うちの風呂場ののじゃロリババア(幽霊)
「おい、下僕!! はようバス○マンを持ってくるのじゃ!」
家のドアを開けると、カッカッカッという下品な高笑いと共に人を人と思ってないようなパワハラ全快の命令が飛んできた。
「はいはい、いまもっていきますからねっ……と」
帰り道にドラッグストアで買ってきた大量の入浴剤が入っているビニール袋を靴脱ぎ場において、適当に一箱掴む。
それから、罵声を浴びせてくる声の主。理不尽キツネが根城にしてる浴室へと向かう。
「はよう! はよう!」
「…………はいはい、目隠しするから、もう少しお待ちを」
「そんなもんせんでよい! はやくよこすのじゃぁああ!!」
恥じらいってもんはないのか……。
「そういって裸を見られたときに、散々人を変態呼ばわりしたのはどこのどなたですかね」
「あ、あれは下僕が下卑た目でまじまじとワシのないすばでぃを視姦しておったからじゃろ!!」
誤解の無いように言っておくが、僕は当然こんなちんちくりんに興味はない。仕事から帰宅して、一日の疲れを取るために湯船を張ろうと、浴室に入ったらこのちんちくりんが大股開いて入浴している場面に出くわしたのだ。
一人暮らしの男の浴室にロリが一人、僕は思考を放棄した。
それから泣き叫ぶキツネ耳の生えたロリに土下座して、警察に通報されるのを下僕になれという命令に同意することで回避したのだ。
「ええい、つべこべ言わずにもってこぉおおおい!!」
それがまさか家の風呂を占領しにきた幽霊だとも知らずに。
あれ以来、常にロリキツネが家の風呂に使っているせいで、僕は家の風呂に入ることができていないのだ。
そして、キツネの理不尽な要求に従って、あいすくりーむが食べたいのじゃぁああ!! と言われれば飛んで買いにいき、○二プリがよみたいのじゃぁああ!! と言われれば書店まで夜中にも関わらずに走っていった。
こんな生活を続けていては僕の胃に穴が開いてしまう。
だから僕はこのロリキツネに復讐を実行する。
もうどうなったって構いやしない。僕を止められる奴はもう居ない。
バス○マンの蓋を開け、中に張られたシールを剥がす。
それから半分をビニール袋に入れ、空いたスペースにとある粉を混ぜた。これで準備は完了、後は実行するだけだ。
「今もっていき、うわーっ、つまづいてころんじゃうー」
風呂場の縁に躓いた振りをして、湯船に浸かっているはずのロリキツネへ向けて腕の中のバス○マンをぶちまける。
くっくっく、あいつの泣き叫ぶ顔が目に浮かんできたぜ。
「ヵッッカッッッ、からいのじゃぁぁぁああああぁあああああああああああああッッッッ!! み、みずうううぅううッッッ」
湯船から飛び上がり、タイルの上でのたうち回るキツネロリ。耳と尻尾が縦横無尽にあらぶっておられる。
「ああ、ごめんなさい。今、持ってきますからぁぁあっ」
これで終わりにするわけが無い。
僕はダッシュで台所へとむかい、コップに電気ポットのお湯を注いだ。
「うわああぁぁっ、またまたつまづいちゃったー」
のたうちまわっているキツネロリに向けて、手元のお湯をぶっかける。演技の質は少し上がっているかもしれない。
「あっちゃあああああぁぁぁッッッ!!」
キツネロリが打ち上げられた魚のように大きく飛び上がった。
その後しばらく、キツネロリはタイルをゴロゴロするかと思ったら、真上に飛び跳ね、真上に飛び跳ねるかと思ったらゴロゴロを続けていた。
苦痛が引いてきたキツネロリはよだれをたらしてあられもない姿のままタイルの上で寝そべっている。
勝った! 僕は勝ったんだ!!
フゥゥゥッッハハハハハハハッッッッッ!!
○
「…………ふぅはっはっ」
「全く、転んだとはいえバス○マンをぶちまけるとは罰当たりな奴め。妾が現世のモノをすりぬけることができなければ、無駄になっていたではないか」
キツネロリは頭をぶつけた下僕と湯を共にしていた。
深紅に染まった美しい湯、なぜだかいつもより心が安らぐ。
遠い昔のことを思い出し、キツネロリは従者の頭をなでつけた。
「幸せそうな顔しおってからに…………」
○
遙か昔、一人の男が出湯を求めて旅に出ていた。
無類の風呂好き故に一つの出湯で満足をする事はなく、それゆえ、居を構えず。ただ先陣をきる狐の後をつけるようにしてただ湧き出るお湯を求めて歩いているのだとも語り継がれていた。
ある日、村人がその男になぜ狐と共に旅をしているのかを問うた。男は狐を見つめ、少し困ったような顔をすると。
「弱みを握られているもんだから仕方ないんだ」
と村人に耳打ちして、去っていったという。