第146話 場所替え
「えっ?今日は前回とは違う場所で屋台を?」
「はい。前回の大盛況に鑑み、広場の中央でお店を開いていただこうと商業ギルドは考えまして。もう既に場所は確保してあります。さあ、こちらへ…」
広場の入り口で僕たちを待っていた係員、商業ギルドの受付にいた気弱そうな男性に案内され僕たちは出店スペースに向かう。
そこは広場の中央部、ざっと見て小中学校のグラウンドにある200メートルトラックより少し広いくらいか…。これなら広さは十分にある。お客さんが押しかけて来ても広さは問題ないだろう。
屋台の設営を始める。もっともこれはガントンさんたちドワーフの特製の木製荷車、なんと変形式である。車止めを掛け固定し屋台の形態にする。
おまけに動き出せば動きは軽やか、手伝いを頼んだダン君やギュリちゃんにも引ける。ドワーフ族の技術の高さがうかがえる。
今日は前回よりも客足が伸びるだろう。材料もたくさん仕入れてある。ついでに言えばいくつか秘密兵器も。おそらくあの人たちも来るだろう、なおさら余計に必要だと考えてパンの販売の後に追加の買い出しをしておいた。
準備は万端、後で冒険者ギルドの方からも応援が来る。まずはいつでも調理を始められるようにマオンさんとギュリちゃんには野菜を、ダン君には肉を切っていってもらう。
前回と違い荷車の一つを野菜などを切る作業台にした。マオンさんたちの背格好に合わせた高さ、これで作業効率もかなり上がる。
「下ごしらえが終わったら休んで下さい。今日は長丁場です。昼と夜の間にも売る物があります。シルフィさんたちが手伝いに来てくれるので少しは交代をしながら休めるかも知れませんが、想像以上にお客さんが来るかも知れません」
分かったよ、とマオンさんから返事が返ってくる。
「サクヤたちは…、うん、そのままで良いよ。ゼリー食べる?」
サクヤをはじめとした精霊たちは気の向くままに屋台をツンツン、植え込みに潜ったりと思い思いにしている。実害のない無法地帯である。
ただ、ゼリーという響きは彼女たちの心を掴んだようですぐさまやってきた。綺麗に整列してゼリーを待っている。
「はい、どうぞ。仲良く食べるんだよ。今日はよろしくね」
任せとけよ、とばかりにホムラがこちらを見る。
さて、事前準備はこんなものかな?そんな事を思いながら何気なく前回店を開いた広場の外れを見ると、そこで店の開店準備をしている人たちがいた。
「あれ?あそこで店を開こうとしている人たちがいますね?」
綺麗になった川のほとりで屋台を組み立てている人たちがいる。
「ん?ありゃあ、ブド・ライアーだね。見えるだろう?あの偉そうに指示出してる小太りの男がそうだよ。しかし、おかしいねえ」
「どうしたんですか?マオンさん」
「あのブド・ライアーは前回ここで本来は一店舗しか出せない出店を二つ出していたんだよ。それが今日は…あそこで店を開いている」
「え?それってつまり…」
なるほど、あの川べりをよく売れる一等地だと考えた訳だ。だから、ここと入れ替えた…そういう事か…。
「あっ!それにあれは…、ハンガスだよ!あの馬鹿息子の!」
忘れるものか…、ハンガス!
「そういう事か…、あいつら手を組んであの場所を…。サクヤやカグヤ、そしてその友達が綺麗にしてくれた環境を奪おうとした訳か…」
横取りして商売しようって事か…、なら容赦も遠慮もいらない。
これは戦、商人の戦だ。この売られた喧嘩、買ってやる。
つう…、いつの間にかカグヤが僕の肩に乗り僕の頬を撫でた。
「うん。カグヤ…。君にも手伝ってもらいたい。でも、今じゃない。商機…、いや勝機と見たら動いてもらうから…」
ゆっくり、そうゆっくりと僕はマオンさんたちの方を向いた。
「今日は戦になります。売って売って売りまくる、そんな一日になります。みなさんの力を貸して下さい。よろしくお願いします」
「やるんだね、ゲンタ?」
「はい」
「ミーンで一、二を争う二つの商会が相手かい!面白いじゃないのさ!やってやろうじゃないのさ!あの馬鹿息子に灸を据える良い機会だよ、尻の一つも叩いてやろうかね」
さあ、開戦だ。これは戦、商人と商人の喧嘩。商戦の開始である。
これでこの章は終わりです。
次章はこの広場における屋台販売の二日間が主なやりとりになります。はたしてゲンタは町の商業ギルドの大物二人を相手にどう立ち回るのか、ご期待下さい。