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第153話 たい焼きを売る

「よしッ、坊や!幟旗(のぼりばた)を下ろすぜ!準備は良いかッ!?」 


 鳶職の棟梁(ゴロナーゴ)さんの声が響く。


「はいッ!バッチリです!」


「ならいくぜッ!」


 ゴロナーゴさんが旗竿にした支柱のてっぺんで仕掛け紐を外すと『ばさあッ!』と音を立てて垂れ幕が落ちてくる。『たいやき』と大書(たいしょ)した布地が(ひるがえ)る。支柱とは反対側の下辺の角から伸びた紐の先に結んだ(くい)をガントンさんが地面に打ち込む。


「あらよっ、どっこい!」


 わずかなシワも無くピンと張った旗の布地を支える支柱のてっぺんからゴロナーゴさんがアクロバティックに下りてくる。下でそれを眺めていた人々から歓声が上がる。

 まるで正月に行われる出初(でぞ)め式のようだ。そしてゴロナーゴさんは軽やかに地面に着地する。


「おじさん、すごーい!」

「舞台にも立てるわよー!」


「よ、よせやい!褒めたって何にも出ねえぜ」


 口ではそう言っているが、ゴロナーゴさんはまんざらでもなさそうだ。


「おおい、坊や!看板はこれで良いだべか!」


 ゴントンさんが畳にして二畳(にじょう)くらいの大きな看板を立ててくれた。そこにいつものレポート用紙に文字を書いて貼り付けた。

 レポート用紙一枚につき一文字、極太黒マジックを使って書き上げたものだ。


『しんはつばい!さかなのかたちをしたあまいもの!いっこ、はくどうかごまい(新発売!魚の形をした甘いもの!一個、白銅貨五枚)』


 これで準備は出来た。

 僕の販売するたい焼きは焼きそばほど手間はかからないし、材料も粉が二種類とつぶあん。後は少量の油だけ。

 手間が無い分だけ疲労も少ないだろう。夜もあるし体力を温存していこう。僕は手伝ってくれる皆さんに向き直って話を始める。


「じゃあ、皆さん。先程皆さんが食べてみて美味しいと言ってくれたので僕も自信を持って販売できます。焼きそばほどは忙しくないと思いますので、夜に備えて体力を維持して下さい」


「ダンナぁ!そりゃ無理ってモンだぜ!」

「えっ?なんでマニィさん?」

「後ろ、見て下さいよぅ…」


 振り返ると…、ずらり…。人がいっぱい並んでいる。


 先頭に並ぶのはシルフィさんの妹弟(きょうだい)のエルフ五人組パーティ。次にナジナさん、アリスちゃんを肩車したウォズマさんに連れ添うナタリアさん。その後ろにはメルジーナさんに兎獣人族(パニガーレ)の皆さん、さらにヒョイさん。


「あたし、もう一回食べちゃうもんね!」

「あたしもー!」


 兎獣人族の皆さんは割と食欲が旺盛だ。さらに女性たちや甘党の冒険者たちが続いている。


 これはまずい、早く再開しよう。


「すいません、皆さん。大変とは思いますが…、力を貸して下さい!」


 円陣を組んだみんなが頷く。僕は手の平を下にしてスッと右手を前に出した。マオンさんの手が乗る。


「マオンさん、無理はしないで下さいね。明日はマオンさんに大活躍してもらうんですから…」

「大丈夫さ、疲れたら休むけどね」


 ニヤリと笑ってマオンさんと僕は頷き合う。


 それからみんなが手を置いていき、最後にサクヤたち四人の精霊も手を乗せた。


「ふふっ。成功間違い無しですね。私たちには精霊もついています」


 シルフィさんが嬉しそうに呟いた。

 みんなで頷き合う。そして僕が最後の一声をかけた。


「頑張ってぇ…」

「「「いきまっしょーいッ!!」」」



「もうすぐ7個焼けますぅ!」

「あー、緑茶(みどりのこうちゃ)がない!」

「新しいのがそっちの丸いヤカンのに入ってるよッ!」

「焦るなよッ!絶対に焦るなよッ!」

「はいっ、白銅貨五枚(シロゴ)になりまーす!」

「セラ、ホムラ、この空いたヤカンにお湯を満たして。お茶っ()を入れるからねッ!」

風精霊(エアリーヌ)よ、十分に味が出た緑茶(みどりのこうちゃ)()まして」

「へへ、オレも焼くのが上手くなってきたぜ!」


 現場は大忙し、あっ、もうタネが無いや…。


 バケツに薄力粉を4キロ、片栗粉を400グラム入れる。


「セラ、これにさっきの倍の量の水を入れてかき回してもらえる?」


 すぐにバケツに水が満たされ水流でかき混ぜられる。これで100人分以上のタネになる。注ぎ器にタネを入れる。隣のマニィさんのタネも切れそうだ。


「マニィさん、タネ入れますッ!」

「あいよっ!」


 これでしばらく大丈夫か…。よし、焼くのに専念しよう。


「大繁盛だな、坊や!」

「あっ!ミケさん!」


 たい焼きを受け取ったミケさんから声がかかる。


「面白いな、これ!魚の形してて、何より甘くて美味(うめ)え!」


「気に入ってもらえて良かったです」


「ああ、冒険者(ウチ)ギルドの奴らも喜んでるぜ。大剣なんか…ホラ、また並んでるぜ」


 あっ、確かに。たい焼きを美味しそうに口にしながらナジナさんがまた行列の最後尾に向かって行った。うーん、甘い物好きなんだなあ。


「じゃあな、頑張れよ。アタイはゴロナーゴの親分にちっと挨拶してくらあ」


「はい!」


 うーん、順調だ。もう三百個以上は売れている。粒あんは30キロ仕入れてるから、大体600人分の材料になる。たい焼きの折り返し点はもう過ぎている。


 凄いよなあ…。これならたい焼き完売で売り上げ百万円か…。


 そんな事を考えていた時、事件は起こった。

 キャーという女性の悲鳴。見れば行列を押しのけてやってくる連中がいた。


「テメェらよぅ…、誰に許可得(ことわっ)てココで店開いてンだよ!」


 ガラの悪い奴らが十人ばかりやってきたのだった。

《次回予告》


 突如現れたのガラの悪い連中。店をたたんで失せろ、売り上げは置いていけ、逆らうようなら容赦はしねえと脅しをかける。

 なんて事だ、屋台はあきらめなければならないのか?ゲンタの身に危機(と言う程のものではないが)が迫る。

 次回、『異世界産物記』第154話。『汚物は下水に流すもの』。ざまあ回です。ご期待下さい!



《皆さまにお願い》


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― 新着の感想 ―
[良い点] 汚物はまとめて消毒だ! [気になる点] ところで最初から見返していたのですが、商業ギルドのマスターってなにしてるんですかね?更新料を値上げしたりとかやってることは酷い。全部の支店が値上げし…
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