その15
「おばあさま…ですね?」龍がドラゴちゃんに声を掛ける。
「ドラゴちゃん、女声になった!」驚くミコト。
「龍おじさまのおばあさまって…西園寺華織さん?」メイが呟く。
「“リュウ。イマ、ワカセイリュウサマト、オハナシシテイルノ”」
「…申し訳ございません」一歩下がる龍。
「龍おじさんより偉い人、初めて見た…いや、聞いた…かな、これは」頭を抱えるミコト。
「華織の頼みでは断れぬではないか」若青龍のぼやく声。
「“ゴカイダククダサルト、オモッテマシテヨ、ワカセイリュウサマ”」
「青龍さまより偉い人、初めて…聞いた」
「“リュウ、ワカセイリュウサマノ、ヒロイオココロニ、カンシャスルノヨ”」
「はい」若青龍に近づく龍。「若青龍さま。ご配慮、ありがたき幸せに存じます」
「今後のことはよきに計らえ。我はしばし休む」
若青龍はそう言うと、体を清流旅館の敷地内に移し、寝息を立て始めた。
「…動けるってことは、狸寝入りだったのかしら…」少々不満げなメイ。
と、その時、ドラゴちゃんその2が、お腹のポケットから、キラキラした何かを取り出し、ごくりと飲み込むと言った。
「“ヤッパリ、オバアサマガ、イチバンイイトコロヲ、モッテイクノネ”」
「その声、ばあちゃん!」
ドラゴちゃんその2に、そろそろと近づいていくミコト。
「“オソクテヨ、サユ。マタ、オヤツデモタベテタノカシラ”」腕組みをするドラゴちゃん。
「天国でも、お菓子食べ放題なのかなあ」感心するミコト。
「“ショウチャンノ、ネクタイガ、ナカナカキマラナクテ…”」頭をかくその2.
「ネクタイ…どこにあるんだ?」ミコトが腕を組む。
ミコトの言葉に反応するように、ドラゴちゃんその3が叫ぶ。
「“シャ!”」
すると、ドラゴちゃんその3の手元にストライプの蝶ネクタイが現れた。
「じいちゃんのお気に入りの蝶ネクタイだ!」
「…何をどうやって写したら、あれになるのかしら」メイの首が大きく傾いた。
その3も、その2と同様にキラキラした何かを飲み込むと、口を開いた。
「“オソクナリマシタ、ミコトサマ”」
「“…ショウタクンタラ、ソンナ、オオムカシノヨビカタシテ”」笑い声が辺りに響く。
「“アイカワラズノ、オウツクシサニハ、サスガノワカセイリュウサマモ、ヒトタマリモアリマセンナ”」
「間違いない! じいちゃんだ!…でも、相変わらずのお美しさって、どうやって確認するんだ??」
「“ショウタクンコソ、アイカワラズネ”」
「“アア、ゴアイサツガオクレマシタ…”」その3がミコトの腕を引っ張る。「コレガ、ワレラガマゴノ、ミコトニゴザイマス」
急に名前を呼ばれて焦るミコト。
「初めまして。清流旅館九代目当主…見習いの、高橋ミコトです」
「“ゴキゲンヨウ、ミコトサン。ヨコガオハ、サユニソックリネ”」
「は、はい」
ドラゴちゃんに向かって緊張するミコトを眺めていた一同は、そのシュールさにどう反応したらいいのか、わからずにいる。
「“アラ…、モウジカンダワ。ホカノワカイカタガタハ、マタノチホド”」
「おばあさま!」
「“ワカッテイテヨ、リュウ。アナタガエランダミチハ、タダシイワ”」
「おばあさま…」
ドラゴちゃんは、その場にパタンと倒れた。
「ドラゴちゃん!」メイが駆け寄り、抱き上げる。「お疲れ様…」
そういうメイの後ろで、2号と3号もパタパタと倒れていく。
「だ、大丈夫? みんな!」ミコトが駆け寄り抱き上げる。
「ふう。降臨はいったん終了ってことね」メイが、なぜか空をきょろきょろと見回す。
「そのようだね。何か慌ただしかったけど、とりあえず、昔のような形でお祭りができる。これで青龍さまたちも大丈夫だね…」
「うーん。それはどうかしら」顔が曇るメイ。
「何で? 青龍さまたちに負担がかからない形で祭ができるんだよ?」
「何をご褒美にして、獣神さまたちを呼ぶの?」
「あ…」
「もう、明日なのよ。卵ちゃんたちの親御さんは来てくれるでしょうけど…前回の時の依り代ぬいぐるみみたいに、それ以外の獣神さまたちが来たくなるような何かを、今からどうやって用意したら…」
ミコトとメイが頭とドラゴちゃんたちを抱えていると、背後からハイヒールの音が近づいて来た。
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