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第九話 開闢(かいびゃく)のジャムパン

「ゲンタ、学院の学生と聞いたけど…、どうしてこの町に来たんだい?知り合いか、親戚でもいるのかい?」


ジャムパンを食べながらマオンさんが()いてくる。


「いえ、僕はこの町に知り合いはいません…、

 初めてこの町に来ました。マオンさんが初めての知り合いです」


まさか、クローゼットの戸が町の外の草原につながって…、

なんて言えないしなあ…。


「今は学院が休みでして…、ついでに言えば学院の近くのコンビニのバイトを…、あ、えっと学院近くの商店で下働きというか…、そういうのをしてお金を稼いで学院に通っていたんです」


「ふうむ…、働いて稼ぎながら学んでいたんだね…」


いやあ…そこまで立派なものではなく、自分の小遣(こづか)い分くらいを稼ぐぐらいなもんで…、お恥ずかしいです。


「でも、学院が一時的に閉まってしまいました。

 しかも商店を利用するのが学院の学生がほとんどなもので…、

 客足が減りお暇をいただく事になってしまって…」


「分かってきたよ、それで時間ができてこの町に寄ったんだね」


僕が首肯(うなず)くと、マオンさんが質問してくる。


「その下働きをしているお店はどんな物を扱っているんだい?」


「色々ありますが、一番売れるものは食べ物ですかね。飯時には沢山の人が並びます、何十人と」


「そ、そんなに並ぶのかい!?でも分かるような気もするよ。

 もしかして、その店はこのパンを売っているのかい?」


「あ、はい。でも、このパン以外にも色々な品物があって…。

 他に酒なんかも扱ってますが、中には昼から飲んでるような人もいましたね」


「真っ昼間からかい!?あきれたねえ!

 でも、ゲンタ。このジャムパン以外にもパンがあると言ったね?例えば肉を挟んだやつとか…」


「肉もありますよ、これは味付けは甘いんじゃなくて塩が効いてたり、甘辛かったり、ピリッと辛いのもあります」


「ああ…、だからかい。でも、色んな味付けがあるんだね。

 それにしてもさ…、塩と肉なんて酒飲みには最高の

 組み合わせじゃないのさ!

 それで昼間から飲んだくれてるってわけだね!

 どうせそんな奴らはお貴族様か大商人の馬鹿息子どもだろ、

 まったくロクな者がいないよ!」


「ところが、そのお暇になってしまって困った事が…」


「どうしたんだい?」


「商店が休みになってしまったので…、その…、

 お給金が入って来なくなりそうで…」


僕は頭を掻きながら、ははは…と力無く笑った。



マオンさんが何やら考え込んでいる。

ジャムパンは既に食べ終えており、最後の一口になった時はたいへん名残惜しそうにしていた。そのマオンさんが口を開く。


「ゲンタ、そのパンはある程度の数を用意出来るのかい?」


「あ、はい。今も十個くらい持ってます」


「じゃあ、ゲンタ。今から商人組合(ギルド)に行かないかい?」


「商人…、組合(ギルド)?」


「ああ、そうさ。

 商人組合(ギルド)はね、この町でまっとうな(あきな)いを

 してる者なら誰しも入っているもんなんだ。

 (ワシ)は末端の辻商(つじあきな)いをしているんだ。

 店を構えるような上級の会員じゃないけど、身元は

 保証されているから身元不明(モグリ)の商人ではないんだよ」


「身元…、ですか」


「そうだよ、例えばゲンタは商店でもなくて、

 どこの誰だか分からないような奴からもらったパンを

 食べたいと思うかい?」


うーん、確かに。なんだか怖いな。


「だけど、商人組合に認められてるなら身元は分かるし、

 少なくとも最低限認められるぐらいの腕はある。

 パンで例えるなら、身元の分かる奴の少なくとも

 食べられるくらいの味のパンではある、ぐらいにはね」


なるほど、客から見れば一応食べても大丈夫って事か。


「でもね、このパンは凄いよ!

 町一番!いやこの国中探したってこれに(まさ)るパン屋は

 そうはないよ!大神殿のパンにはどうか分からないけど、

 こんなに美味しいジャムをパンの真ん中に入れるだけでも

 すごいのに、ムラも無く全体をふんわりと焼き上げてる!

 (ワシ)には分かるよ、これでも『板切れのパン』くらいは

 焼けるんだからね!」


「じゃ、じゃあマオンさんはパン屋さん…?」


「そんな立派なモンじゃないけどね。自分の分を焼いて…

 その後に人様の分も焼いていただけだよ…」


パンを焼いていた台所は火事で焼け落ちてしまったけどねと

マオンさんは付け加えながら肩をすくめて見せた。


(ワシ)は本来なら昨日、ギルドの会員費を払いに行こうと

 したんだが見ての通り火事に巻き込まれてねえ…。

 だから今日支払いに行って、次の三カ月のギルド所属の

 継続手続きをしに行くんだよ。

 その時に(あわ)せて、この家の修築は無理でも…、

 (かまど)の部分だけでも修築にかかる費用の貸し付けを

 申請しようと思っとる。そうすればパンはまた焼ける!

 寝泊りならこの納屋でも出来るから少しずつでも金を貯めて

 いずれは小さな掘っ立て小屋くらいは建ててみせるよ」


「マオンさん…」


「それと、ギルドに行くのはね…、ゲンタの事さ。

 アンタのこのパンはきっと売れる!

 間違いない!それも大繁盛するくらいにね!

 だからきっと、商家をお暇になった分のお給金も

 稼げるよ。それを貯めて学院にお行き。


 だけど問題は信用さ、ゲンタのパンは、美味(うま)い!

 美味(うま)すぎる!だけどこの町の者はゲンタを知らない。

 だからそこはギルド所属の信用を最大限使えば良い」


「で、でも僕はこの町に初めて来た流れ者みたいなものです。

 商人ギルドに所属はしていませんよ?」


僕は疑問を口にする。そんな簡単にいくものかと。


「大丈夫さ、実際に入らなくても。

 (ワシ)の遠縁とでも名乗ってパンを売れば良い。

 商家でも構えるのでなければ、誰を使って物売りを

 しているかなんて、そこまでうるさいものでも

 ないからね。例えば、親の商売を子が手伝うのは

 珍しくもないだろう?」


実家が長野の山奥にある雑貨屋だったからその辺は分かる。

しかし、遠縁という事にするとなると、僕が万が一にも

何かやらかせばマオンさんにも影響が出るかも知れない。

つまり、マオンさんはそれだけ僕を信じてくれたのだろう。

見ず知らずの僕を。


「それからね…」


そのマオンさんは再び口を開く。十分な(タメ)を作って…、


「まずはこのパンを商人ギルドで売るんだよ」



うまい、うますぎる。

埼玉県民にはおなじみです!


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[気になる点] 「じゃあ、ゲンタ。今から商人組合(ギルド)に行かないかい?」 「商人…、組合(ギルド)?」 商人組合=ギルド として発言しているのに、 ゲンタは「商人」を認識しているのはなぜでしょ…
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