その10
ミコトは自信満々にメイに言う。
「俺たちも特別ゲストを呼ぶんだよ」
「呼ぶって、いったい誰を?」
「じいちゃんと、ばあちゃんと…華織さん」
「華織さん!? 祭壇の二人とはお話したけど…どうやって?」
「ばあちゃん、遺影があれば大丈夫って言ってたよな。故人でも依り代があれば呼べるってことだよね」
「だったら華織さんの遺影とか、依り代になりそうなグッズを置いてみたりすればいいのかしら…」
「朱雀さま用のぬいぐるみとか、華織さんが作っていたアクセサリーとか、所持していた石とか…」ミコトが思いつくままに上げていく。
「ねえ、だったら…」メイが身を乗り出す。「清流旅館の故人の方々、皆さん呼べば?」
「皆さんて?」
「翔太さんが小説の中で、じっちゃんて呼んでた五代目とか、女将の六代目とか…青龍盛りを考案された翔太さんのお父さまとか、そうそう、弥生ちゃんも!」
「いいな、それ。少なくとも、うちのグループの獣神さまは喜んでくれるかも」
「紗由さんは、ここでパーティーを下幼い頃から、全国の獣神さまと仲良しだと思うの。最近まで全国巡りもなさっていたわけだし、きっと清流旅館の方々のことは、他の獣神さまもご存じよ!」
「だと嬉しいなあ」ニコニコ顔のミコト。
「そうだわ。清流旅館の方々だけじゃなくて、いっそ古の“命”関係者たちも呼びましょうよ」
「華織さん以外にも?」
「ええ。華織さんのご主人の躍太郎さんとか、華音さんのご両親とか、紗由さんたちの御両親も!」
「それだと、“まーくんとまこちゃん”の両親もだよね。そうだ。伝説の総理大臣、西園寺保がいた!」
「と、なると…四辻の先代“命”もかしら…」少し緊張気味の表情になるメイ。
「来てくれるかなあ…因縁の人だよね、ある意味」
「でも、翼おじさまと奏子おばさまのおじいさまだし、因縁があったからこそ、ここでの邂逅に意味があると思わない?」
「…そうだね。あ、あと、ばあちゃんの師匠というか、先の…“命宮”もかな」
「そうよ! 忘れてたわ。私、けっこうファンなの、進子ちゃん」うふふと笑うメイ。
「ふーん。マッチョな強面がタイプなんだね」
「違うわ。彼がいたから、西園寺はやってこられた。華織さんを支えたハートの問題よ」
「確かに、ものすごい人だけど…」
「不遇な身の上で、普通ならダークサイドに落ちちゃうところを、弟さんへの思いで頑張りきったわけでしょ。ミコトさんだって同じじゃない。家族への愛で、それまでの…いろいろを飲み込んで、今こうして頑張ってる」
「褒めてるわけ?」なぜか少し不機嫌そうに聞くミコト。
「えーと…何の話してたのかしら…そうそう、ご招待する故人の方々」
「高橋命宮もだけど、西川先生の一族もだよね」
「そうね…私にとっては、おじいちゃまの母親だったり、祖父だったり、叔母だったり…いろいろつながってもいるし」
「何だか一族郎党大集合の宴会みたいだよね」
「笑っちゃうわね」
「…いいんじゃないかな。笑ってて。真琴おばさんも、そう言ってた」
「そうねえ…」スッキリした顔で微笑むメイ。「ただ、お祭りでは赤ちゃんを怒らせるんでしょ? ある意味、笑えないわ」
「…それ、やめよう」ミコトがゆっくりと言う。
「え?」
「赤ちゃんを怒らせるのをやめる。受け継いでいる怒りを、ただ癒して流すだけにする」
「そんなこと、できるの?…ていうか、して…いいの?」ミコトを見つめるメイ。
「いいさ。暫定当主の祭の後を継ぐのは俺だ。亭主が祭のやり方を決めて不都合があるかな?」
「…ありません」
「じゃあ、そうしようよ。だって、そもそも怒りって、誰でも持ってたりするんじゃない? わざわざ新たに作らなくても」
「赤ちゃんでも?」
「ママがこっち向かないとか、オムツぬれてて気持ち悪いとか…」
「でも、人間の赤ちゃんの怒りを流すよりも大変そうだわ…」
「難しく考えなくていいさ。ただ流す。そこにある怒りを認めて、バイバイって」
「そうね…ただ、流せばいいだけ。それで充分に赤子流怒だわ」
「でしょ?」
微笑み合うミコトとメイの横から、ひらひらと黄色い蝶が飛んできた。
「蝶…?」
ミコトが蝶の飛ぶ先を見つめると、そこには一人の青年が立っていた。
だが、黒い山高帽を深くかぶっているので顔が見えない。
「ルールを変えるのでしたら、主宿としている“命”の許可を得ませんとね…」
青年がそう言うと、蝶は青年の持つ扇子の中に入り、そこに描かれた絵の一部となった。
「その扇子…舞踊くん!?」驚くメイ。
「マイトって…詩音ちゃんのお兄さん…?」
「ミコトくん、ごきげんよう。そして…ごめんね」
「ごめん…?」首を傾げるミコト。
「なんか僕、この祭りをつぶすことになりそうだ」くっくと笑う舞踊。
帽子を取り、妖艶な笑みを浮かべる舞踊を、ミコトとメイは茫然と見つめた。
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