その16
現れたのは真里菜だった。
「久我コンツェルンの総力を結集させていただいたわ」
「真里菜おばさん…すごいですね!」叫ぶミコト。
「久我を甘くみないでちょうだい」鼻で笑う真里菜。
「ここ、土なのに、そのハイヒールの音、どうやって響かせるんですか?」真里菜の足元を見つめるミコト。
「…気合いです」
真里菜は眉間にしわを寄せ、あなたの教育が悪いとばかりに駆を睨む。
静かに顔を反らす駆。
「で、総力結集の結果っていうのは…?」
「前から紗由ちゃんと相談してたの。依り代ちゃんたちのバージョンアップを」
「バージョンアップ?」
「以前、お持ちいただいた依り代ちゃんたちのお取替えサービスよ」
「へえ、それはいいですね。ぬいぐるみも60年経てばヨレヨレですよねえ」
「…ミコト。久我が作ったぬいぐるみは、そのぐらいの年月ではヨレヨレにはなりません」にじり寄る真里菜。
「す、すみません…」後ずさるミコト。
「そして性能もぐんとアップしてるわ。録音録画機能で、旅館の人たちとの思い出のアルバム作成がすぐに出来たり、秘密のオフ会用SNSと連結してたり、その他もろもろ」
「すごいなあ…」今度は素直に感心するミコト。
「それに関してはサイオン・イマジカも協力させてもらってる」
「聖人おじさん!」
「うちの両親、賢児と玲香が、非能力者だったがゆえに、私とまこの事を心配して、いろんな記録を取っていた。そういうデータを再編集して、旅館の方々向けに映像をまとめたんだよ」
「私たちの親の世代、ほとんど能力者じゃなかったから…」真琴が言う。
「でも…その世代を立派に育てて下さったこと自体が、類まれなる能力なのでは?」
微笑むメイに、真琴も微笑む。
「じゃあ、久我コンツェルンとサイオン・イマジカの協力で、何とかなるのかなあ」
「何言ってるの、ミコト」真里菜が険しい顔になる。「こちらで用意するのは、全員に差し上げるお土産の品よ。“気”を寄付していただけるように工夫するのは、あなたの役目です」
「…はい」ミコトが目でメイに助けを求める。
「気をよくさせて、気をいただけばいいのよね…」腕組みして考え込むメイ。
「でも、見張りっていうか、監視が来るんだよね。突拍子もないことは出来ないかなあ…」
「そんなの、無視すればいいわよ。…って、どういう人が来るのかしらね」
「聞いとらんの?」舞が二人を見つめる。
「ええ」
「現存する西園寺の“命”さまや」
「昇生おじさん??」
昇生という単語に反応して、ドラゴちゃん2号が目をぱちっと開け、キラキラを飲み込む。
「“アークン、ヤット、ネンガンノスパイニナレタノネ!”」
「ばあちゃん!」
「あの…念願の、というのは?」
「“サイオンジタモツ・タンテイジムショデ、スパイヲシタガッテタンダケド、ムイテナカッタノヨ”」
「へえ…」
「“ビコウガニガテデ”」
「大丈夫なのかな、今回のスパイは…って、スパイ活動なの?」
「西園寺の動向を探れたら仲間と認める…みたいな?」
「あの方たち、そういうの得意ですから」苦々し気に言う奏子。
「そうだ! 得意なことしてもらおうよ、昇生おじさんに」
「まさか…生け花?」
「そう。舞ちゃんたちの演奏に合わせて生け花してもらうんだよ。前に、そういうパフォーマンスしてたよ」
「じゃあ、走馬おじさまの曲を使ったらどうかしら」
「それいいね!」
ミコトがゴキゲンになっている後ろで、真里菜が大きく咳払いする。
「で、あなたとメイちゃんは何をするのかしら?」
「えーと、紗由ばあちゃんの着物着て…」
「190センチ近いあなたが着られる女物の着物がどこにあるの! そのまま来たら、バカボンみたいになっちゃうでしょ!」
「裾を足すとか…」
「そんな、おしゃれじゃない紗由ちゃんなど、私は認めません」
「祭ちゃん!」メイが祭を呼ぶ。「ミコトさんの得意なものってなあに?」
「おにいちゃんの?」途端に困り顔になる祭。「…鈴露さま、何だと思います?」
「うーん」考え込む鈴露。「バック転とかトンボ切るとか…?」
鈴露の言葉に、メイが何かをひらめく。
「ねえ、鈴露。それ、あなたも出来るの?」
「少しぐらいなら…」
「舞踊くん! あなたは?」
「こう見えて僕は、世界各地でサーカスのバイトをしてたりしてね」
「ふうん。最近のサーカスは手広いのね。世界征服までやってるなんて」
「こ、子供たちに夢を与えて、世界を征服してるんだ!」
苦し紛れに言う舞踊にメイが近づき、不遜な笑みを浮かべる。
「それ、いただきました」
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