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第一話 コロナ禍は人命だけでなく、バイト先の存続をも脅かします。

この物語を閲覧していただき、ありがとうございます。


戦闘とかあらゆる万能スキルが…、みたいな派手な活躍は無い…とは思います。

平和的な異世界転移モノです。


よろしくお願いします。


「申し訳無いね…、竹下君。ここ最近のウチの店の売り上げがひどいものでね…」


 オーナーの原田さんがすまなそうに頭を下げる。


「い、いえ。状況はよく分かります。このコロナの状況じゃお店も大変でしょうし…」


 深刻な話をしている僕は竹下元太(たけしたげんた)、この四月に二年生に進級したばかりの大学生だ。


 自分の通う大学の正門前の道路を挟んで向こう側、コンビニ『ヘブンイレブン混修(こんしゅう)大学前店』で僕はアルバイトをしている。


 いつもなら昼時には弁当やパンを求める大行列、夕方くらいにサークルの部室内ででも飲むのだろう、ビールや酎ハイを買っていく小集団などが並ぶ大学前の店舗らしいニーズ。毎日、目も回るような忙しさだったのに、それも今は見る影もない。


 それというのも未曾有みぞうの世界的大混乱、新たなる疫病の為に街から人が消えたせいだ。


 そして今日、勤務後にオーナーさんご夫婦にスタッフルームで話をさせて欲しいと言われ、最近のコロナ禍により客足が遠のき店の売り上げが壊滅的な打撃を受けている事を伝えられた。


 そりゃそうだよなあ…、今は学校に来れないもん。学生が大学に来れない以上、店に来る学生客はほとんどおらず、地元客が一時間あたり1組か2組しか来ない。


 この大学では全ての学部合わせれば一学年あたり三千人以上、四学年なら一万二千人以上の学生が在籍している。普段、その三分の二くらいが登校しているとして顧客になり得る可能性がある人が8000人以上もいる。周りには他にコンビニは無いから客を独占状態だ。


 しかし、コロナ禍で学生の登校がほとんどゼロ。しかもこの辺りは山あいの土地を切り(ひら)いて学校を建てた為、学校関係以外の人が住む住宅が少なく30軒くらいしかない。だから集客は望めない、お店にとってはまさに死活問題だ。


 そこで僕はオーナーさんから打診を受け、どのくらいの期間になるか不明のアルバイトの休業となったのだった。


 コンビニバイトはブラックと言われる事があるが、オーナー夫妻は学生の苦労等も分かってくれていて試験時や地方出身者のお盆や年末年始の時などにも配慮をしてくれる。


 僕も入学以来、約一年勤めてきた中で発注を任されるようになったりと、収入を得るだけでなく何となくだけど働く事の意味みたいなモノを感じるようになったと思う。


 だからオーナーさんが困っているこの状況下で、僕が負担になるのは申し訳ないような気がしたので一も二も無くアルバイトの休業を承諾したのだった。



 バイトが終わり夜十時過ぎ、コンビニを出た僕は愛車である原付に乗った。ホソダの名車『スーバーカプ』。燃費良くとにかく頑丈タフ、後ろの荷台には折り畳み式の箱を装備している。積載能力も抜群だ。


 今日は夕方から激しい雨が降った。いわゆる爆弾低気圧と言う奴で、急に冷たい強い風が吹き始めたと思ったら凄まじい雷雨となった。九時過ぎくらいには完全に雨雲は通り過ぎたようで、今は綺麗な星空が広がっている。


 こんな日は駅前に行こう。学生の強い味方、二十四時間スーパーがお目当てだ。おそらく、夕方からのゲリラ豪雨でスーパーの客足は鈍りまくったであろうから売れ残った商品が沢山あるに違いないと踏んだのだ。


 行ってみると、あと二時間弱で賞味期限がくる刺身がたくさん残っていてまさかの7割引!。あとは炒めるだけのプルコギは半額、一袋23円のモヤシを合わせて買えば激安の牛肉野菜炒めができる!自炊のお米を炊けば安価で結構なご馳走だ!


 お惣菜は…、カキフライとメンチカツを買った。たくさん買う事になるが、いざとなれば冷凍しよう。


 次はパンコーナーに来た。村木屋、ザキヤマパンなどなど、どこかで聞いたような有名所のパンにも有るわ有るわ半額シールがペタペタと。


 コンビニの仕事仲間、パートの佐々木さんは食パンをまとめ買いした時は冷凍で保存すると言ってたっけ…。よし!ここはどんどん買うぞ!あんパンやジャムパンは40円台後半、コロッケとかのヤツでも50円台だ!


 こうして僕は、原付の荷台には刺身や肉等と、背負ったリュックがパンでパンパンになるくらい買い込んだ。合計4000円くらい買ってしまったが腐らせないように注意して上手くやりくりすれば十日以上食べていける、二週間も夢じゃないかも…。


 今は切り詰めよう、バイト代が期待できなくなるんだし…。僕は節約生活を決心し、会計に向かった。



 遠くの空で稲妻が光るのが見えたので、またゲリラ豪雨が来るかもしれないと思い買い物袋を引っさげて一人暮らしの部屋に急ぐ。


 原付を飛ばし、帰宅してすぐに激しい雨が降り出した。

夏でもないのにゲリラ豪雨、しかも日に二回とかマジ勘弁して欲しい。


 とりあえず刺身やプルコギ肉、モヤシを冷蔵庫に。

まだ春先だからパンはとりあえず腐りにくいだろうけど、勢いに任せて二十個以上買ってしまったので保存には気をつけなきゃいけないな…。


 炊飯器をセットし、その間に入浴。


 風呂から上がり、テレビをつけニュースを見ると都心のゲリラ豪雨の様子を報じている。強い風が横に()ぎ、上からは雷と激しい雨が打ち付ける映像がライブで流れる。


「あ!危ないですよ」


 新宿駅改札口前を中継しているリポーターが、激しい風雨に足を(すく)われたサラリーマンに向け大して心配もしていないくせに声をかけている。


 いつ見ても悪趣味だ。大雪の時の報道もそうだが、転ぶであろう人を待ち伏せながら写している、自分達は雨の当たらない位置から。


 人の不幸や痛みでメシを食ってる奴は犯罪者並みに嫌いだ。炊けたご飯に一パック130円くらいまで値引きされたマグロの刺身を食べる。安全圏にいるのは自分も一緒か、そんな事を思ったら軽い自己嫌悪に(おちい)る。


 それでも鮮やかな赤色のマグロは流石に美味しく、節約生活を(こころざ)した僕だけどひとときの贅沢な食卓を楽しんだ。



 ニュースはまた別の地域のゲリラ雷雨中継をしている。


 そこは雷雨に関しては抜けたが、停電の被害があり街中が真っ暗な様子。僕は部屋のウォークインクローゼット(物置代わりにもしている)にLEDライトがあった事を思い出し、取りに行く。


 クローゼットの中でライトを見つけ点灯する事を確認したその時、一際(ひときわ)激しい轟音が響く。下腹(したっぱら)にビリビリと重低音ならではの衝撃が突き抜ける。


 近くに、それも物凄い近くに雷が落ちたのだろう。そして部屋が暗くなる、テレビも消えた。


 一瞬にして室内の光と音が奪われる。この辺りも停電か…、そう思いながら手にとったばかりのライトを再度点灯、明かりがあるだけで安心感が断然違う。音に関しては、相変わらず外の雨が打ち付ける音がしているので、無音ではないのだが…。


 いずれにせよ今すぐ危機が迫っている訳ではないので、一安心する。明かりを持って周囲(まわり)を見回し、異常が無いか確認する。


 部屋の中に異常は……、無いな。手にした明かりが照らす室内は、何ら先程までと変わらない。


 そう。異常は無かった、少なくとも室内には。


 だけどたまたま見たクローゼットの奥の壁…、そこには見慣れない屋外の風景が広がっていた。

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人の不幸でメシを食う連中は嫌いだけど、人の不幸を見ながら食うメシは美味いってヤツか 分かりやすく底辺でてる主人公
[良い点] 好きなジャンルです。 [気になる点] 小説概要にコロナの単語。 地球の過去に疫病で人類の危機が何回も有り、特に大航海時代は原住民に免疫も無く感染が拡大しました。 異世界でコロナキャリアによ…
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