第113話 離さない。
…ラブストーリーは難しい。
活気ある町中を抜け南門から町の外へ出た。物を売る人の声や荷運びの音が遠去かり、たまに吹く風や鳥の声がそれに変わる。
そう言えばミーンの町に初めて来た日には南門から入ったが逆に出た事は数少ない。塩の街道の難所、窪地に道を作る依頼で昼食作りに向かった時の二回、それ以来だから3回目か…。
町をそう離れなければそんなに危険はないらしい。まれに走兎に出くわすか、年に一度くらいのまれな頻度で猪の目撃情報があるくらいだという。
猪の脅威は日本でもたまにニュースになるからその脅威は予想がつくが、走兎というのは僕にとっては初耳。どんなものなのかマニィさんに聞いてみると、大きさは僕らが想像する一般的なサイズ。
あと意外に知られていない事だが、意外と兎は獰猛だったりする。可愛いイメージの兎だが好戦的な性格の個体もいたりする。だんっ!だんっ!後ろ足を地面に叩き付け音を鳴らし、頭から突っ込んでいったりする。しかもこの異世界の走兎は額のあたりが独自進化をしているようで、額が出っ張っているらしい。
この走兎、同じ兎同士でわりと喧嘩になるようで角突き合わせてじゃないが、額を突き合わせて頻繁にやりあっているとの事。そうする事で、額の出っ張りはさらに大きく角のようになる。
そうなれるまで生き残れている走兎はすばしっこさはそのままに体も一回り以上は大きくなりガッシリとしたものとなる。一般的にはこの頃には角兎と呼ばれるようだ。
マニィさんと二人並んで町を出る。町を出る時に
「なんか出てきてもオレがいるからさ」
そんなイケメンなセリフを言うマニィさん。彼女がいれば大丈夫だろう。無いとは思うがギリアムが仕返しに来ては困るので、サクヤたち四人の精霊たちには家に残ったマオンさんについていてもらう事にした。なので、僕たちはホントに二人っきりだ。
しばらく二人で川沿いを歩く。川上に二キロくらい歩いたところに川の水が澄んでいる地点があるらしい。ガントンさんたちは早朝、そこに向かった。彼らが引く荷車の轍が続いていて、僕たちはそれをゆっくりと追いかけている。
走兎の話を一通りし終わった後からはなんだか話題が途切れ、少し無言の状態が続く。こういった時に気の利いた事も言えないのが僕の至らない所だ。
「あのさ…」
マニィさんが不意に口を開いた。
「オレってさ…、話し方もこんなんだろ?フェミとは違って女らしいトコとかなくてさ….」
少し寂しそうに、そして悲しそうに彼女は言った。
「ガサツ…って言うのかな。ツッパって生きてきちまったからさ…。オレとフェミは同じ孤児院の出身でね、冒険者になったのも生まれとかカンケーなく実力次第で稼げるからさ。受付をやるまではフェミと二人、期待の新人みたいな感じでさ…けっこう名の知れたモンだったんだぜ。だけど、フェミはあんな感じだろ?フワッとしてるっていうか、放っておけねえっていうか…。たがら、オレがしっかりしねえと…そんな風に思っててさ…」
少し分かるような気もする。フェミさんはポワーンとしているというか(失礼)、柔らかい感じがする。女性二人だし、ビシッとすべき所はビシッとしなきゃいけない場面というのは確かにあるのだろう。
「だからかな…、男勝りって言うかこんな風になっちまった」
ふう…、ひとまず話し終えたのかマニィさんが一つ大きな息をつく。なんだろう…、そんなマニィさんが今日は…、というか今はやけに小さく見える。
「オレ…、凄く嬉しかったんだぜ。ダンナがさ…、あんな凄え手鏡くれてさ、そんな夢みてえな話…女なら一度くらいは夢に見んじゃねーかな。御伽噺みてえに…見初められるってヤツをさ…。オレ、そんなモン一生縁が無えって思ってたからさ…」
僕の無知から生まれた手鏡を渡すという出来事。それは女性にとって大きな意味を持つという。『結婚しよう』、そんな男性からの意思表示。
「だけどオレ、こんなんだろ…?」
悲し気に言うマニィさん。
「フェミみてえに可愛くはなれねえし…。品良く振舞うなんて逆立ちしたって出来そうもねえ…。だからさ…、こんなんが横にいたんじゃダンナがさ…、その…恥ずかしいだろ?オレが見る限りダンナは凄えよ。この町のどんな商人より…、いや王都や商都の商人だってダンナには勝てねえんじゃねえかな?オレだって他の町に行った事あるから分かるよ、その凄さがさ。こんなオレじゃ…ダンナの横にいられないよ」
これは…どっちなんだろう?言葉通りなのか、それとも女の子特有の相手を傷つけないようにする言い回しの断り文句か…。
「マニィさんは…、僕の事…嫌いですか?」
自信過剰な物言いな感じだけど、ここで僕は聞いてみる事にした。
「きっ、嫌いなワケねえだろっ!だ、だけどよう…。ダンナに恥ずかしい思いさせたくねえから…、だからオレ…」
消え入りそうな声、そのままマニィさんは僕に背を向けようとした。その目尻に涙が浮かんでいるように見えた。彼女がこのまま背を向けてしまったら、なんだか取り返しがつかないような事になるような気がした。
「ッ!!」
マニィさんが弾かれたような声にならない声を上げた。僕は無意識に振り向こうとした彼女の手を取っていた。
「ダ、ダンナ、離してくれよ!」
「離さない」
振り向きかけの彼女の手を取った事で、ギリギリ背を向けきる前にその手を取る事が出来た。昨日、あれだけの大立ち回りをしたとは思えない小さくて滑らかな女の子特有の手。
「オ、オレなんかが横にいたら…」
「オレなんかなんて言うなッ!」
ビクッ!マニィさんがそんな反応をして言葉を止めた。不安気な小動物のように僕を見つめている。
「お願いだからそんな事言わないで下さいよ、マニィさん。出会って半月くらいしか経ってないけど僕の知っているマニィさんは素敵な人だよ。昨日助けてくれた時はもちろん、初めてギルドでパンを売った日の朝もさ…」
そう、あの日。
「裏口から中につながるドアを開けてくれたのもマニィさんだったでしょ。『さあ、行こうぜ』って。あれで僕は一歩前に踏み出す勇気をもらえた。ナジナさんたちが巨大猪を狩猟して帰ってきた時も一緒に野菜切ったり料理もしたじゃないですか。間違いなく素敵な…、優しくて心遣いが出来る女の子ですよ…マニィさんは」
「…ッ!!ダンナ!ダンナッ!!」
泣きながら飛び込んでくるマニィさんはひどく震えていて…、そして僕の両手に収まるほどに小さな…、普段の勝ち気で男勝りな雰囲気とは違う等身大の女性だった。
《おまけ》
受付嬢たち(悪の秘密結社風)
受付嬢F「受付嬢M…、堕ちたか…」
受付嬢S「あの新人冒険者G…、なかなかの使い手と見える」
受付嬢F「いえ!Mは男勝りキャラで恋愛とは無縁そうにしていながら強く口説かれる時堕ちてしまう最弱。何程の事もありませぬ!」
受付嬢S「では…どうする?次は私が出ようか」
受付嬢F「お待ちを!いかにMを堕としたとは言え貴方様が出るまでもありませぬ!」
受付嬢S「ほう…、何か勝算があるのか?」
受付嬢F「はっ!私の対男性用兵器『胸部装甲』をもってすれば必ずや仕留めてご覧に入れまする!」
受付嬢S「(自分の胸部と見比べながら)…ウ、ウム。」
受付嬢F「それに…」
受付嬢S「それに?」
受付嬢F「Mとは姉妹同然に暮らして参りました。是非、私に!」
受付嬢S「分かった。だが…、失敗は許されん。行けっ!」
受付嬢F「はっ!ヤツを仕留めぬ限りこの地を踏まぬ事をお誓い申し上げます」
受付嬢S「そうだ…。それで良い、頼もしき奴よ」
というやり取りが有ったとか無かったとか…。
『作者より
いかがだったでしょうか?
面白い、続きが気になる、コレをフェミさんにもシルフィさんにもやるんだよね?などなどありましたら何卒、評価や感想をお寄せください。
よろしくお願いします。