その9
ミコトとメイは、神楽が置いて行った金庫を台車に乗せ、裏山にある蔵の中にしまうと、祭壇がある大広間に戻った。
ぽっかり空いた天井から空を見上げながら、ミコトがつぶやく。
「神楽のやつ、なんか…しばらく会わないうちにキャラが強くなってたっていうか…」
「あら。ずいぶんと親しそうだったけど」
「普通に幼馴染の親戚ってだけだよ」
「ふうん」どこか不機嫌なメイ。
「ところでさ、神楽の最後の言葉、かき消されて聞こえなかったんだけど。“とくべつげ”までしか」
「“特別”の後に“げ”が付く言葉かしら…ゲーム、ゲスト、ゲゲゲの鬼太郎…は違うわね」
「“特別ゲスト”が収まりがよさそうだな」
「そうだとして…誰のことかしら?」
「うーん。元西園寺実質筆頭“命”で、元総理の龍おじさんですら、普通に来てるしなあ」
「そうよねえ…主な“命”関係者には、最近全員会ってるわよね」
「他グループの獣神さまは…卵を怒らせる役でやってくるだろうから…」
「保護者枠よね。特別っていうのとは違う気がするわ」
「それとさ、若青龍さまは、いったいどこで古の青龍さまを復活させるつもりなのかなあ」
「伊勢の癒し場から連れてきて…清流旅館内で、なんじゃないのかしら」
「若青龍さまは伊勢に行ったのなら、ドラゴちゃんたち、ここに置いて行ってもいいような気もするんだけど」
「どうして?」
「依り代って、依る側がいないと本来役に立たないんじゃないかなあ。ドラゴちゃんはしゃべるけど、他の子たちは話さないし」
「そうよね…何をさせるために連れ出したのかしら」
しばし考えていたメイだが、答えが出ないからか、話を微妙にそらす。
「まあ今回はカケラというか石を使って復活……そういえば石の巾着は持って行ったのかしら?」
「あるよ。あそこ、祭壇の上に置いてある」
ミコトは巾着を手に取り、中身を確認する。
「中身もある」
「石がないと復活できないんじゃないのかしら?」
「石がなくても出来ることを、ドラゴちゃんたちにさせる…? よけいにわかんないや」ミコトが考え込む。
「依る側を連れて来るのかな」
「え?」
「ドラゴちゃんて、そもそも古の青龍さまの弟龍の依り代だったよね?」
「ええ、そうよ」
「他の青龍さま5柱を連れてきて、若青龍さまと一緒に、古の青龍さまを復活させるんじゃない?」
「可能性あるわね」
「でも、まだ疑問は尽きないんだよなあ」
「次の疑問は?」笑うメイ。
「依り代たちは、獣神さまが人間とお話できるようにって、紗由ばあちゃんが真里菜おばさんに作らせたもの。で、誰と話をするため?」
「誰と…」
「だって、能力者は青龍さまたちと、というか獣神さまたちと直接に話ができるよね」
「そうね」
「はあ…考え詰めだと疲れるなあ。ちょっと休憩しようか」
「そうしましょう」
メイが祭壇の脇にあったポットでお茶を入れると、ミコトは祭壇にあったおせんべいをいくつか茶たくの上に乗せる。
「この“古都揚げ”っておせんべい、一度なくなったのに復活したお菓子らしいよ。ちょっと独特な美味しさでさ」
「待って…」メイがせんべいの包みを見つめ、考える。「“能力者”の定義…“命”の能力を持つ者っていうことよね」
「もちろん」
「そうじゃない能力者も、獣神さまたちとお話できるのかしら」
「そうじゃない…? 唐突だね」
「“コトアゲ”よ」
「古都揚げがどうかしたの?」
「そうじゃなくて、ゲンキョと書いて“言挙”。“命”同様、神様と交渉する仕事の人たちのひとつ」
「ああ…他にもあったよね、久我家が元々属していた“禊”とか、元西園寺の一派だった“木霊”とか…」
「そう、それ。その人たちは、獣神さまたちと直接お話できるのかしら」
「さあ…?」
「小説の中で“禊”の話が出て来た時に、獣神さまは出てこなかったと思うの」
「そう…だね」小説の内容を思い出しながらうなずくミコト。
「そもそも獣神さまたちって、巫女寄せ宿を守ってるわけでしょ。宿のシステムがない一派には、本来いないのかも」
「じゃあ、ドラゴちゃんたちは、その人たちのための通訳的存在ってことかなあ」
「そう。それで、その人たちが特別ゲストなんじゃないかしら」
「昔、一回、“命”と統合して、結局揉めて分裂して、現在に至るんだよね」
「華織さんが統合したのよね。だとしたら、翔太さんと紗由さんが、彼らと力を合わせることを目指していたとしても不思議じゃないわ」
「うん」
「まだ推理の段階だけど、何となく見えて来た感じがするわ」
「うんうん」
「でも…卵ちゃんたちをどうやって癒すのか…一番の課題はそこなのよね」
「だよねえ」
「もう、明日なのよねえ…」壁のカレンダーを見るメイ。「こんな時、翔太さんや、紗由さんや、華織さんだったら、どうするのかしらね」
「それだ!」
「ど、どれ?」驚くメイ。
「方法はともかく、方向性は見えた気がするよ」
ミコトはにんまり笑い、祭壇を見つめた。
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