二人の五度目のクリスマス
時系列的にはエピローグの約一ヶ月後(智貴24歳)です。
「ホワイトクリスマスですね。結婚して初めてのクリスマスですから、いい思い出になります」
美園が作ってくれたとても美味しい料理を食べ終え、プレゼントを渡し合い、ソファーに座りながら智貴が美園を膝の上で抱いていると、美園がそれに気付いてやわらかな笑みを浮かべた。
入籍してから約一ヶ月の聖夜、よく見れば窓の外ではらはらと雪が舞っている。
「僕たちにとっての初めてのホワイトクリスマスだね」
「はい。あちらでは結局一度も雪が降りませんでしたからね」
くすりと笑った美園の背中を支えつつ、前の方からそっと髪を撫でる。
智貴の入学から美園の卒業までの5年間、結局二人の通っていた大学付近では一度も雪が降らなかった。
「ちょっとベランダに出てみませんか?」
「寒いよ?」
「だからいいんです」
「了解」
今二人の体を覆っている大きめのブランケットをつまみながら、美園は少しだけいたずらっぽい笑みを浮かべた。
すぐに意図を察した智貴は苦笑しながらベランダへの窓を開け、ゆっくりと美園の手を引いてエスコートをした。
「じゃあ、美園抑えて」
「はい」
美園を抱きしめた智貴の背中から羽織ったブランケットを、美園は彼の胸元にすっぽり収まりながら抑える。二人の熱をほんの僅かでも外部に逃がさないようにぎゅっと密着しながら。
「暖かいです」
「うん」
「大きい物を買っておいてよかったでしょう?」
「普段からそう思ってるよ」
得意げに笑う美園の髪を撫で、智貴はその頬に軽く口付ける。
羽織っているブランケットのサイズはひざ掛けよりもだいぶ大きく、どちらかと言うと寝具用に近い。
二人揃って出掛けた冬支度の買い物で、美園は一目見てこの白いブランケットを気に入った。「もっと小さい方が便利なんじゃない?」と智貴が尋ねたが、美園は「こっちの方が幸せなんです」と笑っていた。
結局美園の方が正しかった事はすぐわかった。「智貴さん智貴さん」と、大きなブランケットにくるまった美園に誘われ、その横で、後ろで、下で彼女とくっついて過ごす冬はとても暖かで幸せなものになった。
まだ電気代をペイできるほどではないが、地球に少し優しく、二人にはとても優しいブランケットには、智貴としても非常に感謝している。
「だけど外に出る時ちょっと寂しいんだよなあ」
「それは私もです」
こたつから出たくない心理を更に強くしたようなものだろうか。
「外に出る時もこんな感じで出てみようか?」
「もう。ご近所を歩けなくなってしまいますよ」
流石に家の外では色々と抑えているものの、それでも出掛ける事があればほとんど二人一緒であるし、大荷物で塞がらない限りは手も繋いでいる。
そのおかげと言うかせいで、智貴と美園が大変仲睦まじい事は同じマンション内では有名だったりする。
「流石にそれは困るなあ」
「はい。残念ですけど」
わざとらしく苦笑してみせた智貴に、美園もふふっと笑いながら応じる。
「寒くない?」
「暖かいですよ。外も思ったよりも寒くありませんし」
「うん。雪も積もりそうにないね」
「そうですね。雪化粧の中を智貴さんと歩いてみたかったので、ちょっと残念です」
「この冬は無理だろうけど、次の冬は積もるところに出掛けようか? 温泉とか」
「雪見風呂ですね。楽しみです」
ブランケットの中、器用に智貴へと向き直った美園が優しく微笑みながら小指を差し出した。
「うん。約束だ」
小指を絡め、一瞬だけ唇を重ね、僅かに白い吐息をぶつけ合う。
「さあ。名残惜しいけどそろそろ戻ろうか。年末年始は忙しいし、風邪ひいたら大変だ」
「そうですね。年が明けても式の準備がありますからね」
入籍して初の年末年始、両家の両親への挨拶や友人との顔合わせなど、予定がぎっちり詰まっている。
年が明ければ今度は5月末の結婚式への準備で大忙しになる。
ブランケットを美園の肩にかけて手を引き、室内への僅かな距離をエスコート。「冷えちゃうと困りますから」と笑った美園が、智貴をソファーへそっと押し倒し、ブランケットを被ったままその上へ。
「ソファーも大きいの買って良かったよね」
「はいっ」
「暖まるまで離さないから」
「暑いって言われても離しませんから」
智貴が宣言とともに美園を抱きしめ、ふふっと笑った美園が同じように智貴を抱きしめ返す。
「さっきは短かったですから、今度は長くキスしてください」
「うん。メリークリスマス、美園」
「はい。メリークリスマスです。智貴さん」
そう言って目を閉じた美園の髪を梳き、智貴は本日二度目のプレゼント交換に応じた。




