられるのは、確か…辻売(つじうり)の方でしたよね?パンを売っている…」


 どうやらこの女性はマオンさんの事を知っているようだ。


「そちらの方のパンなら質が良いのを知っている人も少なくないはず、買われる方も多いでしょう。それでしたら直接町中でお売りになられた方が余計な費用等もかからず良いかと思いますが…」


(わし)はただの付き添いじゃ…。納品したいのはこの…、ゲンタのパンなんじゃよ」


「し、しかし、パンを取り扱うのは無理があります。獣肉なら冒険者ギルドで解体したりそれを運搬する事もあります。また、皮や牙などは被服や矢に付ける(やじり)にもなりますが加工を要します。その為、工房や商店に卸す為に当方で保管、またはする為に納品を受け付けております。物によっては冒険者の方と買い取る商会に伝手(つて)がないからその中立ちをする為に当ギルドが納品を受け付ける場合もございます。しかし…パンはその…、そんな必要はなく….」


 確かにそうだ。


 日本の個人のパン屋さんだって自前のパン焼き窯でパンを焼き、それを店頭に並べて販売している。どこか他の商店に(おろ)すにしてもわざわざ仲介なんかしないで直接納品するだろうし…。


「そう言った訳ですので、申し訳ありませんが…」


 受付嬢がどうやら私どもではお力になれそうもありません、そんなお断りの定形分を口にしそうな雰囲気になる。


「ゲンタ!」


 マオンさんが僕の名を呼んだ。


 分かっています、マオンさん。ここが勝負所だと。


 開けたリュックのファスナーに手を入れる。包装用ビニールを触れた時独特のカサッという音を立て、手に掴んだのは今日食べた誰もが(二人だけだが)感動した勝率100パーセントのジャムパン。その包装を開ける。


 取り出すと同時に、受付嬢のお力になれそうにありません』の声が響く。結論を出すその前に一口これを食べてみて下さい、僕がそう口にしようとした時、


「ここから先は、私がお話をお(うかが)いいたします」


 透き通るような声が冒険者ギルド内に響いた。

今話で『イカした未来の為に』という言葉を用いました。


これはアニメ『ドラゴンボール』の初期、少年時代の悟空がレッドリボン軍の本部にこれから乗り込むという場面に流れる劇中歌のフレーズです。


この時、悟空はレッドリボン軍に雇われた殺し屋桃白白に殺害されたウパの父ボラを生き返らせる為に必要なドラゴンボールを手に入れレッドリボン軍を壊滅させる為にたった一人で乗り込みます。


ウパとボラの為に悟空が我欲なく命までかけて乗り込んでいく所に、騙したり傷付けたりするような人間には醜い部分がありますが、世の為人の為じゃないですけど私心を捨てて誰かの為に尽くせる素敵な部分もあるのが人間だと思っています。

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[一言] 説明臭い話が長い、テンポが欲しい
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