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第145話 『塩商人』ブド・ライアーは一等地を奪い取る

「そういや、ダンナ。今日の広場での屋台は何やんの?」


 いつものメンバーに女人魚族(マーメイド)のメルジーナさんやヒョイオ・ヒョイさんが加わり朝食を摂っていた時、マニィさんが話題を振ってきた。


「おお!そういえばあの屋台の噂を聞きつけ、ミミがゲンタさんを訪ねたのでしたな」


「まあ!旦那様は(あきな)いだけでなく、お料理もされるのですね」


 ヒョイさんとメルジーナさんが視線をこちらに向けた。


「今回も焼きそばをやろうと思います、昼と夜で」


「ああ、『やきそば』かあ。そういやアレでミケや猫獣人族(キャトレ)のみんなが『かつおぶし』を知ったんだよな」


「ええ。今日はゴロナーゴの親方も食べに来てくれるみたいで…」


「開店前から大人気ですねぇ」


「それに、今日は秘密兵器があるんですよ」


「ああ、ガントンたちと集めてきた砂鉄で作っていたアレを使うんだね?」


 フェミさんへの僕の返答(こたえ)に、マオンさんが続いた。


「はい。試しに作ってみたら美味しく出来たのできっと気に入ってもらえると思って…」


「えー!?オレたち試食してないぜ!」


 マニィさんが抗議の声を上げた。


「ごめんなさい、秘密兵器だったもんで…。でも…、期待して下さい」


「それはなんでですかぁ?」


「甘いものなんですよ」


「ゲンタさんッ!」


「うわああああッ!」


 テーブルの向かい側に座っていたはずのシルフィさんがいきなり僕の横に現れ手を握られていた。


「そ、それは本当ですか!屋台で甘いものを売るなんて…」


「は、はい。シルフィさんはきっと気に入ってくれると思います。…あ、そうだ。僕以外に食べた人いました」


「マオンさんですかぁ?」


 (わし)は違うよとマオンさんが首を振る。


「じゃあ…、誰だろ?」


「サクヤたちです。彼女たちは気に入ってくれたみたいで…」


 テーブルでクッキーを食べたり、僕の紅茶をつまみ食いならぬつまみ飲みしている精霊たちは首肯(うなず)いて僕の話を肯定する。


「その話は本当かッ!ズルいぜ、兄ちゃん。オ、オレにも…」


 どこから湧いて来たのかナジナさんが半ベソをかきながら現れた。昨日に続いて食卓はまた大混乱であった。


 そんな話をしている中、メルジーナさんがヒョイさんと相談をしていた。


「ヒョイおじ様、(わたくし)…」


「分かっていますよ。一度戻って着替えてから…ね。あと、ミミたちにも教えてやりましょう。きっと来たがるでしょうからね」


 優しく微笑みながら頷くヒョイさんが印象的だった。



「感謝してるよ、ハンガスさん。いや…、次期ギルドマスター」


「いや、こんな事は訳も無いが…。なんでわざわざあんな場所を?」


 商業ギルドマスターの息子、ハンガスは(いぶか)しげに妙な頼み事をして来た副ギルドマスターのブド・ライアーに尋ねる。


「いや、あそこでやってた冒険者ギルドの出店(でみせ)が大当たりしててね…」


「まさか!?ドブ川の横だぜ!広場の外れン(トコ)だろ…」


「それがいつの間にか清流みたいになっていて…」


「マジで!?そんな事、ある訳が…」


「だが、そうでなきゃ食い物屋があの場所で売れるはずがない」


「まあ、そうなるわな。そうじゃなきゃ誰があんな(くせ)え場所でモノを食いたくなるかってんだ」


「だろ?便所の横でメシ食うか…って気分にはならねえ。普通ならな」


「だが…、それが綺麗になってた…と?」


 ブド・ライアーは首肯する。ハンガスは何を馬鹿な…と呟いたが、しかしそれでは冒険者ギルドの出店が大当たりした理由が分からない。


「おまけにあの出店は夜になっても客足が遠のかなかったらしい。売り切れになっても客がまだ残ってたらしくてよ、冒険者ギルドが保管してた肉焼いてやっと行列がハケたってよ」


「マジかよ…、なんだってそんなに人が集まる…?」


「あの川のせいだ…」


「川…?あのドブ川の事か…?」


「ああ…。なまじ綺麗になっちまったから穴場になったのさ。相引(デート)のな。だから、夜になっても客足が遠のかなかった…。すぐそばに食い物屋がありゃ、わざわざ町中まで行って店に入る必要も無え」


「臭くない、綺麗な川がそこにありゃ…」


眺望(ロケーション)としても悪くねえから人が集まった…、俺はそう推測()んだんだ」


「だから…あの場所を…か」


「そうさ。そうでもなきゃたかが冒険者の集まりだぜ。せいぜい肉焼いて食わすぐらいだろ、塩をちょっとふりかけるぐらいで…」


「そりゃそうだ、料理人なんかいねーだろーし」


「だから俺はあの広場の外れを乗っ取ってやったのさ。だから今日はきっと大儲けだぜ。干魚のスープなんかも出すつもりだ。幸いあの場所は広い、いくら客が来ても居場所はいくらでもある」


「なるほどな…、そう聞くと俺も一枚噛みたくなるな」


「なら一緒に並んでやるかい?」


「おっ、そりゃ良いな!?スープがありゃパンも欲しくなるだろうし」


「よし、なら予定よりスープの材料を多めに持っていくか」


「俺はパンをどんどん焼かせて広場に持って来させねーと」


 善は急げとばかりに二人は昼頃の再会を約束し、それぞれの商会に戻った。それが後悔になる事も知らずに。


 商人ならではのざまあ劇の始まりである。

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