第117話 ゲンタへの出店依頼
風の精霊を介したシルフィさんからの伝言。
『お店をやってみませんか?』
異世界に来たあの日、マオンさんと共に商業ギルドを叩き出された僕としては、お店を開店するというのは絶対に無い事だと考えていたから妙な気分だ。
しかし、お店を開くにしても何の商売をする?パンは早朝おかげさまで完売、塩もギルド内も外の自動販売機も好評発売中だ。
急ぎではないというシルフィさんの伝言だったが、気にならないと言えば嘘になる。そこで僕はフェミさんと共に町を歩きながら冒険者ギルドに向かった。
「ゲンタさん、早速の訪問ありがとうございます」
早朝と変わらずキリリとした眼鏡をかけた美人、シルフィさんが僕を出迎える。こうしていると有能る社長秘書みたいな雰囲気である。早速…、という事で僕はフェミさんと離れテーブルを挟んでシルフィさんと向かい合う。
一方、フェミさんはと言えばマニィさんと話している。『オイ、二人で何話したのか聞かせろよ〜』みたいな事を言っている。フェミさんはフェミさんで『え〜』とか言いながらも女子トークが始まる。ああ…、こうやって女子たちの情報交換と言うか連帯感みたいなものが醸成されていくのか…。
中学や高校の時の一人の女子が見たり聞いたりした事が、翌日にはクラスの女子全体の周知の事実になるという法則みたいなものを思い出す。向こうでもこちらでも恋愛事情や人間関係の話というのは女子たちの大好物なのかもしれない。
さて、肝心のシルフィさんからの話の内容だが『町の広場で何か商売をやってみないか?』という事だった。ここミーンの町では火災が起きた時に延焼を避ける為に火除け地として所々に広場がある。燃える物が無ければそれ以上に燃え広がる事は無い、その為に建物を建てない地域を決め町を丸ごと焼き払うような火事が起こる事を避けるのだ。燃えにくい素材の建築材や消防車、消火器も無いこの異世界では消火体制よりもまずは大規模火災をさせない…地域限定型の火災に止めるようにしているらしい。
話が逸れたが、その広場で事前に申し込めば商売をしても良いらしい。何の商売をするかは基本的に自由で、食べ物を売るような人もいるしムシロみたいな物を地面に敷いて商品を広げ売るような人もいるらしい。
「そのあたりはゲンタさんにお任せしますので、いかがでしょう?ゲンタさんならきっと皆があっと驚くような事をしてくれると思いましたので…」
「うーん、皆があっと驚くというのは出来るとは限りませんけど…」
「いやいや、ダンナ。何言ってるんだよ…」
「あのパンも、『かれー』も皆があっと驚いてるのにねぇ…」
受付業務の手が空いたのかマニィさんやフェミさんもテーブルにやってくる。彼女たちの
「ちなみにそれはいつですか?」
「八日後と九日後、二日間で行われます。普段は月に一日なのですが今月は二日にわたって行われるんです」
「あ、でもシルフィの姉御、今月は二日ある月だから…」
「ええ、分かっていますよ」
「ん?どうしたんです、今月は何か特別なんですか?」
「ゲンタさん、今月は二日間広場が解禁される月なんで明日も一日解放されるんですよぅ」
フェミさんが僕の疑問に回答えた言葉にシルフィさんが困ったような表情で続けた。
「確かに明日、参加する事は可能です。しかし…、いくらゲンタさんでも今日の明日でいきなり何か商売を始められるものでは…」
「ダンナなら何とかしそうなんだけど…」
「ゲンタさん、苦もなくやりそうですぅ…」
「あなたたちは…。良いですか?ただ猪肉を焼くだけなら明日にも出来るでしょうけど、ゲンタさんの『かれー』や『くりいむシチュー』の品質を考えればかなりの御苦労があると思われます。そう気安く言うものではありませんよ」
「「はぁい…」」
ううむ…。シルフィさん、しっかりしたお姉さんだわあ…。
「ちなみにお店の出し方って決まりはありますか?荷車みたいなものを持ち込んだらダメとか…」
「それは大丈夫ですよ。他の人の迷惑になるほと場所を取るとか、法に触れるような物を扱うとかでなければ」
なら食べ物なら大丈夫かな?あとは受け入れられるかどうか…。
「ダンナ、どうしたんだい?もしかして明日にでも商売出来るアテでもあるのかい?」
「ん…、出来そうなものはあるんだけど」
「もしかして『かれー』ですかぁ?」
「いや、カレーではなくて…。僕の故郷の料理なんですが…、皆さんのお口に合うかどうか…」
そう言う僕にマニィさんがニッと笑って横に並ぶ。まるでどんな悪戯をするか計画する中学生のようだ。
「ならダンナ…。ここはアレっきゃねえだろ?」
「アレ?」
「こういう時は、ホラ…」
ああ、なるほど!僕とマニィさんは視線を合わせニヤリと笑う。
「「試食会だ!」」
息がピッタリと合ったセリフだった。
「オイ、フェミ手伝っていけよ。その代わり早く勤務を終了たらダンナの家に直行だ!」
「うん、マニィちゃん!」
「まったく…、あなたたちは…」
「まあまあ…。シルフィさんも是非!」
「…はい」
さあ、日本に買い出しに行きますか!
次回予告
ゲンタが日本に試食用の材料を買い出しに向かっている頃…。塩商人ブド・ライアーもまた広場への出店を考えていた。そして悪だくみ…全ては最近下がっいる塩の売り上げを取り戻す為に。
次回、『塩商人』ブド・ライアーの締め出し。お楽しみに。
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