その8
裏山に到着したジェットから降りてきたのは、真琴の孫の神楽だった。
「まこの宅急便でーす!」
「神楽!」驚くミコト。
「みーくーん! お久しぶり!」
いきなりミコトに駆け寄り抱き着く神楽を見て、固まるメイ。
「ちょ、ちょっと神楽」
慌てるミコトをよそに、自分に視線が注がれている方にゆっくりと向き直る神楽。
「あ。メイちゃん! 10年ぶりくらい?」
駆け寄っていき、メイの手を取る神楽。
「うちのみーくんがお世話になってまーす」
「うちの…?」
引きつった顔のメイに、にっこり笑顔の神楽。
「まこちゃんからの頼まれものを持ってきたの」
「まこちゃん?」首を傾げるメイ。
「真琴おばさんのことだよ。ここのうちは、皆、おばさんのこと、まこちゃんて呼ぶんだ」
「白虎さまと玄武さまがそう呼ぶから、小さい頃から、そんなもんだと思ってたの」
「ふーん…」
「ところで、頼まれものって何なの?」
ミコトが尋ねると、ジェットからは巨大な金庫が下ろされてくる。
「赤子流怒真大祭のお客様よ」
「まさか…獣神さまの卵?」メイが前に一歩踏み出した。
「そうそう。可愛いのよ~」
降りて来た金庫に駆け寄り、キスする神楽。
ミコトとメイも金庫に近づく。
「卵ちゃんたち~。このお兄さんとお姉さんが、あなたたちを、たーくさん癒してくれますからね~。ハッピーに生まれて来るのよ~!」
「え?」ポカンと口を開けるミコトとメイ。
「癒すって、俺とメイさんが?」
「そうよ。他に誰がいるの?」
「あ、あのさ、俺たち、神楽たちの力を借りようと思ってたんだけど…」
「ムリ!」笑顔で即答する神楽。
「何で?」
「私と舞ちゃんは、元々、お祭りの時に楽器を演奏することになってるの」
「どういうこと?」メイが尋ねる。
「舞ちゃんも私も巫女寄せ宿の血を引く者だから、女子は楽器担当で、男子は踊り担当。メイちゃんもご一緒してほしいところだけど、今回、それどころじゃないものねえ」
「でも、それを言ったら、俺だって踊ってる場合じゃなくなるよ」
「みーくんは、と・く・べ・つ」
「何がだよ」イラつき気味のミコト。
「舞ちゃんと私は、宿の娘・玲香女史の子孫。でも嫁に出たから、旅館的にはさほど重要ポジションじゃないわけ」
「玲香さんは、聖人おじさまと真琴おばさまのお母さまよね」
「うん、そう。まーくんとまこちゃんのママ。で、話を戻すと、みーくんは亭主の直系。しかも類まれなる龍の子・翔にいじいちゃまのお孫なんだもの。特別感満載よね!」
「翔にいじいちゃま…?」首を傾けるメイ。
「まこちゃんがね、翔にいって呼ぶから」ニコニコ顔の神楽。
「あ…はい」
「神楽たちに俺の仕事を手伝ってもらうのがムリなのはわかった。詩音ちゃんはどうなの?」
「あー…もっとムリ」疲れた顔になる神楽。「龍にいおじちゃまの直系だもの、生まれた時から伊勢に目を付けられてて、力隠すのたーいへんだったのよ。今までだって、清流の祭には参加したことないでしょ?」
「うん…でも、龍おじさんたちは“命”やめたんだし、伊勢がどうとか関係なくないか?」
「詩音ちゃんの彼氏、京都グループの“弐の位”なの。だからなるべく目立たない作戦実行中」
「大変なのね、いろいろと…」
「どうしても、力がある順に大変になっちゃうのよね。だからメイちゃんも大変だったわけで」
「別に大変とかじゃ」顔を背けるメイ。
「…ああ、大変なんて一言で片づけられるようなことじゃなかったわよね。ごめんなさい」頭を下げる神楽。
「別にそんな…」
「まあでも、日本に戻った以上は、日本なりの大変さが今後もみんなにあると思うの。独立国家の行く末を見張る人たちは、伊勢のぼんくら集団より厳しいかもしれないし」
「赤子流怒、見張られてるの?」
「今回のお祭りは、さしずめ見張りの目が光る行事の第一弾ね」
「してはいけないことは、あるのかしら?」
「ドラゴちゃんを悲しませること」
「ドラゴちゃんは若青龍さまが連れさられてしまって…」うつむくメイ。
「戻ってくるわ。古の青龍さまが復活されたあとに」
「戻ってくるのね!」神楽に抱きつくメイ。
「…そんなにドラゴちゃんが好き?」
「だって…うまく説明できないけど…ドラゴちゃんだから…」
「彼らは依り代だから、その形が失われることはないはず。きっと一緒に…あ、今はここまでだわ」
神楽はメイの腕を振りほどくと、ジェットに向かって歩き出す。
「神楽! どこ行くの?」
タラップを登りながら振り向く神楽。
「もう一仕事あるから。じゃあね」
「仕事って?」
「特別ゲ……」
言葉が轟音でかき消される。
神楽は、そのままジェットに乗り込んでいった。
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