第0話 スタート
初の投稿になります。拙い文ですが、よろしくお願いします。
とある森の奥深く。
魔物すら避けると言われた禁域。
遥か昔から土地の者達に畏れ、敬われた。
主|の許可無く立ち入れば生きては帰れない。
すぐ側にある村の、血気盛んな若者達のリーダー格に声を掛けられ集まった腕に自信のある者が5名。
村の長の目を盗んで森の奥を目指す。
長以外が立ち入る事を許されていないからだ。
辿り着いたそこは明らかに異質だった。
簡素な祠があり、長だけが定期的に供え物を届けに来るだけの空間。
禁域は同じ森とは思えぬ程に暗く、寒く、静かだ。
冷や汗が流れたが、皆互いに目を合わせ、恐れなど感じないと強がり、奥へと歩を進める。
しかしすぐに皆気付いた。
誰かが見ていると。
喉元に常に鋭い牙を当てられている様な強烈な殺気。
若者達は後悔したが口には出さなかった。
それを言ってしまうことはプライドが許さない。
恐怖を押し殺し、仲間への面子を保つ為にも。
下らない自尊心が先立って、実力は足りていなかった。
気付かぬ内に狩りは既に始まっていた。
初めに2人、首を刎ねられ地面に転がった。
その音に気付いてようやく残りの3人は警戒体制に入るが、それと同時にもう1人が頭上の闇へと引き摺りこまれた。
直後落ちてくる生首。
残りは2人。リーダーともう1人だ。
背中合わせになりお互いがお互いの死角を守る。
どこから襲い来るか分からぬ敵を相手に構える。
やってやる!! 俺達は!! 俺は!! 誰にも負けないのだ!!
そうリーダーが吼えた時、自分の胸から何かが生えた。
ソレは腕だった。
俺達は纏めて貫かれたのだ。
腕は引き抜かれたが、もう体に力は入らない。
そのまま前のめりに倒れ、薄れゆく意識に聞こえてくる足音の方に目を向けた。
薄暗い森の中でも、ソレの姿ははっきりと見えた。
全身を覆う純白の装甲。
鈍く紅く光る双眸。
血に濡れて赤黒く光る鋭い爪。
まるでそれは白い悪魔…
すぐに理解した、こいつが禁域の主だと。
優雅に散歩をするような、しかし明確な殺意を持って近づき、トドメを刺す為に白い悪魔は腕を振り上げた。
そこでリーダーの意識は途絶えた…
「よし! 豚肉50kgゲット! 初めてみたけどこりゃ上物だな…… 今夜はステーキだ!」
ステータス画面を開き、たった今回収した食料を確認する。
ポンっと気の抜けた音と共に手の平に現れた肉の塊をしばらく眺めて、またポンっと間抜けな音を残して消えた。
「この肉だけなら容量は埋まらないし、せっかくだから香り付けに香草なんかも取って帰るか」
オーク達の体が青白く光る粒子に変わり天に昇るように消えていった。
それを見送り、白い悪魔は歩き出す。
オーク達が禁域の主と思った白い悪魔は、主ではない。
3日前にこの世界に来たばかりの人間だ。
いや、元人間か。
一体何者なのか?
事情を説明する為にも少し遡って、自己紹介を兼ねてここへ来た経緯を本人から直接話そう。
遠慮するな、是非とも聞いてくれ。
俺の名前は高橋 由紀
性別:男性
年齢:25歳
身長:178cm
体重:75kg
生まれる時に両親が男ならヨシノリ、女の子ならユキだと話していたのに、出産立会いに大興奮した親父が俺を見るなり勘違い。
出生届にユキとして登録された。
…あれが小ちゃくて見えなかった?やめろ!
あまりに愛くるしいからそう勘違いしたんだよ!
その部分の話はこれで終わりだ!
いいな!
そ、れ、で、だ。
何不自由無く育って。
思春期の過ちでちょっとヤンチャしてみて。
親父に物理的に絞られ真人間に戻って。
大学まで進んで。
そこそこの良い会社に入って。
まぁ、平和に生きてたんだよ。
仕事にも慣れて少し余裕が出て来た俺は、ふと街で広告を目にする。
その時期に丁度発売されたばかりのTVゲーム。
VR対応のオープンワールドゲーム。
《プルガトリウム》だ。
TVゲームなんて高校の頃以来やってないな…
ボーナスも出たばかりだし。
よし、買おう。
久しぶりのTVゲームと、始めてのVRに少年の心を取り戻した俺はこれにのめり込んだ。
妖精やドラゴン、様々な種族が存在する世界を冒険し、戦い、自由に生きるゲーム。
オンラインで他プレイヤーとの対戦、チームを組む、勿論ソロでのプレイも可能。
会社から戻ったらすぐに始めて、電源を落とす頃には夜中の3時前だった事などザラだった。
発売から半年が経っても売り上げランキング上位にいた《プルガトリウム》だったが、複数の同時実装されたイベントストーリーとマップが増え、また盛り上がりを見せた。
公式の添えた台詞と共に。
『新しいイベントの先に、貴方の世界を変える素晴らしい贈り物を用意してある。各ギフトが有効なのはそれぞれ先着一名、健闘を祈る』
全世界の《プルガトリウム》プレイヤー達に火をつけた。
世界に一つのアイテムを入手して、俺こそが最強に!
最初はそう思っていたが、現実は厳しい。
公式のサイトに張り出された24の新ストーリーイベントの一覧にはチェックマークが付き、それぞれのギフトを獲得した者がいることを告げていた。
スタートから半日もした頃にはその半分にチェックが付き、3日目には残り一つとなっていた。
しかし一週間、一ヶ月経とうと、最後の一つにチェックは付かない。
ネットで調べても、憶測が飛び交うだけで何も有力な情報は出て来ない。
ここまで見つからないのなら俺には到底無理だろうな…
そういえばイベントでのギフトって何なんだ?
その辺も全然情報が出て来ないぞ?
高性能な武器や防具だと思ってるんだけどな…
俺は早々に諦めて、純粋に新しいエリアを楽しむ事にした。
新マップの1つ、広大な森《禁域》をひたすらに探索していた。
端から端まで直進して歩き続けるだけでも、現実時間で1週間は掛かる広さだ。
洞窟や遺跡も良いけど、この禁域の森の雰囲気が好きでなかなかまだ他のマップに行く気が起きなかった。
探索しきれない内に他へ行くのも気持ち悪いしね。
公式の発表によると、全ての新マップはダンジョン内ではオートマッピングは働かず、セーブも出来ない。
自分の記憶を頼りに進むしかない。
HPが尽きればまた入り口からやり直し。
他の新マップはエリア内の建物や洞窟のダンジョン入り口からがそうだが、《禁域》だけは話が変わる。
森の全体がダンジョンなのだ。
複雑な地形の木々に隠れながら死角から襲いくる魔物、即死級の罠。
ストレスを蓄積させる。
他のプレイヤー達を見かける事の少なさから、このマップの人気の無さが伺える。
俺は好きだけどねここ、冒険者してるって感じ。
普段はコンクリートジャングルで文明に囲まれている分、リアルジャングルに触れたいのよ。
これにムチと帽子があれば完璧だね。
いやこれゲームじゃんとか野暮な事言うなよ?
と、進行方向に木々の隙間から漏れる明るく開けた空間を見つける。
薄暗いこの森の中で見つけたオアシスか?
新発見に心躍らせ、藪を掻き分けて飛び出す。
ひゃっほーい!!!
オークだ。
目と鼻の距離にいる。
しかも1匹じゃない、複数だ。
ここはオークの集落だったようだ。
俺の姿を見つけるなり、雄叫びを上げ大斧を構えて突っ込んでくる。
ちょっと(かなり)ビビったけど、魔法も近接戦闘もこなす、パラメータを均等に挙げた俺のキャラ《魔闘士》。
装備も現環境の中で最高の部類のものを纏った俺の敵じゃねえぜ!
ドラゴンならともかくお前ら程度1撃よ!
かかってきな!!
…待って! 強いよ君達!
1撃2撃じゃ沈まないどころか怯みもしない。タフ過ぎる!
しかも連携取ってきやがる!
前衛のラッシュに後衛の弓の援護射撃。
雑魚キャラの動きじゃねぇぞ!
お前ら設定じゃ知能が低いんじゃねぇのかよ!
避け損なった1撃を受けるとHPが1/4も減った。
ふざけんな!
慌てて魔法陣を展開、総MPを半分以上消費して魔法を発動。
俺のパラメータで覚えられる最上位魔法だ。
半径30mの範囲内に居る生物の動きは30秒間凄〜くゆっくりになる。
ポーションで回復しながら、同時に強化薬を飲む。
時間は短いが攻撃力が1・5倍になるのだ。
焦った時の筋力増強ゴリ押し!
アイテム魔法フル導入のブースト最強!
遅延空間が終わる前に仕留めていく。
全て無事に倒して、オークの所持品を漁ろうとステータス画面を開く。
表示された名前は《ハイ・オーク》。
…なるほど君達ただのオークじゃなかったのね。
俺に一撃食らわせたオークには《ハイ・オークの長》と表示される。
コイツらこのエリアの上級モンスターかよ。
…確かによく見るとオークより一回り大きく、少しデザインも違う。
いきなりの戦闘に焦ってそんな細かい事に気付かなかったけど。
……結果オーライだ!
勝てたし!こういうのも新境地開拓の醍醐味よ!
と、そこで気付いた。
画面端にイベントスタートの表示。
タイトルは《供物》。
このマップを探索していて、初のイベントだ。
よく見ないでまとめて回収した戦利品の中にキーアイテムがあったようだ。
《守り手の証》
説明文を見ると "禁域の主の守り手が代々受け継ぐ物" とある。
主…ヌシ?
待って、この子達より上がいるの?
………
……
…
ワクワクするじゃないの!!!
集落からまた森の中に入るのに、長の家の裏から獣道が続いているらしい。
そこの先にヌシはいるそうだ。
気になる!すぐに向かおう!
よくやる事だけど、上手く事が運ぶと調子に乗って慎重さを失い、すぐにゲームオーバーする。
しかしこれはゲーム、そういう楽しみ方もあるだろ?
ガンガン行こうぜ!ってやつだよ。
呑気に獣道を進むと祠が見えてきた。
今まで探索してきた箇所とは違い、明らかに暗い。
木なんてどれだけ高く伸びてんだ?
太陽の光も届かないぞこれ。
祠を調べると窪みがあった。
さっきの《長の証》を見てみると、窪みの形と一緒だ。
嵌めてみると祠がボンヤリと光り、小さな妖精が現れた。
テニスボールくらいの大きさの光の玉に、虫の様な羽。
フヨフヨと俺の周りを漂った後に、祠の後ろ、暗い森の奥へと入っていった。
何度も振り返る様な仕草を見せる。
付いて来いって事だろう。
魔法で《灯火》を出し、辺りを照らしながら妖精の後を追う。
しばらく歩くとまた開けた空間に出た。
中央には台座があり、設置された水晶のような球が淡く光っていた。
妖精がその水晶まで飛んで行き、その上をフヨフヨと回り続ける。
あれに触れたらヌシが来るのか?
警戒しながら進み、恐る恐る水晶に手を触れる。
画面に表示が現れる
『あなたの魂を捧げますか?』
〈Yes〉〈No〉
何がどうなるとは書いてないが、迷わずYES!
困った時はYESと言えば幸せになれるって、好きな俳優の映画でやってたもん。
ちょっと違ったっけ?
まぁいいさ。
〈Yes〉
『おめでとう』
『貴方は資格を得ました』
『貴方の魂を《プルガトリウム》に転送します』
『頑張って生き抜いて下さいね』
『楽しみにしています』
ゲーム内の説明にしちゃあ、なんか変だな。
数秒視界が歪んで、元に戻った。
VRゴーグルの異常か?
外して確認しようとして、異変に気付く。
ゴーグルに触れない。
鼻は緑の匂いを感じ、足には雑草と土の感触。
そして寒い。
おい、どうなってんだこれ。
俺の新世界への幕開けは、裸足にパジャマで始まった。