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第139話 『出来損ない』の襲撃2。復活のR(ラメンマ)

 ギリアムざまあ回、そしてラメンマ復活回。

 僕たちがラメンマさんを追って冒険者ギルドの扉を開けたらすぐ前の道に立っていた。良かった、どこかに走って行ってしまったのではなくすぐの所にいてくれて。

 もし、あまりにハイになり過ぎて危険な所にでも行ってしまったら最悪の場合には命に関わる。とにかく何事もなくて良かった。


 代わりの問題と言っては何だが、そこにギリアムがやってきていた。ナイフを抜いて恨みがましい目をこちらに向けている。

 塩を買うために並んでいた女性たちから悲鳴が上がる。


「なんだ、出来損ないのギリアムちゃんよ。ま〜た両拳(おてて)を砕いて欲しいんでちゅか〜?」


 マニィさんがギリアムを(あお)った。


「な、何をッ!決めたッ、今決めたッ!まずはお前だぜクソ女ッ!お前から血祭りに上げてやンぜッ!」


 真っ赤な顔をしてギリアムがまくし立てる。ナイフをチラつかせ(すご)んで見せるが、マニィさんをはじめとしてここにいる冒険者は誰一人として眉一つ動かさない。

 しかし…、ギリアムは何日か前に両手の拳を砕かれたんだよね?よく今ああやってナイフ持てるよなあ…。


「大人しくすっこんでりゃ良いのにさぁ…」


 マニィさんが続ける。


「いくらかかった?両手(おてて)治すのにさあ…。腕の良い回復師の魔法でも時間は結構かかったろ?」


 あ、そうか!魔法か!


 そう言えば鳶職のゴロナーゴさんが言ってたっけ。ケガ人が出た時にミアリスさんに治してもらったって…。

 その事を思い出したのかギリアムが顔を真っ赤にする。


「ゆ、許さねえ…。絶対…ぶっ殺してやる!」


「ならさ…覚悟してンだよな…」


「あン?」


「殺しに来てンだろ…?なら、お前がそうなって良いンだよな…」


 マニィさんの声が一気に冷えていく、殺気がこもり始めた。


「つーかよ、アイツ誰やる?あ、もちろん素手でな」


 ナジナさんがいつもと変わらない口調でポツリと言う。


「えー、オレの獲物だぜー!」


 マニィさんが抗議の声を上げる。


「私も許す気はありません。この者はいまだ反省も無く改心等はしないでしょう。ゲンタさんを傷つけた報い…必ず受けさせます」


 シルフィさんが私情はさみまくりの声で言う。

 他の人もなんだかんだで参戦したいらしい。フェミさんにウォズマさんまで。そんな訳でジャンケンみたいな事を始めた。何だろう、緊張感がなくなってきたぞ。


「お、俺を無視すんじゃねえ!」


 ギリアムが(わめ)いているが誰も気にも留めない。


「クソがっ!なら、そこのガキとババアからだッ!」


 ギリアムがこちらに狙いを変えてきた。だが、そんな時。


「俺がやる。…先程の礼をさせてくれ」


 僕たちを守るようにギリアムに立ちふさがったラメンマさんがポツリと言った。



「ンだよ、犬コロ風情(ふぜい)が俺の相手すンのかぁ。弓を背負ってるトコ見ると狩人かぁ?だったら犬らしく森でも山でも駆け回っ…」

「黙れ」


 ラメンマさんが口を挟むと、急にギリアムの声が途切れ苦しそうな声を上げた。


「ぶごごごっ、ぶぺぇっ!…はあ、…はあ」


 ギリアムの口から吐き出された石が地面を転がる。


「テ、テメエ!い、いつの間に!?いつの間に投げやがった!」


 確かに。投げたそぶりなんて無かった…。


「シ、シカトしてんじゃねえぞッ!」


「自分で考えてみろ」


 ラメンマさんに答える気は無いらしい。


「足、ですねぇ…」


「ああ…、フェミ嬢ちゃんにも見えたか。ありゃなかなか見えにくいやり方だ。嬢ちゃんも腕は錆び付いてねえようだな」


 フェミさんがナジナさんとそんなやり取りをしている。足を使って石を飛ばす?そんな事出来るの?


「ゲンタ君、アレは犬獣人族(ドギーマ)だから出来る事だよ。彼らの骨格なしには出来ないだろうね」


 これはウォズマさん。そ、そうなんだ、僕には全然分からないんだけど。


「ク、クソが…!もう…、もう許さねえ!」


 どうやらギリアムには石の謎が分からなかったらしい。ナイフを両手に構えて体ごとぶつかるようにギリアムがラメンマさんに向けて突っ込む。

 それをヒョイとかわし、足をかけて転ばせる。道にいる人垣がわぁっと歓声を上げる、ギリアムという奴は余程嫌われているらしい。


「さっきから石使ったり、足かけたりしてよォ!テメエ、ナメてんのかッ!」


「ナメてんだろーな。本気出したらお前死んじゃうだろ」


 マニィさんがさらに煽った。そんなマニィさんにラメンマさんがスッと手を上げて『それ以上はいい」とばかりに制した。


「言っても分からんようだ。今度はこちらからやる」


 そう言うとラメンマさんはダッとギリアムに向け走り始めた。



 ラメンマさんは走り出した。


「くっ!」


 ギリアムは身構える、だが…。


「なっ!?」


 ラメンマさんはギリアムの横を駆け抜ける。慌ててギリアムは後ろを振り向くがそこにはもうラメンマさんの姿は無い。ラメンマさんは向かいの建物の壁を駆け上り、そして反対側に跳躍する。反対側の壁…すなわちギルドの壁に着地すると数歩、また反対側に飛ぶ。


 少し離れた場所にいるから僕はかろうじて見えている。が…、


「くっ!ど、どこだッ!?」


 ギリアムは時々視界に(とら)えては見失うを繰り返していて、すっかりラメンマさんに翻弄(ほんろう)されている。

 そんなラメンマさんがギリアムの目の前に姿をフッと現した。


「あッ!?」


 ギリアムが驚愕の表情を浮かべた。


飛翔式(フライング)下肢(レッグ)投縄打(ラリアート)ォ!!」


 ラメンマさんの飛び蹴りがギリアムの喉元をとらえた。ギリアムは吹っ飛び背中から地面に打ち付けられる。勢いはそれでも止まらずさらに半回転、仰向けにバタッとギリアムは倒れやっと勢いがおさまり、そのまま(うめ)き声を上げた。


 さらに見物人から大きな歓声が上がる。『いいぞー!』『もっとやれー!!』


 狩猟では獲物の首に縄を掛ける事がある。しかし、あまりに大きな輪の投げ縄だと手では扱えない。ゆえに手より長く筋力(ちから)もある。足で投げ縄を投げる事があるらしい。なるほど、だから先程ギリアムの口に放り込むような投石を足で出来たのか…。

 地球ならアメリカのカウボーイが牛に縄を掛ける為に投げる訳だが、そこは異世界。牛よりはるかに大きい動物がいるのだろう。足を使うような必要性が出来たのか…。その投げ縄打ちの為の枝がしなるような足の運び…、それを蹴りに応用してギリアムに一撃で倒したんだ。


「速いな…」

「ああ。下手に動きについていこうとしたら一苦労しそうだな」


 こちらはナジナさんとウォズマさん。余裕のある声、えっ!?二人はアレ見ても余裕があるの?どんだけ二つ名付きの冒険者って強いんだろう。


「うぐぐ…。や、奴は…ど、どこだッ!?」


 うつ伏せに倒れたままのギリアムが首だけを上げラメンマさんを探している。そのギリアムの真上に現れた。どすんっ、そしてそのまま腰の上に座るように着地する。


「ぐべっ!」


 ギリアムがたまらず声を上げる。そしてラメンマさんは流れるような動作でギリアムが上げていた首に丁度良いとばかりに両手をさし入れる。顎の下を両手で掴み、両足の裏で背中を踏ながらそのままぐいっっと後ろに体を倒し体重をかける。


「あーッと、あの体勢はァーッ!?」


 プロレスで言うところのキャメルクラッチ、そう言えば狩猟士(ハンター)であるラメンマさんの狩りは毛皮などを綺麗な状態で得る為に刀傷や矢傷をなるべく付けずに仕留めるんだっけ…。

 だからだろう、獲物の骨格や身体的特徴の弱点をついた攻め方を…それこそ傷を付けない素手での戦い。それを人族にも当てはめたのだろう。ギリアムを容赦なく追い詰める。


「ぐっ、や、やめ…、やめろ!」


 既にナイフは蹴られた時の衝撃で落としてしまったのだろう。ギリアムは素手になった両手でラメンマさんの両手をなんとか外そうとするが上手くいかない。そうしている間にもさらにきつく技が決まっていき、もはや口から漏れ出る声は言葉にはならず呻き声にしかならない。


「復活だ…」


 ナジナさんが呟く。


「三年前の剣爪牙熊(サーブルベア)を倒した頃のラメンマに…、いや」


「あの頃よりさらに凄みを増している」


 ウォズマさんがその言葉に続いた時、


『ごきぃっっ!!』


 一際大きい音が響いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 闘将ではなく元残虐なほうですかね
[一言] ウォズマさんがウォーズマンと空目したw
[一言] ラー〇ンマンの技ですね。 これ実際にやると首狙うからクリーンヒットすると気管がつぶれたり首が折れてちにます。
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