書籍発売記念関連SS
Twitterに載せたものと同じです。
一つ目はタイトル通り初デート後のお話。
二つ目は一章終了時点の関係性で書いた、あったかもしれないし無かったかもしれない会話です。
初デートの帰り道
「結構歩いたし、疲れた?」
「……え? あ、そんなことはありませんよ。ちょっと考え事をしていただけです」
「そっか。でも、もし疲れたなら遠慮なく言って。って言っても、バスに乗っちゃったから何が出来る訳でもないんだけど」
「ありがとうございます。牧村先輩」
少しおどけながらこちらを気遣ってくれた牧村に、美園は笑顔で会釈を返す。
嘘は言っていない。日常生活と比べれば歩いた距離は長いが、牧村は美園に歩調を合わせてくれていた。何より、彼が隣を歩いてくれたのだから、疲労など感じるはずもない。だから本当に、少し考え事をしていただけ。
気を遣わせてしまったことは申し訳ないが、少しの変化に気付いてくれたこと、気を遣ってくれたことが嬉しい。浮かべた笑顔は作ったものではない。牧村と一緒にいる時はいつもそうだけど。
「考えていたのはバスのことなんです」
大学から駅に向かうバスにはいい思い出しかないと、牧村にそう伝えた。ただ実は、駅から大学方面へ向かうバスには、逆にいい思い出が無い。
受験の時は、自信はそれなりにありはしたが、やはりそれでも緊張した。
その前、去年の文化祭に向かう時は、最悪の気分だった。でも今日は――
「こちら方向のバスも好きになりました。今日のお出掛けがとっても楽しかったからです。ありがとうございます」
「……そっか。こちらこそありがとう。僕も凄く楽しかったよ」
少し驚いたような顔をした後、牧村が優しく表情を崩す。
(ごめんなさい。今度は少し嘘をつきました)
会話を続けながら、美園は心の中で謝罪を告げる。
車窓から見える景色は少しずつ雰囲気を変えていく。市街地から郊外へ、建物の高さが少しずつ低くなっていく。そして前方に小さく見えている大学の敷地と校舎が、段々と大きくなっていく。もうすぐ、この幸せな時間は終わってしまう。
(やっぱり、今日はまだ好きになれないな)
◇ ◇ ◇
お部屋探しの参考
「牧村先輩は、お部屋探しの時にはどんなことを重視しましたか?」
「そうだなあ」
前の住人の退去予定が少しずれたので入居が遅れたという話をしていたら、美園から質問が飛んで来た。
「色々あるんだけど、一番は立地かな」
「立地と言うと、大学からの近さですか?」
もちろん部屋の機能も軽視はしなかったが、そちらは物によっては自分の手で対策や改善が可能だ。しかし地理的な面に関しては僕の手ではどうしようもない。同じ家賃でもう少しいい部屋も候補には挙げたが、最終的には今のアパートを選んだ。
「それが最重要だったけど、あとは買い物とかもね。大学の北側とかだと割と不便だから」
「あ、確かにそうですね。父が同じことを言っていました」
「部屋選び、お父さんがついて来てくれたんだ」
「はい」
そう小さく頷いて、美園はどこかくすぐったそうな、少し恥ずかしそうに、それでいて優しい笑みを浮かべた。
「不動産の仕事をしていることもあって、ついて行くと言って聞かなかったんです。私よりも張り切っていましたよ。凄く頼りにはなりましたけど」
可愛らしく唇を尖らせているが、それが照れ隠しであることは明白だ。美園が家族を大切に思っていることも、思われていることも、よくわかる。
「いいお父さんだね」
「……ありがとうございます」
恥ずかしそうに視線を逸らしたものの、お礼を言う時には視線を合わせる美園。こういったところからも、ご両親が素敵な人なのだろうと伝わる。
「それよりも、お部屋探しのこと、もっと教えてほしいです」
「それはいいけど、どうしてそんなに部屋探しのことを知りたいんだ?」
ほのかに染まった頬と可愛らしい不満げの上目遣いが相性抜群の美園が、誤魔化すように質問を続ける。
「もちろん今のお部屋に不満は無いんですけど、自分で決めた訳ではないので、卒業後のことも考えると色々知っておきたいなと思いまして」
「なるほど」
気が早いと思わなくもないが、真面目な美園らしいと言えばらしい。
「まあそういうことなら、一つの考えとして聞いてくれるかな。あんまり参考にならないかもしれないけど」
「そんなことありませんよ。将来のお部屋探しに、凄く参考になりますから」
そうかなあと思ったが、美園が期待に満ちた目を向けてくれていたので、きっとそうなのだろう。
『サークルで一番可愛い大学の後輩』と改題し、富士見ファンタジア文庫より発売中の本作ですが、二巻の制作が決定しました。
諸々未定ではありますが、ひとまず二巻でもお会い出来そうです。
応援してくださった皆様、ありがとうございます。