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信長の庶子  作者: 壬生一郎
帯刀編
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第七話・日の本一出世頭猿人

「いい天気だ」

永禄七年の稲刈りも無事終了した秋の日、俺は古渡城裏の小川に仕掛けた網を持ち上げつつそんなことを呟いた。


「よしよし、捕れてるな。皆で食べるとしようか」

手製の網の中では小指にも満たないくらいの小魚やエビがピチピチと暴れていた。木漏れ日の下、ビショビショに濡れた身体を小川から持ち上げ、日差しの下に出る。今日は日が強い。この程度の水はすぐに乾くだろう。

今日の収穫を籠に入れ、門を潜らず城の壁にひょいと登る。北に那古野城が見えた。俺はここから見る那古野城が好きだ。


「大漁でございますなあ」


那古野城をしばらく眺めていると、足元から人の良さそうな声が聞こえてきた。下を向くと、ひょうきんな顔をした三十がらみの男が汚い恰好で立っていた。

「やあ、斉天大聖殿」


言いつつ、籠を手渡した。慣れた手つきでその籠を受け取った彼は天ぷらですかなと呟いた。うん、天ぷらにしよう、何しろ美味しいから。

「名刀様は何でも得意ですなあ」

「斉天大聖程ではないよ。奥さんとは仲良くやってる?」

「ええそれはもう。嘉兵衛殿と長則様は如何ですか?」

「二人とも優秀だよ。斉天大聖には感謝してる」


お互いに近況を聞き合い、そして話し合うと斉天大聖がにっこりと人当たりの良い笑顔を浮かべた。

「それはようございました。名刀様にお喜び頂けますとは、猿めが筋斗雲を飛ばして探しに行ったかいがございます」


斉天大聖の冗談に俺はケラケラと笑う。斉天大聖、言わずと知れた孫悟空のことだ。この三十がらみの小男は、その体格の小ささや豊かな表情、動きの機敏さから父上を始め家中多くの人間に猿と呼ばれて親しまれている。母の実家である塙家がそうであるように、織田家では実力や利用価値があれば身分が低かろうが重用する。故に、農民上がりの小男であっても取り敢えず召し抱えてみるなどということは日常茶飯事だ。しかしながら今俺と話をしている彼ほどとんとん拍子に出世する者はいない。そんな彼をして、父なんかは禿げネズミと呼んだりもしている。あんまりだなあと思ったので、俺が良い方のあだ名を考えてあげることとした。有名な猿。それも大出世した猿と言えばそりゃあもう斉天大聖孫悟空以外にはおるまいと考え、俺は西遊記の話なんかも教えてやりつつ、彼の事を斉天大聖と呼ぶこととした。彼は非常に喜んでくれて、俺の呼び名である帯刀を名刀と呼び変えて呼んでくれている。


斉天大聖との付き合いはもう三年にもなる。初めて会ったのは多分、斉天大聖が結婚した時であろう。父が中々如才のない猿がおるのだと言って彼を連れて来た。逆に俺は、庶子だが面白いことを考える子供がいる。といって引き合わされた。その時は確かに賢い人だなと思ったくらいだった。


「人を率いて動かすというのは難しいことですなあ」


斉天大聖は、ある時突然そんなことを言った。当時まだ十にも満たない子供に対してだ。

「殿は実に見事に人をお使いになられる。見習いたいものです。何かコツのようなものがあるのでしょうか?」

そんな風に質問をされて調子に乗ってぺらぺらと話をした当時の俺を責めないで欲しい。彼は本当に人から話を聞き出すことが上手なのだ。


俺が話をしたのは母が時々持ってくる謎の書物についての話だ。大概唐か天竺か南蛮か、そのうちのどこかの書物を訳して書き写したものだと説明される。俺はその説明が嘘で、本当は母が自分の知識を手遊びに書き出して俺の反応を見ているのだと思っている。母がそれらの知識をどこから仕入れたのかは知らない。息子の俺をして、この女性は本当に狐なのかもしれないと思わせる相手なのだから理解しようとする行為など無駄な努力以外の何物でもない。


ともあれ俺は母が書いた書物についての内容を伝えた。協調し、皆で仲良くやろうという一団と、競争し、一番を決めようという一団では必ず後者が良い結果を残す。しかし一方で争いが起きやすいのもまた後者であるそうだ。発展も争いもない社会と発展もするが争いも激しい社会、社会を回す為にはこのどちらにも偏り過ぎないよう舵取りをすることが大切というのが話の結論だった。その後書物の内容は兄弟を比べることは兄弟仲を悪くするのに最も効率のいい方法なのだという実に家庭的な話となった。よく出来た方にご褒美を与える。出来なかった方だけ叱る。仲の悪い兄弟を育てたいと考えた時には、ぜひこういった事をすると良い、という結びは中々に皮肉が利いていた。


「兄弟仲を良くさせたい時に効果的な方法も書いてあれば良かったのですけれどね」

後に母から感想を求められた際俺はそう述べた。母は『協力しなければ乗り越えられない試練を与えろ』という答えをくれた。その試練を乗り越えられようが乗り越えられまいが必ず絆が深まる。物語の定番でしょうと言われ、成程確かにと感心したものだ。

口頭でこの話を聞いた斉天大聖はははあ、ほほお、としきりに感心しつつ、その日は去って行った。それから暫くして斉天大聖が清洲城の石垣普請を行った時の話を聞いて、俺はこの男が斉天大聖の呼び名に恥じない者だと確信した。


斉天大聖はまず普請する者達を十の班に分けた。そして普請が早く終わった班には賞金を出すことを明言。更に、普請全体が予定日よりも早く終わった場合、その早く終わった日数に応じて全員に賞金を出すと言ったそうだ。

その話を聞いて俺は感心した。十の班に分けて競争させること、そして、全ての班が普請を終わらせる為に協力すること、競争と協力、その両方を成立させ、いいとこ取りをしている。普請が終了した後、斉天大聖は『天下一速普請之者達也』と褒め称え、皆を労ったという。

その後も彼は出世を重ね、今では立派な足軽大将だ。


この出来人は味方にしておいた方が良いと確信した俺は彼に読み書き計算を教えた。子供の頃から武士になろうと目論んでいた斉天大聖は奉公に出されていた寺で簡単な字を覚えたそうだけれど完璧とは言い難かったので、随分と喜ばれた。こちらとしては今後何かあっても助けて下さいまし。くらいの下心があった。誰が俺の事を責められようか。


とはいえ俺としては十年後、二十年後に向けての投資、くらいの気持ちだったけれど、斉天大聖は思っていたよりも律儀かつせっかちで、俺に良い贈り物、いや、贈り者をしてくれた。それこそが松下長則、嘉兵衛親子だ。斉天大聖は特に嘉兵衛と仲が良かったらしい。頭でっかちの嘉兵衛と、身分は低いが諸国を見て回り見識は深い斉天大聖は今だに仲が良い。同い年であるということも話が合う理由の一つだろう。


「それで、今日は何の御用で?」


那古屋城を眺めつつ少々話をした後で俺は聞いた。彼は健脚かつ行動力のある人物でどこにでも現れるけれど、無駄な行動は一切しない。ここに現れたという事は何らかの目的があるということだ。

「お知らせしたいことが一つ。お知恵を貸して頂きたいことが一つ」

斉天大聖の口元が引き締まる。それからすぐにその場に跪いて頭を下げた。うん、と頷いて壁から飛び降りる。

「天ぷらを食べながら話をしよう。知らせについても、知恵についても、母上がいた方が良い。長則と嘉兵衛もいる」


言いながら、行こうと手招きすると斉天大聖がぱっと顔を上げた。天ぷらとは母が考案した母の好物で、そして作る上では母の苦手料理だ。油が跳ねるのが怖いらしい。なので母はいつも俺に天ぷらを作れとせがむ。俺はもち米を砕いて作った米粉と、ゴマを絞った油、それに鶏卵を使ってかき揚げを作り、時々食べ、時々振舞う。この辺りの小川で取れる小魚や小エビは、そうやって食べるのが一番食いでがあるのだ。

「米粉を持って参りました。直ちに捌いてかき揚げにいたします」

「如才ないなあ」


斉天大聖にもかき揚げを食わせてやったことはあるけれど、よく作り方まで覚えていたものだなと感心してしまう。材料まで調達してきているという事は、こんな天気の良い日には小川に小魚を取りに行って、今頃天ぷらを作ろうとしている頃だろう。と読まれていたのかもしれない。




「今孔明殿が、稲葉山城を退去なさいました」

俺が母と松下親子を呼びに行っている間にさっさとかき揚げを揚げ終え、皿に盛っていた斉天大聖が言うと、長則がむう、と唸るような声を出した。

「今孔明殿は殿の要請を最後まで拒否し、今は元通り美濃国主斎藤竜興様が稲葉山城に入ったそうです。舅の安藤守就殿も城下を占領していた手勢二千を引き上げ西美濃へと戻られました。斎藤勢からの追撃はなく、美濃国内に表立った混乱は見られません」


まだ湯気の立っているかき揚げに、塩を振りかけて手掴みし、口に放り込みながら話を聞く。かき揚げは美味しい。しかし美濃の事はよく分からない。マズいのかもしれない。いや、かき揚げは間違いなく美味しいのだけれど。


「半年間、美濃一国が混乱に陥ったというのに、結局美濃の大物は誰一人として死なず、それどころか怪我人すら出なかった。ということかな?」

親し気な口調で嘉兵衛が聞くと、斉天大聖がその通りと頷いた。


半年前、美濃斎藤家の本拠稲葉山城が家臣である竹中家と安藤家の兵によって乗っ取られた。稲葉山城は難攻不落の堅城として名高く、美濃を制するということは即ち稲葉山城を制することだと言っても過言ではない。しかしそれが乗っ取られた。乗っ取った軍の大将は安藤守就、乗っ取りの絵図を描いたのはその娘婿、竹中重治。

二千の兵で城下を囲み、城方が混乱している間に僅か二十人足らずの兵で稲葉山城を占拠。それに費やされた時間は僅か半日で、死者怪我人共に極めて少ない強奪劇だった。


「斎藤竜興はどうして安藤を攻めなかったのであろうか。例え攻め滅ぼさぬにしても叱責や罰はあって当然のように思うが」

「どうも、最初から美濃を奪うつもりなどはなかったのだと今孔明殿が仰っているそうです。それが証拠に自分達は城下を焼かず、織田家の調略も無視し、兵も殆ど殺していない。酒色に溺れた主君を諫める為に起こした乱であると。安藤殿だけでなく稲葉良通殿や氏家直元殿も連名で斎藤竜興様に嘆願書を送ったとか」


口いっぱいにエビや小魚の香りを楽しみ飲み込んでいる間に、二人の会話が交わされた。斉天大聖が言い終えてすぐ、つまらなそうな表情を作った長則が下らんおためごかしだと吐き捨てた。

「安藤守就が娘婿の知略を当てにして美濃を手中に収めようとしていたことなど誰でも知っているわ。西美濃三人衆の残り二人からすら支持を得られず、進退に窮しただけの事であろう」


西美濃三人衆、言葉が表す通り、西美濃において強い力を持つ三人の国人領主だ。今孔明、竹中半兵衛重治の舅である安藤守就と、稲葉良通、氏家直元の三人の事を指す。二代前の美濃国主である斎藤道三に重用された実力者だが斎藤竜興には疎んじられていた。


「そういう事でしょうな。名刀様はどう思われます?」

話を振られて、俺は油と塩に塗れた指を舐めながら考えた。大体の話の流れは分かる。


「俺も、長則の言う通りだと思うよ。安藤殿は娘婿の知恵を借りて城を乗っ取った。稲葉殿、氏家殿は今まで同格だった安藤殿の下に付くのは嫌だった為、事態を静観した。竜興殿は稲葉山城を落とす覚悟も力もなかった。父上はこれを好機に美濃掌握を狙ったけれど上手くいかず、結局今回の中途半端な和解が成ったわけだ。誰も喜ばない。泰山鳴動して鼠一匹という奴だね」

「これより何が変わりましょうか?」


答えてすぐ、次の質問をぶつけられた。正直言って分からない。

「斎藤竜興殿は今回の騒動でその名を落としたね。逆に竹中重治殿は大きく名を上げた。織田家も彼一人にいいようにやられ、斎藤家もやられた。濃尾二国の国主をそれぞれ手玉に取った天才軍師。今孔明の名に相応しい。ただ、それで何が変わるのかと問われると難しいな」


桶狭間の翌年、父は早々に美濃へ出兵している。一気に美濃の南半分を奪い取り、国人領主を寝返らせ、稲葉山城を取り囲もうという算段だったそうだ。しかし、竹中重治の仕掛けた奇策『十面埋伏』によって美濃侵攻は一歩目から頓挫。以降、父は同盟によって東を固め、国内の不穏分子を潰してゆくなど、方針を変えた。


「そもそも俺は今孔明殿の考えがよく分からない。舅の安藤もそうだけれど、どうして彼らは父の要請に応じなかったのだろうか、と思うよ。稲葉山城に籠城して織田軍を引き込めば直臣とする。美濃半国を譲るとすら言ったそうじゃないか。流石にそれは大袈裟にせよ、自分達を売るには一番いい時なんじゃないかと思ったけれどな」

「殿への御信頼がそれ程厚くなかったのでございましょう」


俺の疑問については、嘉兵衛がすぐに答えた。嘉兵衛だけでなく長則も斉天大聖もうんうんと頷いている。黙って話を聞いている母はかき揚げを箸で小さく崩してポリポリ食べている。それだとかき揚げの醍醐味が半減なんだけどなあ。


「殿は竹中殿の策によって美濃攻めを潰されております。今降っても使い捨てにされるか、最悪殺されると思った筈です」

「父上は優秀な人材が好きだよ。斉天大聖のように外から来た新人でも能力があれば出世させるじゃないか」

「それは仕えている我らであるからわかること。外から見れば、譜代の筆頭家老を追放することすら厭わない強硬な人物と映っていておかしくはありません」


そう言われて、俺は苦笑した。母はクスクスと笑い楽しそうに俺の事を見ている。林の爺さんが追放されたのは大体俺のせいだ。つまり父が信頼されていないのも俺のせいだ。

「母上は、このことについて既に知っておりましたか?」

「帰蝶様や吉乃様方からの連絡は届いておりませぬ」

母の答えに俺が頷いたところで一旦話は終わった。それから皆でかき揚げを食った。ひとしきり食べ終えたところで、改めて俺が聞く。


「状況は理解した。斉天大聖、いつもありがとう。とりあえず俺達は何か表立って動くことは無い。話を進めよう。知恵を貸して欲しいとは?」

今日斉天大聖が古渡城を尋ねた理由は今の話を伝える為、それと知恵を貸して欲しいから、だった筈だ。正直に言って俺が貸せる知恵などたかが知れているけれど、斉天大聖には何か協力してあげたくなる魅力がある。何も出来なかったとしても、話くらいは聞いてあげたい。


「はっ、されば……某美濃攻めにおいて少しでも手柄を挙げたいと考えております。現状の美濃尾張を鑑みて、某のような小者が何をすれば手柄を挙げられるのか教えて頂きたく存じます」

「そりゃまた漠然としていて難しいね」

手柄を挙げたい。だなんて誰もが考えているだろうし、誰もがそう簡単には出来ず苦労しているものだ。


「重々承知ではございますがそこは一つ、今子建様ならば妙案の一つや二つございましょう」

「今子建様ねえ……」


誰が言いだしたのだか知らないけれど、世継ぎ騒動の後、竹中半兵衛重治が今孔明と呼ばれるようになったくらいから、俺も三国志の人物になぞらえた異名が付くようになった。知名度で言えば諸葛亮孔明に及ぶべくもないが重要度で言えばそれ以上かもしれない。彼の名前は曹植子建、魏王曹操の息子だ。戦場での活躍は無きに等しいが、同時代において文学者筆頭の位置にあり『詩聖』とも称されている。


「本当に、女性はその手の噂が好きですね」

母を見ながらそう呟くと、その通りですと力強く頷かれた。

「今孔明殿は僅か十六名で稲葉山城を落としたとか、そなたは既に古今東西あらゆる文書に堪能であるとか、今孔明殿が絶世の美男子であるとか、いやそなたの方が美男子であるとか、その手の噂でしたら母の元へ連日届いておりますよ」

「そんな根も葉もない噂は否定して回って下さい」

「母親としては息子が褒められることは嬉しいですからね。寧ろ噂の流布に一役買っております」


ジトッとした目で母をねめつけると、母はキャッと可愛い子ぶった声を出し、頬を抑えた。溜息を吐き、母から斉天大聖に向き直る。

「妙案がなければないで、以前教えて頂いた協力と競争の話のような、有難いお話でも賜れれば」

「それも、急に言われてパッと出てきたりはしないよ」


知恵比べをしたら俺よりも斉天大聖の方が遥かに上を行くだろう。答えに窮して、俺は何となく周囲を見回した、松下親子がこちらを見ている、母は楽しそうにしている。


「美濃に知り合いはいないかい?」

松下親子を見て、俺はふと思いついた。我が織田家が誇る今斉天大聖様が持つ異能と言えば人脈の豊富さだ。何年か仕えていただけの松下親子を連れて来ることからもそれは証明されている。であるのなら、美濃方面にもかつての同僚とか、子供の頃の悪友がいてもおかしくない。


「今回の騒動で斎藤竜興殿は家臣の信頼を失った事だろうし、今なら調略も仕掛けやすい筈だ。斉天大聖は父にも可愛がられているし、今裏切れば金や領地が貰えるぞ、と言って誘えば寝返ってくれる相手も多いんじゃないかな? 戦働きとは違うけど」

しかし、敵の首を取ることだけが武功ではない。父も斉天大聖にバッタバッタと敵をなぎ倒せとは言わないだろう。


「成程、確かにその通りですな。何故そんなことに気が付かなかったのか、某は阿呆ですわ。所詮は猿知恵でした」

割と一般論を述べたつもりだったけれど、斉天大聖は納得したようでパッと表情を明るくした。どうやら心当たりがあったらしい。こうしちゃいられないと、ひらりと身を翻し、そのまま勢い余って空中で一回転した。

「名刀様お釈迦様今子建様、猿めにお知恵を貸して頂き誠にありがとうございました。恩は織田家への御奉公にてお返しさせていただく所存でございます」


そう言って俺に平伏した斉天大聖は、そのまま駆け出し古渡城を出ていった。本当に筋斗雲に乗っているのではないのかと思うくらいの身の軽さだった。


「直子様のご実家と、猿は言わば出世争いをする関係なはずですがなあ」

斉天大聖がいなくなってから、長則が呟いた。俺は、まあねと呟く。実際その通りだ。今の織田家は、筆頭家老が二人続けてその位置から失脚し、代わりに筆頭家老に登った柴田勝家も、織田家内乱の際に父と戦ったという点がいまだに後を引いており前線で戦わせてもらえない状況にある。その為、織田一族本隊や塙一族、斉天大聖のような完全な子飼いの連中が主力となって戦う必要がある。つまり、今が出世の狙い時なのだ。


「ま、それを分かって俺に知恵を貸してくれと言っているんだ。塙一族の足を引っ張ることはしないだろうさ」

もし彼が塙一族など物の数に入らないほどの大出世を遂げたら、俺も一緒にその軍門に降ればいいのだ。しなかったならば松下親子のように俺が直接召し抱えれば良い。どちらにせよ、仲良くしておくに如かず。


それから時を経ずして、次々と調略を成功させた斉天大聖は織田家の一隊を預かる武将、木下藤吉郎秀吉として更なる飛躍を遂げる。


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[一言] 竜興ではなく、龍興じゃないかな〜…なんて。
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