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その5

 ミコトは深く息を吐くと、自信満々にメイに言った。

「“ドラゴちゃんに、ぬいぐるみを持って来させればいい”ってさ」

「えーと…」メイの顔が渋くなる。「言われれば、そうよね。だってドラゴちゃん、結界があるのに遺影を運び出したわけだから…」

「あ…」しょんぼりするミコト。


「ごめんなさい、私が気づけばよかったんだわ」恐縮するメイ。「で、でも、とりあえず、ミコトさん、力を使いこなせつつあるわよね」

「うん…」同情されたと思ったのか、さらにしょんぼりするミコト。

「あ、私もちょっとすべっちゃったかな。あはは…」

 ミコトはその言葉に、キリっと顔を上げる。


「せっかく、メイさんにばあちゃんの真似してもらったのに…似てたのに…」言いながら、また声が小さくなるミコト。

「そんなに…似てた…?」

「ばあちゃんより可愛かった」嬉しそうなミコト。

「ありがとう…」まんざらでもないメイ。「そうだわ、ドラゴちゃん! ミコトさんのぬいぐるみさん、持ってきて!」

「“ハコブ!”」

 ドラゴちゃん1号から4号は、遺影を運び出した時同様、整列して祭壇に登って行った。


 そして、4号の後から無造作に手を突っ込むメイ。

「入った!」そう言いながら、反射的に手を引っ込めるメイ。「あ…えっと…ん?…あ…入れない…」

 リトライしても駄目だったようだ。

 だが、その間もドラゴちゃんたちは着々と目的のぬいぐるみを運び出している。

 メイの目の前にぬいぐるみを置くと、尻尾をぶんぶんと振るドラゴちゃん。


「ありがとう…」ドラゴちゃんをぎゅっと抱きしめるメイ。

「さてと、この後、どうすれば古の青龍さまが完全復活なさるのかなあ…」

「よくよく考えたら、そこが一番の問題だったのよね」

「結界を解いたらゴールじゃなかったね」笑うミコト。

「でも、ゴールは必ず来るわ。ねえ、ドラゴちゃん?」

「“クル!”」


「えーと…」ミコトがドラゴちゃんを撫でる。「じゃあ、古の青龍さまを復活させて!」

「“……”」

 尻尾を勢いよく振り、ミコトを叩くドラゴちゃん。

「いてっ!」

「そこはちゃんと考えないと駄目ってことね…」

「ごめん…」ドラゴちゃんに手を合わせるミコト。


「青龍さまは、翔太さんが大好きで、翔太さんのために清流旅館を守ってくれていたと言っても過言じゃないわよね」

「うん」

「翔太さんに、どんな形で何をされたら、復活に応じるかしら」

「じいちゃんなら、どうするか…だね」

「ええ」

「うーん。特別な何かってあるのかなあ。俺の子どもの頃の記憶だと、じいちゃんは信心深い人というか、毎日神様に感謝して、影童さまたちを磨いて話しかけて…みんなにありがとうって言って…とにかく感謝してた、全部に」


「感謝…」

メイが天を仰ぎ考えていると、朱雀の舞う姿が見えた。

「朱雀さま…もしかして心配してる?」

 うふふと笑うメイの頭に声が聞こえる。

“うぬぼれるな、小娘!…だが、道は必ず見つかる”

 大きく羽ばたき、天へ消えていく朱雀。

“ありがとうございます、朱雀さま…”笑顔で空に手を振るメイ。


「じゃあ、まずは、翔太さんと紗由さんのように一日を過ごしましょうか」

「旅館の業務をするってこと?」

「それも含めて。駆おじさまと深潮おばさまに、お二人がどう日々を送られていたかを、改めておうかがいしましょうよ」

「う、うん…」

「以前、私が青龍さまに、女将修行をしろと言われたのは、そういうことなのかも…」

「あれって、ここにつながるのか…」大きく頷くミコト。


「そして青龍さまが、生きている翔太さんにしてあげたかったこと、してもらって嬉しかったであろうことを考えましょう」

「そうだね!…でも、俺もここ十年くらいは、離れている時間の方が多かったし…」うつむくミコト。

「それを言ったら、私は何も知らないに等しいのよ」メイが微笑む。

「だとしたら、どうすれば…」


「普通に清流旅館で過ごしましょう。時間的にぎりぎりまで。そこで出た答えを採用しましょうよ」

 メイはぽっかり空いた天井を見上げながら言った。


  *  *  *


 だが翌朝、清流旅館に戻っていた深潮から告げられたのは、詫びの言葉だった。

 メイの提案にも関わらず、祭の前後の期間は旅館を閉鎖しており、通常の旅館業務をするのには無理があったのだ。


「メイちゃん、ごめんなさいね…お祭りの前の時期って、旅館やってないの。お祭りの準備で物を発注したり、催事場の周囲の飾り物を用意したりで忙しいのは事実なんだけど…」

「あの…そういう準備以外に、当主が行う祭祀準備的なことはなかったんですか?」

「その辺は一子相伝というか…跡取りが確定してから伝えられて、それまでは亭主だけが知っていることらしいから…」


「紗由さんは、その間、何をなさってたんでしょう?」

「母さんは、けっこうふらふらしてて…」駆が現れ、すまなそうな声で言う。

「具体的に、どちらのほうへ…?」

「うーん…」

 駆が困り顔になると、後ろから声がした。


「説明しましょう」

 メイが振り向くと、そこには意外な人物が立っていた。


  *  *  *



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