第8話 エンカウント その3
目を覚ますと、知らない天井があった。
ゆっくり体を起こし、辺りを見渡す。
ここはハヅキの能力で樹木を操り作られたコテージだ。
俺の寝かされているベッドは、葉やツタで出来ているのにフカフカだし気持ちいい。
これ凄いな。
そういえば俺ずっと寝てなかったから使わなかったもんな…
おぉ、弾む弾む!
ベッドの土台にはいくつものくるくると綺麗に巻かれたツルが仕込まれてる。
そいつがバネの役目を果たすとは。
ハヅキさん、職人技ですねぇ…
「ユキさーーーん!!! 起きたの!!? 良かったーーーー!!!」
「あっ。」
ハヅキが部屋に入ってくるなり抱きついてきた。
見られたか?
ポインポインしてたところ見られたのか?
「良かったぁ…あれから丸一日、ずっと死んだように寝てるから心配で…。 師匠さんは問題無いって言ってたけど。」
「そんなに…」
『肉体に問題は無かったからな、心配はしてなかったぞ。』
「もう1人にしないでね…」
ハ…ハヅキちゃん…
「もう師匠さんのしごきを1人で受けるのは嫌なのーーー!」
『小僧が寝ている間にな、お嬢ちゃんも鍛えたのよ。この小娘はお前以上に軟弱だったからな! ヌハハハハハ!』
泣きながら訴えてくる。
よっぽど辛かったんだね。
よーく分かるよ、その気持ち…
「でもね! 出来る事も増えたの! 見て見て! …ファイア! からのぉ、ほい!」
大きな炎を掌に発現させた。
しかもムチのようにしならせて操ってる。
顔付きまで達人の威厳を感じる…
すげぇ。
『お嬢ちゃんは近接格闘がてんでダメだった。だから魔法を教えてみたのよ。アッサリと覚えやがった。才能だな。ヌハハハハハ!』
「先を越されちゃったなぁ。 俺も急いで覚えないと。」
「何を言ってるんですか。 あんなデタラメな腕力! 魔装は同格なんて絶対嘘だよ! 私は魔法を扱えても、ユキさんのスピードとパワーに敵う気がしません!」
そういえばビッグ・ママを飛ばしてたな…
魔装を鋭くして切るくらいならともかく、あれほどの腕力は無かったはずだ…
思い立って久しぶりにステータス画面を開いてみる。
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LV40:ユキ(魔装α)
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所持品
・焼いた肉×30
・焼いた特上肉×5
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所持スキル
《再生lv.2》
《吸収lv.2》
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レベル跳ね上がり過ぎじゃね!?
デルタを吸収したのがこんなに影響するのかよ!
スキルも、レベル2…?
「レベル40ってなにそれ! 私28だよ!」
「俺も驚いたよ…師匠、スキルのレベルが上がってるんだけどどういう事だ?」
『何だそりゃ、俺は知らねぇぞ。』
「あんたも魔装αだろうよ…」
『知らんもんは知らん! ヌハハハハハ!』
威張るなよ…
しかし師匠が知らないってのは不安になるな…
そういえば気を失う前に声が聞こえたよな?
何て言ってたか…ダメだ、思い出せない。
「ユキさん、ママにも顔を見せてあげなよ。」
「あぁ、そうだな。充分休めたようだし…ベッドありがとうな。」
「ううん、気に入ってくれたみたいで嬉しい。」
ハヅキは弾むような仕草をして笑う。
やっぱり見られてたぁ…
恥ずかしいから早くビッグ・ママの所に行こ。
「坊や。目を覚ましたんだね? 体はどうだい?」
「しっかり休ませてもらったからね、もうバッチリさ。 ママの方はどうだ?」
「何て事無いさ、私は頑丈だからね! それに、坊やはアタシにも弟子みたいなもんだ。その坊やがあそこまで強くなった。その事が嬉しいんだよ。…あんたの覚悟、ちゃんと届いたよ。」
『ヌハハハハハ! ママは通過点よ! 小僧にはまだまだ強くなってもらうさ!』
ママ…俺の師匠はあんただ。
空気の読めない毛玉の事は忘れてくれ。
ママの大きな顔に抱き着き小声で言うと、優しく微笑んでくれた。
『小僧も目を覚ました事だ。そろそろここを出るか。』
「修行は終わり、か?」
『馬鹿野朗!まだまだだ! 俺のサポートが無きゃ死ぬようなひよっこめ! だが、ここいらで1番のママに勝ったんだ。マスターが雑魚だったとはいえ、他の魔装にもな。とりあえずは大丈夫だろ。』
そうだな。
他の魔装を倒して王を目指す事をしていれば、帰る方法が見つかるかもしれない。
あ、この世界を旅するって事か。
やべぇ、おらワクワクすっぞ。
「ユキさん、私達の魔装だと目立つからこんなの作っておいたの。お揃いだよー、ふふふ。」
「こ、これは!!!」
ハヅキが全身を覆えるローブを取り出した。
《植物操作》で繊維を作り編んだそうだ。
ホント便利ですね貴女の能力。
胸元にはαの刺繍まである。
隠すのか、晒すのか…
しかし! かっこいい!
これ、戦闘前の覆面ライダーみたいじゃないですか!
2人で身に纏い、お互いを眺める。
っぽい!凄く良い!
ニヤニヤしてるオタク2人に師匠が呆れる。
俺達を放っておいて、ビッグ・ママに別れの挨拶をしている。
『長いこと世話になった。達者でな。』
「良いんだよ、あんたも元に戻れると良いね。」
『…そうだな。その時はまた会いに来るさ。』
「勘弁しておくれよ。またあんたの世話をさせる気かい?」
『ヌハハハハハ!』
…?
師匠とママ、楽しそうだな。
『小僧!娘! 準備が出来たんなら出発だ! グズグズするなよ!』
言いながらフヨフヨと森を進んでいく。
慌てて俺達も師匠に付いていく。
振り返り、ママに手を振る。
彼女は俺達の姿が見えなくなるまで、ずっと見送ってくれた…
帰る方法が見つかったら、またここに遊びに来よう。
心にそう誓った。
「気をつけてね、坊や。」
もう聞こえないのに、彼女は無意識に囁く。
俺達は力を付け、開けた世界へと足を踏み出した。