第6話 エンカウント
あれから2日、ハヅキから他の話も聞いた。
ここに来たのは一ヶ月ほど前な事。
そこですぐに他の魔装使いに出くわす。
相手はすぐに攻撃を仕掛けてきたらしい。
いきなりの事に驚いた彼女は自分の能力を使い、草木に隠れてひとまず戦線離脱、何とか逃げきる。
魔装は基本的に同格、よほどの実力差が無ければ簡単に倒せないらしい。
元々この近くにいた彼女は、逃げながらこの新マップ《禁域》が広大な森である事を思い出しここにたどり着いた。
自分の能力ならここは打って付けだろうと。
その上、彼女の能力《植物操作》は操るだけでなく、植物と簡単な交信も出来るらしい。
その時にこの森に眠る力の事を聞く。
それを探していたら、覆面ライダーみたいなのいるー!
って事で俺の後をつけてたらしい。
「話しかけてみたかったんだけど、また襲い掛かられたらって思ったら…」
ハヅキは震えていた。
俺より若い、しかも女の子が1人で一ヶ月も…
怖かっただろうな…
俺だって3日であの様だよ。
元の世界のままなら事案だ。
未成年に抱き着く、コスプレした不審者だ。
「最初に会えたのがハヅキで良かったよ。これからは一緒だし、師匠もいる。ビッグ・ママもな。」
「…うん!」
少し目を潤ませながらも笑顔で頷いた。
強い子だな。
「ところであの時見てて思ったんだけど、ユキさんの《再生》、あれ何!? 凄過ぎません!?」
可愛いなぁ、まだ敬語混じりになってる。
あれ? 魔装だと普通じゃないの?
師匠を見る。
『言っただろう、魔装αは特殊だとな!ヌハハハハハ!』
「この師匠さんもそうよ! 私にはこんなナビゲーターいないのにー! 羨ましいー!」
ハヅキに抱き抱えられ、師匠は揉みくちゃにされてる。
羨ましいだと?
脳筋の鬼畜だぞその毛玉。
ハヅキが以前の戦闘で負った怪我は大したものでは無かったが、治るのに数秒掛かったらしい。
それなのに、俺の腕と脚を生やした《再生》を見て信じられないと言う。
「私じゃ絶対出来ないですあんな事。痛いでしょ!?」
「確かに、魔装が皆あんな再生してたら倒せないよな…そういえば、痛みらしい痛みもない。」
『ふん。再生を終える前に叩き潰せばいい。それでも再生するなら何度でもな。生き物には必ず限界があるもんだ。』
ホントこの毛玉は容赦無いなぁ。
ハヅキも苦笑してるよ。
でも、その通りだな。
逆に俺がそれをされたらまずい。
ビッグ・ママ級の実力者にそれをやられたら、再生にエネルギーを取られてすぐに終わる。
あれからビッグ・ママに何度か相手をしてもらってるが、勝てない。
ハヅキも一緒にやるが、この子はもっと弱い。
俺達は2人共、甘ちゃんなのだ。
師匠には怒られるが、ビッグ・ママはこっそり言ってくれる。
貴方達の優しい所は魅力よ、後は少しで良いから覚悟を持つ事ね。と。
これからは自分だけじゃなく、ハヅキも守らなきゃ、だもんな。
修行がてら、近隣の魔物を狩りに2人で出る。
師匠の提案で、今回は俺とハヅキでもやり合ってみようと言う。
魔装同士での戦いに慣れておけと。
《禁域》を出てしばらく進むが、なかなか魔物の姿を見かけない。
この辺りの魔物は数日前に狩ったから、もうとっくに湧いてていいはずなのにな…
「ハヅキ、この辺の植物達に聞いてみてくれないか?」
「はい!」
「敬語じゃなくていいのに、相棒なんだから。」
「あ、はい!」
笑うがすぐに真面目な顔に戻り、震えだす。
「ユキさん、ここに来てる。」
「何が?」
「あの時の、あいつ、魔装使い。見えたの、あいつ、だった。」
「…どこだ?」
「イメージが見えたの…」
ハヅキの両肩を掴んで、目を見る。
「落ち着いて。大丈夫だ、俺達がいる。」
『小僧はともかく、俺がいるからな。何もビビる事はねぇ。』
「てめぇこの毛玉。」
ハヅキは少し笑った。
「ここから北の方に向かってる…だけど変なの。ちゃんと見えなかったんだけど、何かを連れてた。 多分、魔物…」
魔物を連れてた?
そいつの能力なのか?
とにかく警戒は必要だな。
有無を言わさず女の子に襲い掛かるヤツだ。
話し合いは出来ないと思った方が良いな。
『あぁ! 魔物を強制的に支配下に置く能力の魔装があったな。その時のマスターは、実力者だが生意気なヤツでな。何度も叩きのめしてやったよ。 ヌハハハハハ!』
師匠やるじゃねぇか!
情報は武器だ。
優位に立てる。
って事は、そいつがここいらの魔物を使役して連れて行ったのか。
魔物を強制的に…面倒な能力だな。
『常に警戒を怠るなよ。辺りの魔物を使役しているなら、何処から気付かれるか分からん。』
「あぁ、分かってる。」
「…! ユキさん! 後ろ!」
振り返りそこにいたものを握り潰す。
《殺人蜂》だ。
人間の頭ほどあるサイズの魔物で、集団で現れ攻撃してくるからかなり面倒なヤツなんだが…
他の個体がいない。
1匹だけなんて…
『まずいぞ、そいつが使役している魔物なら相手に位置を知られた。それぞれの状況を把握してるはずだ!』
「ハヅキ!すぐにここを離れるぞ!」
「え?」
『今のは相手の斥候だろう。適当に放って探らせてたんだろうな。』
遅かった。
もう周囲には多数の魔物がいた。
《ハウンドドッグ》、《ワイルドボア》に《キラービー》。
群れを成すにしても多種族は有り得ない。
しかもこの数…100以上はいる。
先手を取られた…!
「ハッハァー! いたよいたよぉ、やっと見つけたぜぇクソガキぃ! チョロチョロ逃げ回りやがってよぉ。」
薄気味悪い、灰色の髑髏面の男が姿を現わす。
ハヅキがその姿を見て怯えている。
随分と素早いヤツみたいだな。
もう来やがった。
「あぁん? なぁんだよ、他のもいたのかよぉ…クソガキなりに知恵を働かせたじゃねぇかぁ…何も出来ねぇガキなりに、"女"を使って垂らし込んだかぁ? 大したもんだぜクソガキぃ! 終わらせる前に俺も楽しませてもらうかなぁ!? ハハァ!しかしラッキーだぁ。一気に2人も潰せ…」
一気に間合いを詰め懐に潜り込み、下から腕を振り抜く。
髑髏面の男は後ろに飛び退く。
「ハハァ! あぶねぇあぶねぇ! お前そこそこやりそうだなぁ?」
「お前の評価なんてどうでもいい。ムカつく野郎だから、遠慮無くやれそうだ。」
言いながら、腕を地面に捨てる。
エネルギーを吸い取り、カラカラに萎びた髑髏面の男の右腕を。
「うぉ、お、俺のぉ、はぁ!? なんて事しやがるんだテメェ! ぶっ殺してやるからなぁ!!」
言うなり、踵を返して逃げていく。
自分の右腕が無くなった事に焦ったようだな。
大した事ないんじゃないかこいつ。
だけどお前は逃がさね…!
道を塞ぐように使役された魔物達が襲い掛かってくる。
ハウンドドッグの牙が迫るが、俺に届く前に全ての魔物が止まる。
襲い掛かって来た魔物達は、蔦に絡められ抑えられていた。
「ユキさん! ここは私が!」
優秀な相棒だ。
頷き、すぐにヤツを追う。
あれは放っておいちゃダメなヤツだ。
逃げた方向は禁域。
ヤバい!
全力で追い掛けるが早い。
後ろ姿が辛うじて見えるがどんどん引き離されていく。
さっきの一撃を避けたのは伊達じゃねぇな!
けど、ここのまま行かせたら…
禁域に入り、すぐにヤツに追い付いた。
隣には、涎をだらしなく垂らした大型の魔物が虚ろな目をして立っていた。
嫌な予感が当たっちまった…
ビッグ・ママ…
そこにはもう、威厳のある暖かい森の守護者の面影はなかった。