第2話 チュートリアル その2
「ああぁぁぁぁぁ!!!」
轟音を轟かせ、木々をなぎ倒し、地面を抉りながら進む全長10mの巨大な魔物。
《ジャイアントワーム》
俺を捕食しようと大きな口を開けて追跡してくる。
『死にものぐるいで走れー!!! 脚が千切れようとも止まるなー!!! 脚を止めたら終わりだぞー!!!』
「サー!イエッサー!!!」
師匠の教えはスパルタだった。
習うより慣れろ。
頭で理解し、実行出来るのは天才だけだ。
お前は凡才以下のミジンコだ!
プライドだ!?
それで飯が食えるか!?
そんな物は肥溜めに捨ててその上にクソしろ!!
お前は兵隊だ!俺の指示に従う事だけ考えろ!
答えは全てYESだ!
疑問を持つな!言われた事を実行しろ!
分かったらとっとと行け!
言うなり崖から突き落とされ、縛られ湖に沈められ、毒蛇の巣穴に放り込まれた。
毒蛇の巣穴に繋がって、ジャイアントワームの巣とこんにちはしてしまったのだ。
散々無茶をやらされても《魔装》を纏った俺は簡単には死ねない。
特殊スキル《再生》と《吸収》の存在だ。
《再生》によって、あらぬ方向に脚が曲がろうとすぐに治る。
腕が千切れようともくっつく。
しかしエネルギーの消費が激しい。
猛烈な空腹感と倦怠感に襲われる。
そこで《吸収》だ。
触れる事で対象の生命エネルギーを吸い取る事が出来る。
吸収したエネルギーは自身に還元。
己のエネルギー源と化す。
吸収すれば力が増し、体力も回復する。
ついでに言うと、魔装を身につけてから格段に筋力が上がっている。
軽く地面を蹴るだけで3mは飛んだ。
今までの常識では出来なかった事だらけ。
先ずはそれを体に馴染ませる。
その為のスパルタ教育だ。
…最初は拒否したよ? 全力で拒否したさ。
だって痛いのやだもん!
しかしそこは師匠が上手だった。いや…この場合は上位か。
魔装の優先操作権限を師匠が握っていた。
Noと言えば全身を締め付ける圧迫感に襲われた。
意識を失い、目覚めて、またNoと言えば繰り返された。
魔装脱いでやる!
無理でした。
俺とは細胞レベルで癒着してるそうです。
拒否権など無かった。
師匠は言う。
操れるようになればいい。
そうすれば苦しむ事など無い。
早く完璧に魔装を操れ。俺よりもな。
ヌハハハハハ。
だとよ。
偉そうにベレー帽を被り、葉巻を薫せてやがる。
毛玉め!どっから出しやがったその小道具!
声のギャップだけじゃなく、中身まで前時代的脳筋のオッサンじゃねぇか!
皆も見た目には騙されるなよ?
中身はどんな鬼畜か分かったもんじゃねぇ!
しかし悲しいかな、追い込まれる度に肉体の操り方が分かってくる。
こっちに来てから2日間ずっと扱かれてるが、《再生》と《吸収》のおかげで無事だ。
不思議と精神的な疲れも感じない。
ちょっと強くなってるのを実感して、楽しいし。
さて、俺が逃げてる事の説明も終わったし、ジャイアントワームから逃げるのも飽きた。
いっちょやってみるか。
勢いよくブレーキを掛けて横に飛ぶ。
ジャイアントワームは俺の方向転換を追いきれず、顔だけこちらに向けて転がった。
体勢を崩したのを見てすぐさま飛び付き、右手で側頭部を貫く。
「ピギャアアアアアアアア!!!」
鳴き声を上げて暴れるが、そのまま傷口を両手で掴み一気に開く!
勢いに胴体と頭部は分断された。
しばらくビクビクと跳ねていたが、触れて《吸収》を使う。
大量のエネルギーが流れ込んできて静かになった。
触れたまま念じると、ステータス画面が目の前に浮かぶ。
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LV18:ジャイアントワーム
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所持品
・ミミズ肉(大)×25
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また肉だけかよ、しかも多いな。
体積に比例するのか?
ゲームの時は魔物でも、何故か金や装備品が手に入るのに、こっちに来てから倒した魔物が出すのは肉と皮だけだ。
回収が終わると、ジャイアントワームは粒子になって消えた。
訓練をして、色んな魔物と戦い、やっぱり実感する。
この世界は《プルガトリウム》なんだと。
ゲームで出てくるジャイアントワームはそんなに厄介じゃないんだけどなぁ。
現実に目の前にするとやっぱり怖い。
そしてキモい。
自分のステータス画面を開いてみる。
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LV7:ユキ (魔装α)
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所持品
・守り手の証
・犬肉×15
・猪肉×7
・魚肉×10
・ヘビ肉×13
・ミミズ肉(大)×24
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所持スキル
《再生》
《吸収》
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LVと名前は見られるけど、HPやパラメータの数値は見る事が出来ないらしい。
自分以外の生物は、倒すか弱らせない見られない。
所持品は謎の異次元空間に出し入れ出来て、こうしてステータス画面に表示、確認出来る。
ミミズ肉×25個を回収しようとしたら、一個だけ弾かれて収納出来なかった。
容量オーバーだ。
所持品を全て出して確認してみる。
他の肉は100g〜2kg程だが、ミミズ肉は一つ10kgはある。
収納可能なのは300kgくらいまでって所か?
中途半端なリアルとファンタジーだ。
どうするかな、この魔物肉。
しかし今のジャイアントワーム、Lvを見て驚いた。
ゲームじゃレベルが10以上も差があれば相手にダメージがまともに通らないもんだったが、戦い方次第でどうとでもなるようだ。
それともこの魔装のおかげか…
『ふむ、最後の最後まで油断せず、確実に仕留める。俺の教えが分かってきたようだな! ヌハハハハハ!』
途中から姿を消していた師匠がいつの間にか肩に乗っていた。
避難してやがったな…
「なぁ師匠。ずっと忙しくしてたし、腹も空かないから忘れてたんだけどさ。飯食ってないのに平気なのは魔装のおかげなのか?」
『その通りだ、魔装はお前と融合している。《吸収》で得たエネルギーはそのまま栄養にも変わる。』
「じゃあ集めてた魔物の肉なんかは無意味だったか…」
『ん? 食いたいなら食えるぞ? ほら。』
言うと、俺の頭を覆っていた兜は液状化し胴体部に収納される。
魔装に呑み込まれて以来覆われていた生身の顔が露出され、懐しい感触がした。
「なんだよこれ!こんな事出来たのかよ!」
『ある程度なら外殻の操作は出来る。お前は無意識にやってたようだがな。さっきのワームにも、指先を鋭くして差し込んでただろ?』
確かにちょっと強くなったとは言え、普通あんなにサクサク切れないよな。
しかも素人の貫手で。
今が普通じゃないから考えてなかった。
戦いながら、覆面ライダーならこう出来る!くらいに思ってた。
イメージって大事。
『そういう訳だから、訓練はまだ続くんだ。食うならさっさと食え。』
ヌメッとした特大のミミズ肉を口元に運んでくる師匠。
「生はイヤだ! まず火を起こさないと…」
『ワガママな弟子め…そら!』
ミミズ肉は燃え上がり、良い塩梅に焼けた。
意外なほど良い香りをさせて。
「…今の、ファイアか? 魔法の?」
『あまり得意じゃないが、このくらいの初級魔法なら出来る。お前にはまだ無理だがな!ヌハハハハハ! ほら食え。』
妖精みたいな見た目して、むしろ得意分野のはずだろ…
何から何まで変なんだよなぁ。
つうか俺の知る限りこんな魔装もゲームには無かった…………ミミズ肉うめぇ。これほとんどウナギじゃん。
容量確保の為にも追加で10個焼いてもらった。
『お前も大分戦えるようになってきたからな、次の段階に進もうか』
「もぐもぐ。あにふるんわ?」
『ヌシを倒しに行くぞ。』
…もぐもぐ、ごくん。
そういえばここヌシの森だ。
「ヌシってのはどんな魔物なんだ?」
『あ〜…簡単に言えば神様だな。』
訓練開始から2日目にして、俺は神殺しをするらしい。