第115話 揺れてるどころじゃありませんよ、フェミさん!
いつものように早朝のパン販売を冒険者ギルドで終えてみんなで朝食。さらに二機を増やした塩の自動販売機に塩を補充して僕とマオンさんは家に戻った。
昨夜は川で獲れ大田螺をおすそ分けしてもらい食べてみた。メロンパンより一回り…、いや二回りぐらい大きなその実は決して大味ではなく、なんと言うか蜆のようでもあり、帆立のような風味でもある。
単純な塩茹でにしただけだったがとても美味しいものだった。ただ、僕はこうも思った、醤油があったら美味いだろうなあと。
幸いな事にまだ大田螺は桶に何匹か残っている。今夜にでも試させてもらおうかな。
ガントンさんたちは昨日採取した砂鉄を製鉄するようだ。
「建材に鉄は不可欠じゃ。とりあえず今日のうちにある程度作っておくぞい」
そう言って製鉄の作業の準備をしている。炉のような物は無いが、簡単に土で融けた金属が流れ込むような場所を作り熱を逃さないようなドーム型の覆いを作っていく。
「すまんがホムラに手伝ってもらえんかのう?」
そんな訳で火精霊のホムラには残ってもらい、鉄を得る為に働いてくれるにように頼んだ。そんな訳で彼女は居残り、残る三人の精霊たちと僕は雑貨屋を営むノームのお爺さんの元に向かった。
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僕も少しはこの町に慣れてきた。無事に雑貨屋さんにたどり着き水筒として使う空になったペットボトルや先割れスプーンを納品する。丁度到着した時、お爺さんは動物の毛皮を鞣しているところだったので僕は商品を確認しやすいように並べ、緑茶を紙コップに入れて待っていた。
「おうっ、待たせたな。もうちょっと待ってくれ、手を洗っちまうからよ」
ただ、皮を鞣していた手はなかなかに汚れている。
「これを良かったら使って下さい」
そう言って僕は天然素材の石鹸を取り出す。お爺さんは不思議そうな顔をしていたが使ってみると、
「お、お!こりゃあ石鹸か!?なかなか落ちねえ汚れが落ちていきやがる!」
喜んでいたので一個まるごとプレゼントした。お爺さんに試しに使ってもらいその良さを実感してもらうと共に、ノコギリか何かで小さく切り、それを試供品にして買う見込みがある人に渡して使ってもらえば良い。
それから石鹸を実際に売るようになったら、それをどのくらいの大きさに切り分けて売るのかを探っていけば良い。
テレビで見た商売のヒントを思い出す。確かインドだったと思ったが、それまでシャンプーを使った事がなかった人に対して新たな需要を掘り起こす為に一回分の量を売っている店があった。こうする事でシャンプーの良さを知ってもらい購買層になってもらう為である。また、シャンプーをボトル一本は買えなくても一回分の量なら手が出せる人もいる。それゆえに小分けにして売っているとの事だった。僕はその手法を真似たのだった。
「小さく小分けにして販売か…。なるほどなァ…、これなら町の衆が手を出しやすくなるかも知れねえ」
「ええ。そんな訳で…、使ってみてもらって好評なら販売してみませんか?」
「おうっ。面白そうじゃねーか!その話、乗ったぜ!」
そんな訳で僕はお爺さんに新たな商品、石鹸を手渡したのだった。
□
雑貨屋さんでの用事が終わり、マオンさん宅に戻ろうとした時の事。
「ゲンタさぁ〜ん」
声のした方を振り返ると、とてとてとてというような…そんな可愛らしい効果音がしそうな可愛い走り方でやってくる人物がいた。
「あっ、フェミさ…」
その名を呼ぼうとした僕は固まってしまう。今日のフェミさんはギルドの制服ではなく私服だ。とても可愛らしい。
しかし…、しかしだ!大変な事になっている。走る動作に合わせて…、胸が暴れている!揺れる、なんてもんじゃない。あれは暴れるとしか表現のしようがない。
以前、酔っ払ったフェミさんに背中側に密着された事があり、その際にとても凄い胸の感触があった。制服のせいで目立たないのかな…そんな風に思ったのはどうやら間違いではないらしい。とんでもない『胸部装甲』の持ち主だ、フェミさんは!
呆然としていた僕はフェミさんを見ている事しか出来なかったのだが、当のフェミさんは『えいっ』とばかりに僕の左腕に飛び付いてきた。ああア!フェミさんが!フェミさんが!
それは…、一方的な戦闘の始まり。
□
フェミさんが現れた。
フェミさんはゲンタが身構えるよりも先に攻撃を仕掛けてきた。
フェミさんの攻撃。『胸部拘束!!』
荒ぶる胸部がゲンタを包む。
痛恨(!?)の一撃!!
ゲンタは理性に92パーセントのダメージを受けた!
ゲンタは我に返った!
(ぼ、僕の理性が92パーセントもっていかれたァーーッ!!?)
凶悪なまでに至福の感触。ま、間違いない、フェミさんは…大きい。我に返った時…、もう既に僕は抵抗する気力を無くしていた。このまま身を任せて良いんだろうか…?いいですとも!そんな自問自答さえ浮かんで来る。
抱きついてきたフェミさんはいつものように『えへへ〜』と笑っている。その間もずっとくっついたままだ。僕はといえば呆然としたり我に返ったり、今は困惑していたりと忙しい。きっと顔色が信号機のように青になったり黄色くなったり、はたまた赤にと色々と忙しい事になっている事だろう。
僕は今、まさに赤信号。色々な意味で危険であった。
「今日はこれからどうするんですかぁ?」
フェミさんの質問で再び我に返る。
「あ、は、はい。今日は雑貨屋さんへの納品も終わったし、特に用事もなく…」
「じゃあ…、ゲンタさん。このまま二人で一緒に歩きませんかぁ?」
→はい
イエス
うん
いいよ
選択肢が肯定しかない。いや、断る理由なんてないし喜んで行くけど。
「うん、もちろん!」
そして僕たちは二人、町の中を歩き始めた。
他愛もない事や、ナジナさんたちの話などをしながら春の町を歩く。僕よりもこの町出身のフェミさんの方が当然地理も詳しいので行き先は彼女に任せた。女の子が喜ぶような場所も知らないし、僕は気の利くタイプでもない。そう言った意味でも彼女に行先の選択をお願いしたのだった。
そして僕たちがたどり着いたのは…、少し寂れた町外れの教会だった。
次回予告
町外れの教会、そこは寂れていて人の気配もあまりなかった。そんな場所にゲンタを連れてきたフェミ、彼女の思いやいかに?
次回『家族』、お楽しみに。
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