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ルシウスの店

 

「どうだ、王都は?」


 恨めしそうなミライアを置いて来たスイとデヴィスは王城から出、王都の街を歩いていた。


「活気があって、皆楽しそうだ。勇者など必要なさそうだな」


 昼前ということもあり、店からは食欲をそそる香りが漂い、子供たちはきゃっきゃとはしゃいでいる。何より人が多い。


「これから必要になるのさ。スイの世界はどんな場所だったんだ?」


 デヴィスは今更な疑問を投げかけたが、スイは聞いていなかった。


「デヴ、あれはなんだ」


 スイの指差す方は建物の少ない王都の端、怪奇な建物が孤立していた。屋根には何本かの棒が刺さり、それはよく見れば斧や槍だったりする。建物全体に様々な色の蔓や葉が巻きつけられ、看板には『ルシウスの店』とだけ書かれていた。因みにその看板は燃えたり、紫電を放ったりしている。


「……ああ、あれか。やめといたほうがいいぞ。奇人ルシウス。いつの間にかあそこに居て、店と書いてあるのに人を入店させない変人野郎だ」


「そうか、ならデヴはここで待ってろ」


「はっ?スイ、冗談だろ?」




 声を掛けるデヴィスを置いて、スイは建物に近付く。そしてピンク色の芝生に踏み込んだ瞬間だった。


「キシェェア」


 襲いかかって来たのは丸々太った二羽の青い鳥。牙をむき出しにした形相は、幸せなど運んでくれそうにない。


火炎(やきとり)


 スイはオリジナルの詠唱魔法で鳥を丸焦げにする。

 ミライアが見れば驚かれる事だが、オリジナル詠唱というのは無詠唱よりも難しく、独自の魔法を創り出せる可能性に繋がってくる。

 もっとも、剣士のデヴィスも、異界人のスイもそんな事知らないが。


 そしてスイがもう一歩踏み出した時、建物に巻きつかれていた葉が、回転しながら襲ってくる。触れれば切れそうなその全てを剣で叩き落とし、もう一歩踏み出す。


 次に襲って来たのは蔓だ。何本もの蔓がスイを叩き潰さんと、音をあげて振り抜かれる。

 そしてスイは思った。


 ――めんどくさい。


 客として、店主に敬意を払ってアトラクションの相手をしていたが、早くも飽きた。


魔力鎧(マジックアーマー)


 スイは常人が使うよりかなり強度の高い魔力鎧を纏い、平然と店内に入る。

 途中で炎や雷も襲って来たが、薄い膜のような魔力鎧に防がれ、スイにダメージはない。




「はっはっは!とんでもねえ奴がきやがった、客は漆黒以来だな。俺はルシウス。お前は?」


「スイ」


 店内に入ると、カウンターで待ち構えて居たかのように男はスイを見ていた。

 金とは違う黄髪のポニーテールは長く、腰まで伸びて、スイによく似た眠そうな瞳は黄色くくすんでいた。

 ルシウスは引きこもりな為、勇者の容姿を知らなかった。故にスイを、容姿の良い強い餓鬼、と認識した。


「そうか、スイ。何の用だ?」


「用も金もないが、なんとなく来た」


「はっはっは!イカれてやがる!俺以上だな!いいぜ、特別に俺の恋人たちを見せてやる」


 ルシウスはそう言うと、奥の部屋から様々な道具を持ってきた。


「見ての通り俺は道具屋。まあ、ひと昔前は武器屋って言っても差し支えないモンも扱ってたんだけどな、そんな事はいい。どうだ、お前さんにこいつらの美しさがわかるか?」


 ルシウスのくすんだ瞳は道具を自慢している時だけは少年のように輝いている、スイはそう感じた。


「この薬はなんだ」


「ん、あぁ、すまねぇ、説明を忘れてた。端から、色を変えるポーション、声を変えるポーション、んでこの仮面が魔力認識阻害の仮面だ」


「変装でもするつもりか。……しかし、丁度俺には必要だな…」


「なんだスイ、金が無いのに欲しいのか?俺はそこまで太っ腹じゃ無いぜ?」


「わかってる。それより、そこに飾られてるブーメランを試させてくれないか」


 スイが指差したのは、壁の高いところに大事そうに飾られたブーメラン。それを使って見たいとルシウスを見ると、彼は驚愕に目を見開いていた。



「なっっ!!お前、何故知っている!?」


「……は?」



「ブーメランなんてとうの昔になくなっちまった玩具だ!お前みたいな餓鬼が知ってるなんて……」


(そう言えば確かに本にも載ってなかったな)


 昨日図書館にこもっていた時、『アルバリウシスの武器図鑑』なんて本を見つけたスイは、暇つぶしがてら読んでいた。

 しかし、剣の他に槍や斧、弓や太刀、盾や棍棒など、珍しいものまで書かれていたが、思い返せばブーメランなどなかった。


「そうか、玩具だから載ってなかったのか。しかし、その玩具に随分な思い入れがあるようだな」


 しかしルシウスはスイの言葉をまるで聞いておらず、ブツブツと口元を動かしながら何かを考え、やがて決心したようにブーメランを手に取る。


「いいぜ、使わせてやる」


 ルシウスはそう言ってスイに手渡した。


 艶があってしなやかな木材は、されど頑丈で、デヴィスの愛剣でも斬れないだろう。


「感謝する」


 スイは自分でも何故この店に入ったのか、何故ブーメランに興味を持ったのか、謎であった。

 しかし、()()()()ブーメランを投げた時に理解した。



「はぁぁぁああっっ!?おいおいおいおい!クレイジー過ぎんだろクソ餓鬼っっ!」


 スイが軽く振りかぶって投げたそれは、パリィンと軽快な音を立てて右側の窓を割り、ついでに巻き付いてた蔓をスパッと断ち切って外へ躍り出た。



 ――そうか、これが運命の出会いか。



 スイがそう感じたのは間違いでは無いだろう。



 身体に新たな感覚が生まれる。

 武器との一体感。

 目を閉じて、手を広げ、腰を捻り、ステップを踏む。




 ルシウスも窓を割られた怒りを忘れ、スイの美しい舞に見入っていた。



 店の外ではブーメランが上下左右前後、空間を支配し、世界を舞台に自由に踊り狂う。

 通常の弧を描いた様な軌道ではなく、スイの操るそれは、まるで一つの生物。



 最後にスイが回転し、左手を突き出すと、ブーメランはパリィンと軽快な音を立てて左側の窓を割って戻ってきた。






「っておぃいぃぃぃぃ!好き勝手壊すんじゃなぁぁあい!!」



 ルシウスが叫ぶと同時にスイが目を開く。

 更に、断ち切られた店の周りの蔓が、ボトボトと地に落ちた。



「…………それも、あんたがやったのか」


 綺麗に細かく切断された蔓を見て、ルシウスが呟いた。


「いや、俺と、こいつがやったんだ」


 そう言ってスイは左手に持ったブーメランを掲げ、笑った。




「ふふ、はっはっは!ひっさびさにいいもん見たわ!!でも店をボロボロにしたんは許さねえからな!出て行きやがれ!!!」



 そう言ってブーメランを持ったままのスイを店から追い出したのは暴力的な風圧。





「す、スイ!大丈夫かっ!ってか何があったんだ!?」



 吹き飛ばされた場所に居たデヴィスに介抱されてスイは立ち上がり、振り返った。



 風はスイを追い出して満足したのか、そよ風に変わり、それは優しい声を運んできた。


「託したぞ、クソ餓鬼……」




 ブーメランを背中のベルトに挿し、スイは頷いた。


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