第5話 チュートリアル その5
『話はそこまでにしてくれよ、ビッグ・ママ。』
「あらやだ、あなたでも流石に昔話は恥ずかしいのかしら?」
「なんだよ師匠、話す約束だろ?」
『魔装の事を、だろ? それに倒したとは言えない結果だからな。初めから本気でやられてたら、とっくにお前は死んでたさ。』
「うふふ、確かに全盛期の私なら、一撃で終わらせてたわね。ダメね。私も甘くなったものだわ。」
その通りだ、一撃目のあれはヤバかった。
再生が無きゃ終わってた。
だからこそ、直前でのハイ・オークとの戦闘をさせたんだ。
気配を断ち、優位に立つ事を学ぶ為に。
不意打ちだろうが、やられたらそれで終わりだってのに…くそっ。
『しかし悪い事ばかりじゃなかった。最後のは良かったぞ。過去にもあんな風に徒手で武器を躱すヤツがいた。お前は武術の経験が無いと思ってたんだがな。』
「実戦の経験は無いよ。ここに来てからだ。そんな機会、俺の世界じゃまず無いからな。」
親父にしこたま投げ飛ばされてただけだどな。
悔しいからそれは内緒にしておく。
「じゃあ聞かせてもらうか、魔装の事を。」
『そうだな、だが先に言っておく。俺もよく分からないんだ。ヌハハハハハ!』
なんだそれ。
『俺が作った訳じゃないからな、俺は魔装に宿っただけだ。操り方もイマイチ分かってない。いや、難しくて覚えてないんだ。ヌハハハハハ!』
「あの人っていつもそう…いいかげんなのよ。」
ビッグ・ママも振り回されてきたようだ…
哀れむような目で俺を見て言う。
『分かるのは、魔装は昔に退治された魔人の身体を使ってるって事だ。死後も力は生きていて、装着した者がその恩恵を受けられるんだ。魔装αには、《吸収》と《再生》だな。腕を伸ばすのは《再生》の応用だ。破壊して腕を千切りながら飛ばしてるんだよ。』
あぁ、合点がいった。
俺が魔人の類ってのも、この魔装が開いた時のあのグロい感じも。
説明のおかげで、腕を伸ばすのはちょっと嫌になったけど。
「何で最初に教えてくれなかったんだよ…」
『俺がここに来てから…100年近いかな? だから忘れてた。ヌハハハハハ! 魔装を動かすエネルギーは完璧に尽きてたからなぁ、お前が操るのを見ながら、都度思い出したら教えてたぞ?ヌハハハハハ!』
恥ずかしいんだな。
やたら笑って誤魔化そうとしてやがる。
『だがなぁ、安心しろ。後の事はそこのお嬢ちゃんが教えてくれるさ。お前の同類みたいだしな。そうだろう?』
お嬢ちゃん?同類?
…ビッグ・ママが?
意味が分からないでいると、背後から声がした。
「気付かれてたのね。ずっと上手く隠れてたつもりだったけど…あなた、本当に何も知らないの?」
女の子の声。
驚き振り返る。
そこにいたのは…おい、覆面レディじゃないか!
覆面ライダーの相棒!魅惑の戦士!
いや、本物じゃない…
俺の魔装みたいにオリジナルっぽい…
レディは赤だけどこっちは緑色だし…
あれ? もしかして…
「初めまして。私はハヅキ。伊東 葉月よ。あなたと同じ《プルガトリウム》プレイヤーで、ギフトを受け取ってこの世界に来たの。」
言いながら彼女の魔装の兜が収納され、少しあどけなさの残る美少女が顔を出した。
人間!俺以外の…!
「マジかよ!1人じゃなかったんだ!良かったー!」
飛びつき抱き締める。
「い!いや!ばか!離してよー!たーすーけーてー!!!」
離さん!絶対に!
ようやく出会えた人間なんだ!
喋る毛玉でもなく!
獣でもない!
に!ん!げ!ん!
その後もしばらく抱き締めて覆面レディ、もとい人間の温もりを堪能した。
『その辺にしておけ小僧、泣きそうになってるぞ。』
「…! ああ!ごめん!嬉しくって、つい!」
「い、いいわよ…あなたが悪い人じゃないのは知ってたしね。」
「あっ!俺はユキだ!よろしくな!」
ハヅキは顔を赤らめて目をそらす。
知ってるってのはどういう事だ?
「昨日からあなたの後をつけてたの。ずっと見ていたわ。」
「気付かなかった…」
『お前も気配を読めるようにならないとな。今のままじゃ簡単に寝首をかかれるぞ。そのお嬢ちゃんから敵意は感じなかったから、あえて様子を見てたけどな。』
「うん、貴方がどんな人か確認したくて。覗き見るような真似をしてごめんなさい…」
「いいんだけど、なんでそんな事を?」
ハヅキは話し始めた。
この世界での始まりを。
彼女もゲーム《プルガトリウム》でギフトを獲得。
直後白い光に包まれた。
ハヅキは何も無い、白い空間にいたそうだ。
他に男が1人。
そいつはボサボサで脂ぎった長髪。
背は高くガリガリで無精髭…
そして全裸だった。
彼はハヅキに挨拶をすると、自分を"神"だと名乗る。
続けて言う。
「ちょっと君、この世界の王を目指しちゃいなよ。君にはこれをプレゼントね♪」
そう言って魔装を渡し、それがどういう力を持つ物なのかを説明した。
それぞれに固有の能力を持ち、強大な力を秘めている事。
自分を含めて24人がいるから、勝ち抜きなさい。
先着4名までが王を目指せる!
頑張って!と。
この世界のナビゲーターは皆、雑なようだ。
しかし、王…ね。
あれ?それだと…
「つまり、俺とも戦う…って事じゃないのか?」
「それなんだけど、あの…その…4人になるまで私と…同盟を組んで下さい!!!」
覆面レディと!同盟!
それは!まるで!本物の!
覆面ライダーみたいじゃないか!!!
「是非組もう!」
「良いの!?」
「勿論だよ! 覆面ライダー好きに悪い人はいないんだ!」
「な!ななな、なんでそれを!?」
「…ははーん、さては知らないな? 魔装のデザインはマスターの心が反映される事を! つまり!君は!覆面レディのファンだ!」
ハヅキは顔を真っ赤にして転がり悶えている。
「俺だって25で覆面ライダーのファンだ。何も恥ずかしい事無いさ!それにかっこいいよ、君の魔装。」
ハヅキは更に恥ずかしそうに俯く。
やっぱり覆面ライダー好きに悪いやつはいないな…
「改めて、俺はユキ。魔装αのマスターで、能力は《吸収》と《再生》だ。あ、見てたから分かるか。」
「うん…私はハヅキ、能力は《植物操作》で、あの、魔装は…π…です。」
この世界での相棒が出来た。
16歳の女子高生。
身長160cm。
黒のセミロングの髪が似合う、活発そうな美人さん。
魔装πのマスター。
貧乳だ。
神は、なんて残酷な事をするのだろう…