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その24

 駆とミコトの舞も終わり、真大祭は終幕となった。

 本来ならば、赤ん坊たちを怒らせて怒りを流すはずだったのだが、卵からかえった赤ん坊たちは自由に動き回り、祭祀に加わってもらえない。

 祭主の駆がそこで判断を下した。

「赤子さまたちにも、自由に祭を楽しんでいただきとうございます」


 そして、ミコトの件で、改めて“気の寄付”をしていただいた獣神に、追加の土産が振舞われた。

 ミコトが助けた青龍の親神が問う。

「これは、いかに使うものぞ?」

「次回の祭では、皆さまにもブースをご用意し、お好きなことをしていただきたく存じます」ミコトが親神を見つめる。「それに必要なものを、久我コンツェルンが承るためのチケットでございます」


「“クガコンツェルン、イイモノ!”」ドラゴちゃんが叫ぶ。

「いい子ね、ドラゴちゃん」淡々と言う真里菜。

「そのような土産とは…」龍神の笑い声が響く。「清流旅館が、我ら獣神の楽しみを考えている。その思い、承った」

 龍神は空へと消えて行った。


  *  *  *


 祭が終わった後、翔太と紗由の祭壇がある大広間にミコトたちはいた。

「本当にどうもありがとうございました」

 畳に頭を擦りつけるようにして、龍に礼を言うミコト。

「ありがとうございます」同様に深く頭を下げる駆。

 その傍らで深潮と、メイも頭を下げている。

「いや、私が礼を言われるようなことではないよ。響さんを呼んだのは…」龍が微笑む。「いや、それより、そろそろ宴会の準備だな」


「そういえば…奏子おばさんも、真里菜おばさんも、史緒おばあさまもいないんだけど…?」

 ミコトが龍に尋ねると、真里菜が台車に乗った沢山のぬいぐるみを広間に連れて来た。

「はーい、皆さまおいでですよー!」

 その先頭のぬいぐるみは、ゴージャスないでたちの赤い鳥だった。


「おばあさま!」思わず叫ぶ龍。

「騒がしくてよ、龍」

「もしかして、西園寺華織さん?」ミコトが赤い鳥をじっと見つめる。

「“命”さまだ…」

 充がぬいぐるみに近づくと、ぬいぐるみが声を掛けて来た。

「充くん。今日は響さんのご案内ありがとう」

「い、いえ。とんでもありません」


「どうかしら、この依り代。まりりんがステキなお帽子とドレスを作ってくれたの。奏子ちゃんが綺麗な石を選んで、その石で華音がネックレスを作ったのよ。お名前は史緒ちゃんが書いてくれて、その横に、咲耶ちゃんの印も押してあるの。鳥のお顔は、まこちゃんのデザインだし」

「よ、よくお似合いです」


「おばあさま、充くん、困ってる」

 台から降りて腕組みするのは、髪をアップにして着物を着た青い龍のぬいぐるみだった。

そういうそばから、袂からお菓子を出してもぐもぐと食べるのを見て、龍が言う。

「紗由か…」

「この着物ね、大島紬なの。まりりんが奮発してくれて。うふふ」

「でも顔が龍だしなあ…」


「顔が龍だろうが紗由ちゃんは、ごっつうかわええで」

 そう言って現れたのは、燕尾服に蝶ネクタイ、シルクハットで口にバラを加えた龍のぬいぐるみだ。

「このバラ、本物の“プリンセス紗由”なんやで!」

「ふうん…」


「師匠、ごっつう似合ってはりますわ」舞が飛んでくる。「紗由姫も品のええお着物で…あ、これどうぞ」

 なぜ持っているのかわからないが、舞が懐紙をポケットから出して、紗由のお菓子に添える。

「ありがとう」

「何や、お声がお若いですな。姫も師匠も」

「設定が9歳ぐらいになっとんねん」


 ぬいぐるみたちは、自分で台車を降り、その横にある台車に積まれた補助いすを運び出した。どうやら自分が食事をするテーブルに持って行くようだ。

「あの、私たちがやりますので…」

 メイが駆け寄ると、マッチョなネコのぬいぐるみが声を掛けて来た。

「いいんですよ。皆、久しぶりの体なので動きたくて仕方がないんです」


「あなたは、もしかして…高橋進さん…?」

「はい」

「うわあ! 私、ファンなんです」

 ネコの前足を持って一瞬握手すると、足をそーっと置き、後ずさるメイ。

「ありがとうございます……あ、悠斗。これ、手伝ってくれるか」

 呼ばれた悠斗が駆け寄る。

「白虎の姿を借りている方のテーブルに置いてくれ」

「…何、これ」


「見ての通り、またたびよ」

 白い長毛の猫のぬいぐるみが傍に来て言う。

「ママ…白虎さまにしたんだ」

 悠斗が言うと、未那は両手を腰にやり、悠斗を見る。

「進ちゃんのおそろいに決まってるじゃないの」

「そうだよね」悠斗が笑うと、未那も進も笑う。


「なんか、いいわね。こういうの」

 微笑むメイを見ながら、ミコトも微笑む。

「うん。皆、楽しそうだ」

「楽しい事の次に来るのは…」神楽が現れ、二人に言う。「支度が済んだら、龍おじさまから大切な話があるそうよ」

「お祭り終わっておめでとう、とかかな」

「故人まで呼び集めてする話なのよね…」

 難しい顔で龍の後姿を見つめる神楽に、ミコトとメイの心はざわつき始めた。


  *  *  *


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