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その13

 メイは恐る恐る舞に聞いた。

「問題って…いったい…?」

「若青龍さまが、とぐろ巻いとんねん。その周りを結界で覆って、その中で古の青龍さま復活作業をしていただくはずだったねんけど…」

「ねんけど?」

「はみだしとんねんなあ、これが」

「はみだし…?」


「尻尾の先が、清流旅館の敷地内からはみ出して、公民館まで行ってもうて…」

「若青龍さまに動いていただけば?」

「疲れて眠っとんねん、これが」

「起こせば…?」

 ミコトが言うと、少々不機嫌そうに答える舞。

「できるなら、当にやっとるわ」


「捕獲網で覆って運べば?」舞踊が言う。

「物理な網は使えん。物理なお方やないからな。ただ…どのみち動かさんといかん。せやから、若青龍さまを瞬間でええから起こせる…気を引ける何かがないかと考えとるんや」

「僕がやる! 僕が蝶を使う!」

「…できるんか?」

「できるかどうかじゃない。やるしかない」

 強い口調の舞踊に、舞は、まったりと微笑んだ。

「わかった。一緒に来いや」


  *  *  *


 現場には龍や華音をはじめとする、関連メンバーが一堂に会していた。

その面々を前に、緊張した面持ちで説明する舞踊。

「蝶の鱗粉で鼻をくすぐります。次に、若青龍さまが目を開けたら、蝶の大群で気を引きます」

「それだけで気が引けるものかね」

 龍が言うと、緊張気味に答える舞踊。

「古の青龍さまを蝶で形どります。普段、蝶は黄色ですが、青にします」

「わかった。やってみてくれ」


 舞踊が頷くと、彼の扇子から蝶が続々と飛び立ち、空に舞う過程で黄色から青に色を変えていく。

 竜巻のように回りながら天へ昇る姿は、まるで本物の龍だった。

「へえ、やるやん」感心する舞。

「すごーい! これ、明日もやってもらいましょうよ」

 メイが言うと、ミコトもうんうんと頷く。


 蝶の龍は若青龍の顔の傍でキラキラした鱗粉をまき散らす。

 鼻の穴をムズムズさせながら、若青龍はゆっくりと目を開けた。

 だが青い物体に目を止めると、とぐろを解き、真っすぐに天に向かって体を伸ばしたかと思うと、さらに公民館の敷地のほうへと体を移動させた。

 そして、何事もなかったかのようにとぐろを巻き、顔をその真中へうずめてしまった。


「そっちじゃない…」うろたえる舞踊。

「逃げたか?」ため息交じりの龍。

「若青龍さまって、古の青龍さまが実は苦手なのかしら。散歩中に大型犬に会った小型犬みたいな動きだったわよね」腕組みする華音。

「動いたけど、逆方向だから、よけいにはみ出ちゃったわね…」悔しそうに言う真琴。


「…すみません」

 泣きそうな声で謝る舞踊に、奏子がやさしく微笑む。

「あなたのせいではありませんよ、舞踊。あなたはよく頑張りました」

「奏子さま…」決心したように舞踊が奏子に告げる「もう一回やらせて下さい! 今度は逆側を狙います」

「うーん…難しいかもしれないねえ」大地が若青龍の気配を読みながら言う。「今のでけっこう体力を使ったんだろうね。さっきより寝息が大きくなってる」

「そんな…」


 と、その時、若青龍のとぐろの端から、青いぬいぐるみたちが、わらわらと出て来た。

 メイに向かって走ってくる。

「ドラゴちゃん!…たち」驚くメイ。

「“オクスリ、ダシテ!”」

「お薬?」

「“ダシテ!”」


「えーと…何をどうすれば…」

「あ!」何かに気付いて叫ぶミコト。「メイさん、俺たち、ひとつ肝心なものを忘れてたよ」

「肝心なもの?」

「神箒だよ!」

「そうね。神箒ならお薬よね。実際に凛おじさまと鈴露に使ったわけで…」何かン度も頷くメイ。「でも今、ここにはないし…」


「あるわ」

 現れたのは祭だった。

「祭! 体、大丈夫なのか?」

「あ…ええ。全然平気。それよりこれ、神箒…」

 鈴露が祭の横で神箒の木箱をスーツケースから取り出していると、その横からドラゴちゃん5匹が箱を持って走り出す。

「あ!」

 鈴露が叫んだ時には、目に映る箱は彼方へ消えつつあった。


「ドラゴちゃん! こら!」慌てて後を追うメイ。

 だが当のドラゴちゃんは、若青龍の横に走っていき、箱を開けると、神箒を取り出す。

 箒の周りをぐるりと囲む5匹は、両手を前に突き出し叫んだ。

「“シャ!”」

 掛け声と共に、5匹それぞれの手には、神箒のコピーが現れる。

 5匹は若青龍にそれぞれよじ登り、その神箒で若青龍をポンポンと叩いた。

「“オキテ!”」

 シュールなその状況に、一同から笑いが漏れる。


「ドラゴちゃん! 本物の箒、どうするの!」

「“メイノブン!”」

「私の?」

「一緒に叩けばいいんじゃない?」

 ミコトの言葉に、メイは一瞬考えた後、ミコトの手を引っ張り、若青龍の元へと走り出す。


「コピーじゃだめなのよ。ドラゴちゃんたちは若青龍さまを叩き起こせるかもしれないけど、エネルギーを与えられないわ」

「じゃあ、どうするの?」

「ウエディングケーキ、入刀しましょう!」

 メイは満面の笑みでミコトに告げた。


  *  *  *


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