第3話 チュートリアル その3
この森は本当に広いな。
俺の強靭な脚力で半日は走ってるのにまだ着かない。
訓練の為にあちこち行かされてたら、ヌシが居る禁域からは大分離れていたらしい。
魔装に呑み込まれたあの場所だ。
『見えてきたな、そのまま真っ直ぐだ。もうすぐだぞ。』
他と比べて一際大きな木を見つけ、上空から降りてきて師匠が言う。
ゲームで探索してた時もそうだけど、俺にはどこも似た景色に思えて区別が付かない。
流石だな、地元妖精。
祠の前まで辿り着く。
こっちの世界で見る祠はもう少ししっかりした立派な物に思えた。
グラフィックの差か?
『小僧、《守り手の証》を持ってるだろ? ソイツを捨てるんだ。持たないままでこの奥に入れば、しばらくしてヌシが感知してやってくる。』
なるほどな。
このキーアイテムは一種の加護なのか。
『いや、待て。』
すぐに止められた。
「なんだよ?」
『他の獲物が来た…肩慣らしに丁度良い。先にこっちをやるぞ。ただし条件付きだ。相手にまともに反撃させずに倒すんだ。』
「どういう事だ?」
『ヌハハハハハ。見れば分かるさ。一先ず隠れるぞ。』
頭を魔装で覆い、気配を殺して近くの藪に身を潜めているとすぐにやってきた。
見覚えがある。
《ハイ・オーク》だ。
ここに来て初めての人型魔物だ。しかも5体。
おまけに武器や防具を装備してやがる。
めっちゃ強かったんだよなぁ…
『野生の魔物達と違って奴等には知性がある。こいつ等を圧倒する力が無きゃ、ヌシには到底勝てないだろうしな。必要な最低限は教えた。俺に認めさせてみろ、小僧。ヌハハハハハ!』
毛玉め、いつかこき使ってやる。
「イエッサー。」
さぁ、狩りの時間だ。
祠を抜けて奥へ進むハイ・オーク達に気付かれないように着いていく。
気配を殺しながらも隙を伺っていたけど、妙だ。
伺うまでもなく隙だらけ。
お前等の下位種族のワイルドボアですら簡単に背中を取らせなかったぞ?
ワザとなのか?
じれったい!
ただ列を成して歩くだけのハイ・オーク達の後ろから一気に距離を詰めて、届く範囲に居た2体に続けざまに手刀を放つ。
あれ? 防御もしないで死んだぞ?
首が地面に落ちた音でようやく反応したハイ・オーク達。
ついでだ、お前はこっちに来い。
1体の頭を掴んで飛び上がる。
分断して各個撃破だ。
枝に乗り、下を警戒しながらこいつを仕留めよう。
こいつ…気絶してやがる。
最早呆れてきたが、目覚めて反撃されたら馬鹿らしいしな。
こいつの首も落としておく。
どの魔物でもそうだけど、やっぱりこれが一番有効だな。
師匠の言う通りだ。
頭を狙え。生物である以上、頭を潰されちゃ反撃もクソもない。
残りは2体。
木の陰に隠れながら下に降りると、背中合わせになって武器を構えていた。
反撃されちゃいけないんだよなぁ…これは面倒だ。
『なかなかの動きだったぞ、褒美に一つアドバイスだ。魔装の外殻は、多少の操作が出来る事は言ったな? あれは、少し説明が足りなかった。奴等に腕を向けろ。この距離なら充分だ。』
師匠に言われるまま右腕を向ける
『貫け』
藪を突き抜けて腕が伸び、2体を纏めて貫いた。
「…………………ひょ。」
まだ驚く事があるとは思わなかった。
声出ちゃった。
師匠が横でドヤってる。
毛玉に最大限皺を寄せて顔みたいなの作ってやがる。
目も口も無い癖にどうやってんだそれ。
実に憎たらしい。
『さぁ、トドメを刺してやれ。あまり苦しませてやるな。』
師匠、時々かっこいいんだよな…
この数日厳しくされたけど、暖かさも感じる。
不思議な毛玉だ。
妖精ってのはこういうもんなのか?
1体は即死したようだが、もう1体はまだ息がある。
近寄って腕を振り上げると目が合った。
強い生きる意志を感じた。
だけど安心しろ、お前の血肉は俺と混ざって生き続ける。
俺の力となって。
だから、もう眠れ。
そして腕を振り下ろした。
オークの死体を見つめ、立ち尽くしてしまう。
『どうした? 人型の魔物と戦って、罪悪感でも感じるか?』
「…少しな。ゲームと分かっていても、今の俺にはここが現実だ。人じゃなくても、命を奪うのは、ちょっと躊躇う。」
『…殺したくないか?』
「出来るならな。 今回は俺が先手を打ったけど、逆にこいつ等が先に俺を見つけてたら襲ってきただろう?」
『それが魔物ってヤツの性だからな。それなりの知性がなければ、解り合う事すら出来ない。やらなきゃやられる。ここは』
『「弱肉強食の世界」』
「…だろ? 分かってるよ。この世界に来た理由も何も分からないまま、黙って殺されてやる訳にはいかないからな…これからもよろしく頼むぜ、師匠。」
師匠は明らかに照れ臭そうにしてる。
顔が無くても、何となく感情が分かるようになってきた。
魔装と繋がってるからか?
『ふん。まだ小僧だが、良い顔をするようになったな。ミジンコだったのが、今じゃ戦士見習いくらいにはなったかな?』
「え〜? もう戦士長くらいじゃない? 自分で言うのも何だけど、さっきの戦闘良かったぜ〜?」
『調子に乗るんじゃねぇぞ小僧が!見習いから乳飲み子に格下げだ!』
「下がり過ぎじゃね?」
笑いながらも本気の交渉の結果、無事に俺はミジンコから3歳児までランクアップした。
オーク達から無事に肉を回収。
ワイルドボアの肉は豚肉みたいで美味かったからなぁ。
上位種のオークの肉に期待が膨らむ。
ハーブとかペッパーの代わりになる草あったよな?
その時ステータス画面で確認すると、オーク達のレベルは20前後だった。
一番高いヤツで23。
流石にジャイアントワームより高い。
けど、俺のレベル低過ぎるんだよな。
今やっとレベル10ですよ?
むむむー!
ねーししょー!どうちてー?
『そりゃそうだ。お前はもう人間じゃなく、魔人の類だからな。ドラゴンと猫で同列な訳無いだろ?』
俺、人間辞めてたよ。