その3
その後、龍の結界を解く力をコピーし、作動させたミコトとメイ。
だが、結界は解けなかった。
ため息交じりに、いったん、自分たちに写した力を解除する二人。
「あれえ。龍おじさんが結界張ったんじゃないのかなあ…」
「いいえ。龍おじさまのはず」
「“リュウ!”」
「ほら。ドラゴちゃんもそう言ってるわ。前にも話したように、この場所に来て何かできる人間は限られてるし」
「でもさ、龍おじさんの力で解こうとしてもダメっていうのは、どういうことなんだろう」
「解くためには、プラスアルファしなくちゃいけないってことなのかしら…」
「うーん」腕組みしながらミコトが翔太の遺影に話しかける。「じいちゃん! 答え教えてんか!」
「ふふ。ミコトさんたら…」思わず笑うメイ。
「ドラゴちゃんも、じいちゃんに教えて言うてや」
ミコトはドラゴちゃんに関西弁で話しかけた。
「じゃあ私も」メイがドラゴちゃんに言う。「紗由さんに、答えを教えたって下さい言うてお願いしてんか!」
「“ハコブ!”」
「え?」
メイが首を傾げていると、ドラゴちゃんその2、3、4の3体が、むくっと起き上がり、ドラゴちゃんを先頭に並んで歩き始めた。
「え? え?」目をぱちくりさせるミコト。
ドラゴちゃんたちは張られている結界が、まるでないかのように祭壇を登り、翔太と紗由の遺影を重ね、皆で四隅を持ち、祭壇を降りて来た。
「結界、解け……てないわ」
思わず手を伸ばし、掌をはじかれるメイ。
「大丈夫、メイさん?」
「ええ。でも遺影、どうしたらいいのかしら?」
「とりあえず、ドラゴちゃんたちから降ろして…」
ミコトは翔太の遺影を、メイは紗由の遺影を両手に持った。
その瞬間にミコトとメイ頭の中に声が響く。
“かくしべや”
思わず顔を見合わせる二人。
「そうか、わかったぞ!」
ミコトは遺影を持ったまま、部屋から走り出た。
* * *
覗き見隊に加わっていた龍と奏子は、ニッコリ微笑んだ。
「意味は理解してないようですけど…正解に多少近づいてますわね」
「プラスアルファは羽童なんですか?」
鈴露が尋ねると龍は首を振った。
「おにいちゃん、絶対にそう思い込んでるわね…」
「では何なのですか、龍の宮さま。あなたさまを上回る力がどこに…」
鈴露が改まった様子で聞くと、龍も改まった声で答えた。
「清流旅館には私より力強き方がおわすではございませんか」
* * *
ミコトは旅館の一番奥にある、通称“隠し部屋”にたどり着くと、その室内の欄干に飾ってある羽童をそっとつかんだ。
遺影を手に後から入って来たメイが、その様子を見て頷く。
「なるほど。羽童さまなのね」
「“チガウ!”」
いつのまにか部屋にいたドラゴちゃんが叫んだ。
「…違うのか?」泣きそうな顔で、羽童を欄干に戻すミコト。
「うーん。隠し部屋、隠し部屋…」
部屋を見回すメイの目に一瞬、青いもやのようなものが映った。
「…あ! 青龍さまよ! 答えは若青龍さま!」
「え?」
「だって、そうでしょ。龍おじさまを力で上を行く何かがいるとしたら、亡くなった華織さんと青龍さまぐらいじゃない?」
「鈴露は?」
「鈴露が最強なのは儀式中のことだって話だったわ。普段は、最強の“命”というには頼りないし」
「まあ、真里菜おばさんとか史緒おばあさまには負けっぱなしって感じだよな」
「でしょ? だとすれば、若青龍さま以外に考えられないわ。何か、その辺で青いのが、もやもやしてたし…」
「ドラゴちゃん、若青龍さま、ここにいるの?」
「“ニゲタ”」
「はあ?」声を揃えるミコトとメイ。
「どこに?」メイがドラゴちゃんを撫でる。
「祭壇に結界を解きに行きなさったわ」
「ん?」
メイがミコトを、というより、ミコトが左腕に抱えていた遺影を見る。
「今の声…」
「じいちゃん!」遺影を両手で持ち、翔太の笑顔を見つめるミコト。「また、しゃべれるのか?」
「それより、はよ戻りや。青龍さまをお手伝いせんと」
「わ、わかった」
ミコトが入口を振り返ると、すでにメイが猛ダッシュで部屋を抜け出ていた。
「待って…!」
「紗由ちゃん以上に、かかあ天下になりそやな」
翔太の遺影が小声でつぶやいた。
* * *
そしてメイが、祭壇のある大広間に飛び込むと、すでにドラゴちゃんが戻っていて、メイを振り返る。
「ど、どうしたの、これ…?」
メイは部屋の中を見て唖然とした。
* * *




