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第149話 開戦

 海鮮塩焼きそばをアテに酒を飲むドワーフと猫獣人族(キャトレ)の皆さん。どうやら評判は上々、幸先が良い。


 だが、売るのはあくまでもソース焼きそば。塩焼きそばはあくまでもガントンさんやゴロナーゴさん向けである。彼らがほろ酔いになってきた頃、広場に町の人たちが入り始めた。


「ガントンさん、ゴロナーゴさん。飲み始めた所すいませんが…」


「おっ、町の衆のお出ましかい!?準備は良いかドワーフの?」

「いつでも良いわい!」


 僕がガントンさんたちに声をかけると、彼らは手筈(てはず)通り準備にかかる。そうこうしている間にもぞろぞろと、町の人たちは広場の外れ…前回の僕たちの出店場所に向かって行く。


 その間にガントンさんは二階建ての家屋の屋根くらいだろうか、その高さくらいある支柱を立てる。そしてゴロナーゴさんら猫獣人族(キャトレ)の皆さんが支柱を支えるように周りの樹木などを使って支柱がまっすぐ立つように先端から伸びる数本の(ひも)を結び付けていく。

 さらにもう一本、手際(てぎわ)良くテキパキと立てていく。


 その頃には広場に入ってきた人たちが川べりに押しかけていた。

 だが、落胆しているらしい。そのうち、落胆やとまどいが怒りに変わっていったのだろうか怒号に変わっていく。


「おい『やきそば』じゃねーのかよ!?」


 一際大きな怒号がこちらに聞こえてきた。なるほど、前回と同じ焼きそばの屋台だと思ったら違って怒りを感じた訳か。

 よし、仕掛けるのは今だ。


「サクヤ、カグヤ、川べりを綺麗にするのはもういいよ」


 分かった、とばかりに光の…闇の…十人ずつの精霊が横一線に飛んでいく。まるで航空ショーのようだ。そして川のあたりでクルリと一回転。すると、あれだけ綺麗だった川がたちまち元のドブ川に戻っていく。


「それ〜、たいきゃく〜!!」


 もし、彼女たちが話せるのならきっとそんな風に言ってそうな感じで戻ってくる。


 川べりはさらに混乱を増した。おそらくは悪臭ただよう元の環境に戻ったのだろう。怒声はさらに増していく。中には帰ろうとしている人もいる。


「ん…、風向きによっては臭いがこちらにも来るね。カグヤ、遮断(しゃだん)できる?」


 にこ…、彼女は静かに笑い再び他の闇精霊(シャルディエ)たちと飛んで行き川べりのあたりで何やら一回転、一瞬ボヤッと闇色の光幕(オーロラ)のようなものが川べりの土地に沿って張られたように見えた。

 なるほどね、ドブ川の悪臭を川べりの場所だけにとどめたんだ。あれだと悪臭に逃げ道は無くあそこだけにこもる事になる。


 あれでは食べ物を売る店としては致命的だろう。よし、こちらは次の一手だ。お客さんを呼ばなければ。


「ガントンさん、ゴロナーゴさん、お願いします!」


 分かったァと声がかかりバサッと音がした。先程立てた支柱…あれは旗竿(はたざお)だ。ノームのお爺さんの所で買った布地、これを旗にした。

 ペンキで目立つように『ぼうけんしゃぎるど』、『やきそば』と大書(たいしょ)してある。


「おおっ!なんだあれはァーッ!!」

「冒険者ギルドって書いてあるぞ!」


 川べりにいた人たちがこちらに気付いたようだ。


「や、『やきそば』って書いてあるぞ!」

「そうすると、やっぱりここの屋台は偽物かッ!」

「急げッ!あっちだ!」


 押し合いへし合い、町の人々がこちらに向きを変えた。


「へっへっへっ。兄ちゃん、随分と派手な店開きじゃねえか!」


「ま、おかげで冒険者(オレたち)は労せずして『やきそば』にありつける訳だけどね」


「ナジナさん!ウォズマさん!」


「ゲンタ、私もいるんだから!」


 ウォズマさんの愛娘、小さなアリスちゃんが背伸びをして自分を大きくアピールする。

 ダン君、ギュリちゃんに焼きそばの盛りつけと、会計を任せる。


「アタイらもいるよッ!」

「我らもだ!」


 ミケさんら姉弟パーティ、イールさんたち男人魚族(マーマン)の三人衆。


「こ、これは『らめえぇぇ!?ん』と似てはいるが異なる…。しかし、どんなものでも受けて立つ…、それがこのラメンマの流儀(りゅうぎ)よ!!」


 犬獣人族(ドギーマ)狩猟士(ハンター)ラメンマさん、それに毎朝販売しているパンを贔屓(ひいき)にしてくれる冒険者の皆さん。


「シルフィのお姉様に聞いて来ましたよ、ゲンタさん。甘いものも出すとか…」


 シルフィさんと同じ里で育った妹弟(きょうだい)、セフィラさんたちも来ていた。きっと甘いもの狙いだろう。

 営業開始から売れ行きは好調、いや絶好調だ。既に三十人分は右から左へと売れていく。追加をどんどん焼いていく。


 肉、野菜の順に焼いて麺を投入。この麺は1パックで1キロ、調味料とかは付いていない業務用のものだ。

 じゃあああッ!!1.8リットル入りの取手(とって)の付いた大きなペットボトルからこれまた業務用の焼きそばソースが鉄板の上で大きな音を立て弾ける。


「コレは楽で良いよぉ!前の粉みたいやつは振りかけてから水をかけて…だったもんねえ」


 マオンさんが以前の粉末ソースから液体ソースに変わった事の感想を嬉しそうに語る。


 カカン、カン、カンッ!具と麺を混ぜる鉄のコテ、お好み焼きをひっくり返すのにも使えるそれで少し派手目に焼きそばをかき回す。


「ゲンタ!!」

「旦那様ぁ!」


 そこに兎獣人族(パニガーレ)のミミさん、女人魚族(マーメイド)のメルジーナさんがやってきた。きゃっ、きゃっ、後ろにはさらにたくさんのウサ耳、ミミさんの仕事仲間の兎獣人族の女の子たちがいる。もちろんヒョイオ・ヒョイさんも一緒にいた。


「ほっほ。ゲンタさん、この子たちが今すぐ行きたいと聞きませんでね。こうして押しかけてしまいました」


「えー、ヒョイおじさんも『やきそば』食べたいって言ってたよー」


「そうそう!あの人参(キャロット)牛酪甘煮(グラッセ)もまた食べたいって言ってたしぃー!」


「おっと、これは痛いところを指摘(つか)れましたな!」


 笑いながらヒョイさんが応じる。


「なら、作っておきましょう。小半刻こはんとき)もあればできますので…」


「さすがゲンタ。じゃあ、今日は子供作る?」

「作りませんッ…いたたたた!」


 ぎゅうッ!僕の太ももに痛みが走る。見ればアリスちゃんが屋台の内側に入り込んで来ていて僕を力いっぱいつねっている。


「ぶぅ、ゲンタ!また違う女の人とばっかり!しかも私の知らない人だし!」


 アリスちゃんは大変なご機嫌ななめだ。


「ア、アリスちゃん。そんな怒らないで…」


「知らないッ!」


 プンスカしているアリスちゃん、しかし美少女というのは得だ。そんな表情さえ可愛らしい。


「何見てるのッ!」


 不機嫌さを隠そうともせず、アリスちゃんが僕の顔を見て悪態をつく。


「え、あ、いや…、アリスちゃんの怒った顔も可愛いなあって思って…」


「う〜ッ!!」


 半分にやけ、半分怒る…そんな表情でアリスちゃんはジタバタしている。それもまた可愛い。


「なあ、フェミ…」

「なぁにマニィちゃん?」


「手伝いに来たのは良いんだけどよ…」

「うん、やっぱりゲンタさんは女たらしさんだよねえ…」


「そんなつもりはありませんッ!」


 僕の釈明の言葉が響いた。

 さあ、屋台営業は始まったばかり、町の人々が押し寄せる。ブド・ライアーとハンガスの出店と僕の焼きそば屋台の商戦(あきないくらべ)、いよいよ本格的に開戦です。

次回、微笑むは勝利の女神たち。

お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言]  お久しぶりです。もうそろそろ150話に到達ですね。世間はコロナの第四波でまだまだコロナ難が続きそうです。  お体などご自愛ください。これからも影ながら応援しております。  私もウマ娘初めま…
[一言] 初手ザラキーマは禁じ手
[一言] 甘いものは強いですよね。子供や女性を惹き付けるから家族連れやカップルなら高確率で寄ってくれるはず。焼きそばで男性の腹を満たしたところでの甘味。素晴らしい
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