第148話 悪魔殺しの男(ゲンタ)
スマホゲーのウマ娘始めました。これヤバい、ハマる。
「な、なんだとォォッ!?」
海鮮塩焼きそばに入っていたシーフードミックスのエビ、イカ、タコの説明をしていたところ腰を抜かしていたゴロナーゴさんが急に立ち上がった。
「オ…八本足、オクトパスの身を俺たちは食っていたのか!?」
「は、はい」
なんかマズい事しちゃったかな…。あ、欧米の人はタコを食べないっていうもんなあ…。もしかして…タコを食べる事ってものすごい禁忌なんだろうか…。
このやりとりを聞いていた猫獣人族の皆さんが…、そしてガントンさんらドワーフ族の皆さんまでがこちらを見ている。
「うおおおっ!!」
「あ、悪魔殺しだ、悪魔殺しの英雄だッ!」
「こいつは驚いたわい、坊やが悪魔殺しの英雄とは!?」
なんだか知らないけど凄く盛り上がっている。
「どういう事です、これ?」
「さ、さあ。儂には分からんが…」
盛り上がる酒飲みたちに対して僕やマオンさんは事情がよく飲み込めない。そんな中、ゴロナーゴさんがタコを口に放り込み味わった後に口を開いた。
「この歯応え、たまらねえ!『いか』のように腰を抜かすような事はねえがコイツも負けねえくらい美味え!これが…八本足、いや『たこ』だったか?これが口に出来るなんて…」
「いや、たまたま手に入りまして…」
「たまたまだァ…?坊や、嘘はいけねえぜぇ。まあ謙遜かも知れねえが…。なァ、ドワーフの?」
「ウム。八本足、お目にかかりたくない相手だわい。奴らは深海に潜み、こちらからは手が出せぬ。それだけではない、奴らは狡猾じゃ。軍船を丸ごと海に引きずり込む事もある」
「んだ!!アイツらの足ときたらまるで意思を持った鞭や棍棒だべ!ある足は船を打ちすえ、またある足は絡めとるだ!」
軍船を引きずり込む?随分とデカいタコもいるもんだ。いわゆる大王イカならぬ大王タコか。そういえば、ここは異世界だった。ガントンさんたちが狩猟してきた巨大猪、あれはまるで象…いやもっと大きかったかも知れない。
それに狡猾って言ってた、そりゃあそうだ。だってタコは…。
「タコは頭が良いって言いますもんね。僕の故郷じゃタコは海の賢者って言われていましたし…」
「海の賢者ァ?そりゃまたどうしてだい?」
「タコには脳が九個あるんですよ。頭部と八本の足の根本のところにそれぞれ。だから器用に動かすし、こっちの足で絡めとりながら別の足で打ちすえる…みたいな器用な真似ができるんです」
地球のタコの話ですけどね…、僕は心の中でそんな風につけ加えた。
「なるほどなあ、だからあんか狡猾に立ち回れるのか…。だが良かったのか、そんなモンを俺たちに食わせて?」
「えっ?」
「八本足は海の悪魔にも例えられる危険な魔物だ。倒す事はおろか、足の一本でも持ち帰れりゃしばらくは食うに困らねえ。そんな高価なモンを….お前さんってやつァ…」
「ああ、普通は買えるものではない。王侯貴族が競で高値を付けて落札するモンじゃ。金貨を積んで初めて口に出来る」
「んだ、それこそ金貨千枚でも買えるかどうか…。食べるんなら自分で狩猟るしかねえべ」
え、いや、それスーパーの冷凍食品のコーナーで…。って、金貨は一枚十万円くらいだから…億?億出しても買えないの?まあ足の一本だけ取れて価格が十分の一でも…一千万円…?
もちろん大きさにもよるだろうけどさ…。どんな高級食材だよ…それ…。
「そんなモンを生きてるうちに食えるなんてよォォッ!なあ、お前たちッ!」
ゴロナーゴさんの言葉に猫獣人族の人たちは神妙な顔で頷いた。いや、だからそれ…スーパーで…。
「俺ァ、お前さんの気持ちをしっかり受け取ったぜえ!さすがに悪魔殺しの男だ、金銭じゃ量れねぇ器のデカさを感じるぜぇ!」
「猫獣人族の…。こうまでされたらワシらに出来る事は一つじゃ。坊やの作ったこの『やきそば』、これをひとかけらも残さず食う事じゃ。坊やへの感謝をしながらの…」
「んだ、残したりしたらバチ当たるべ!」
「ドワーフの…。俺ァ、この『やきそば』で一杯飲りたい気分だ。付き合ってくれるかい?」
「応ッ、飲らいでかッ!」
彼らはまた新たに飲み始めた。飲める理由があればなんでも良いような…、いや理由が無くても飲んでそうだけど…。
「猫獣人族の神は、悪魔殺しの男でもあった!」
酒を飲み始めて気分が昂ったのか、猫獣人族の人が叫んでいる。
いや…、だからそれスーパーで買ってきただけですし…。言うに言えないもどかしさ。この誤解、解くべきか解かないべきか…、それが問題だ。
《次回予告》
次回、焼きそば屋台はいよいよオープン。それは、ブド・ライアーとハンガスとの戦いの開始でもあった。
次回、『開戦』。お楽しみに!