第1話 チュートリアル
理解出来ない…
今俺は自宅の部屋でゲームしてたはずだろ?
何で森の中にいるんだよ。
『小僧、良く来たな』
つうか今何時だよ?
明日も会社があるっていうのに…
ここどこだ?
『おい… 小僧』
なんだようるせぇな今考え事してんだよ。
あ、部屋のエアコン付けっ放しじゃんかよ。
電気代がもったいねー
『…ボサっとしてんじゃねぇ!シャキッとしやがれ!』
ふわふわの毛玉の様な物が見えた。
咄嗟に避けようとして、結果それは目に飛び込んできた。
「痛っってぇーーーー!!!」
『俺の話を聞く気になったか!? あぁん!?』
深みを感じるダンディーな声の主を探し、片目を抑えながら辺りを見回す。
目に飛び込んで来た毛玉が顔の前に浮かんでる。
毛玉には羽が生えてて、宙に浮いてる。
しかも喋ってる。
ぷるぷると体を震わせ怒っているようだ。
「…虫?」
『妖精だ馬鹿野郎、証を手にして祠まで来た強者にこの先の案内をしてやるのが俺の役目よ。…それがこんな気の抜けた軟弱な野郎だとはなぁ。先行きが不安になるぜ。』
「見た目の愛らしさに似合わない声と口の悪さだなあんた。」
『てめぇ…』
「あぁ悪い悪い。状況が理解出来てなくて、つい思った事を。」
『あん? 何が理解出来ねぇってんだ。』
「全部だ。 この場所も喋る毛玉の事も。 分かった、こりゃ夢だな? ゲームしながら寝落ちしたんだ、だからこんな夢を見てんだな」
『夢見てるってんなら、覚ましてやるぜ!』
「痛っってぇーーーー!!!」
言いながら今度はおでこに突っ込んできた。
暫く悶え、落ち着いてから俺の事情を話した。
ここに来た経緯を。
所々で妖精の理解出来ない話があるらしく、それらの説明をしながら。
『なるほどな…』
一通り話した所で妖精は思い当たる事があるらしく、この世界の話を始めた。
数100年もの間、複数の種族間での争いが続いていた事。
状況を変えたのはある国の1人の天才大魔導士。
28の強力な全身鎧《魔装》を生み出し自国の精鋭達にそれを与えた。
そして、たった一日で大魔導士の国を含めて全て滅んだ、と。
「…その話で、俺と何の関係が?」
『話に出た大魔導士だがな、多分お前の世界から来たヤツだ。』
…どういう事だ?
『城のような高い建物が建ち並び、鉄の塊で空も海も陸も高速移動する世界だろ? アイツの話は俺の理解の範疇を超えてたからな。頭の良いヤツの奇抜なジョークかと思ってたぜ。同じような話をするヤツがいるとはな。』
「…!!! その人、今はどこにいるんだ!?」
『死んだよ。 国が滅んだ日にな。』
希望が見えたと思った矢先に絶望に突き落とされた。
『どうするかはお前が決めろ。 生きる意志が無いなら死ぬだけだ、この世界じゃな。』
「死にたい訳無いだろ!! いきなり知らない世界に放り込まれて、どう生きろってんだ!! 俺を元の世界に帰してくれよ!!」
『俺に言われても困るぜ。お前がこっちに来たのは俺の仕業じゃないしな。 ただ、生きたいのなら力を貸してやる。』
「ふわふわの毛玉がか?」
毛玉は妖精だった事を思い出したように発光。
周囲を明るく照らしだす。
眩しい、張り切り過ぎだぞ毛玉!
お前が暗い所で役に立つのは分かったからそれをやめてくれ!
瞼越しにも明るいぞ!
ふっ、光は消えた。
恐る恐る目を開けると、目の前には純白の鎧が座していた。
横には毛玉がフヨフヨと飛んでる。
『お前は既に資格を持っているんだ。どんな方法であれ、ここに来れた時点でな。 改めて自己紹介しよう。 俺が、俺達が《魔装α》だ。』
「…国を滅ぼしたっていう?」
『その内の一つだ。着ていいぞ。』
「やだ怖い。」
『あぁん!? かっこいいだろうが!!』
「国を滅ぼす力なんて怖いだろうが!! そんなオーバーテクノロジー扱えるかよ!!」
『あぁ、それなら安心しろ。この《魔装》は他のと違って特殊でな。 装着者の力に比例する。 しかも今はその当時程の力は無い。 軟弱なお前が着た所で…プフォ!!!』
言い切る前に笑い出しやがった。
人を馬鹿にしやがって!
『…ふぅ、ふぅ……まぁ、あれだ。元の世界に戻る方法を探したいだろう? その為にもお前はある程度強くならなきゃな。 森を出て情報を集める前に魔物にやられて死ぬぞ? ごちゃごちゃと余計な事を考えるのは後だ、行くぞ。』
純白の鎧《魔装α》が両目を紅く光らせ起動した。
立ち上がり俺の前まで来る。
ピシッ!
ミチミチミチミチミィ…
亀裂の入る音がしたと思ったら鎧が縦に割れていく。
パックリと横に開いた鎧の中身は想像と違い、粘膜の様な質感をしている。
何これエイリアン?
バクンッ
呆気にとられていたら頭から包まれた。
「うわ!ああああ!たっ! 助け! ああああああああ!!!」
暴れるのも御構い無しに、鎧は俺を一飲みにしていく。
足先まで包まれたのを感じる。
終わった。
そう思った瞬間、視界が明るくなった。
鎧はいない。妖精だけが目の前にいる。
『完了だ。これでお前が《魔装α》のマスターだ。気分はどうだ? しかし…随分とデザインが変わったなぁ』
自分の手を見てみる。
見慣れた腕のデザインはそこになかった。
鎧の手甲のような、しかし昆虫を連想させる。
基本的に白の装甲で覆われているが、節々や手の平は黒い蛇腹のようで、質感はゴムっぽい…
胴体、頭、股間。
全身を覆われていた。
『魔装はマスターの心を読み取り、イメージする強い形に変わるんだ。さっきまでのデザインはあくまでベースだ。見てみるか?』
妖精が何処からともなく鏡を持ってきた。
これ…凄く…っぽい。
子供の頃に憧れてた特撮ヒーロー。
覆面ライダーだ。
やだ…カッコいい…
オリジナルのデザインを踏襲しつつ、俺が変身したら〜なんて空想していた姿がそこにあった。
色は白くて目は赤いけど。
『見惚れるのも分かるがほどほどにな。お前はこれから魔装の扱い方を学ばなきゃいけない。やる事は沢山あるぞ? 俺の事は師匠と呼べ!』
「はい!!! 師匠!!!」
今の自分の姿を見てテンションの上がった俺は、妖精の勢いに簡単に丸め込まれた。
俺の新世界は今、本格的に動き出す。