Captain・Rouge-キャプテン・ルージュ- 一話
「サツには見つからないように細心の注意を払っていたはずだぜ!おかしいだろ!」
彼らの目には涙が溢れんばかりにたまっていた。次第に悪態も涙声が混じるようになった。
「アニキたちは一網打尽にされた!あのクソッタレ一人に!」
「ハジキも一発も当たらなかった!人間じゃねえ!」
全力で走っていた彼らだったが、次第に息が切れ、一メートルも走れなくなった。
「ここまでは追ってこねえだろ...さっさとクルマでも盗んで港まで逃げなきゃ...」
一人のチンピラがそう言いかけたその時、ドンという音を立てながら目の前に巨大な『何か』が落ち、土煙をあげた。
そして次第に『何か』を覆い隠すような土煙は消え、その正体がだんだんと見えてきた。
それは異様な服装をまとった男だった。紅のジェットヘルメットをかぶり、紅のコスチュームと真ん中に黄色の星が描かれた胸部プロテクターを身にまとった、頭のてっぺんからつま先まで紅に染まった奇妙な男だった。
怯んだ彼らはただその光景を呆然と立ち尽くし、見るしかなかった...
「「キャプテン・ルージュ...」」
彼らはその男が目の前にいると分かったとき、逃走は無駄だと悟り、あきらめた。自分たちの命運は尽きた。彼らはそう思った。
#1
携帯電話のアラームが鳴り、アレックスは自室のベッドから飛び起きた。時刻は朝六時半を指していた。
彼は台所に行くと、大好物のトマトをスライスしパンにはさんで簡素な食事を作り、それをかじりながら寝間着から軍服に着替え始めた。カーキのシャツには彼の所属する国軍のエンブレムが肩に刺繍され、軽装であるが硬派な雰囲気がしている。
そして歯を磨き、顔を洗い、最後にシャツのネクタイを締め、出発の準備をすると、彼は両親と自分が写っている家族写真に「行ってきます」と言い、自室を出た。
彼には十三歳までの記憶がなかった。医者には両親と一緒に車でドライブしていた時に事故にあい、その時に両親が死に、自分は記憶を失いながらも生きていた、と説明された。
両親の死を悲しむこともできなかった。写真やホームヴィデオに残る家族の映像を見ても、懐かしいという感情も湧かなかった。彼はそれが悔しくてたまらなかった。
その悔しさもあったからか、彼は自分の出自に強い興味があった。自身で調べられたのは両親は二人とも研究者であり、また自分も学者を志し、両親の研究室に入ったことだけだった。その他はどこを調べても出てこない。両親が最後に研究していたものもわからなかった。
そして、彼は”自分の持っている特別な力”がなぜついたのかもわからなかった…
#2
彼は階下にある駐車場に行き、自分の車に乗り込んだ。その車はアメリカ製のマッスルカーだ。古いものだが、車体はきれいな赤に塗られ、新品のように光っていた。彼はこの車に乗り、毎回職場に通っていた。
彼は沿岸沿いの金日成通りにあるフリーダミア人民解放軍基地の広報部に所属していた。仕事は主にデスクワークと定期的な軍事訓練だ。主に一般入隊者への勧誘と士官学校の宣伝、その他には徴兵された者たちへの説明会の設置などを行っていた。
彼が軍に入った理由は、記憶をなくした彼に真っ先に勧誘したのが軍だったからだ。事故の後孤児院に入ったが、十五歳になって施設から出るときに他に行く当てもなく、また、彼に対する精神的ケアも保証されていたことも理由だった。
至れり尽くせりだったため、彼は偉大なる書記長が自分に慈愛の心を持って助けてくれたのだ、と思ったほどだ。
基地に着き、広報部のオフィスに入ると彼の友人、ホセが声をかけてきた。
「よう、アレックス。手紙がいくつか届いてるぜ」
ホセがアレックス宛に届いていた手紙を彼に渡す。
「ありがとう、ホセ。『開けてないよね?』」
「男の手紙開ける奴なんかいねえよ」
アレックスは手紙を一通一通調べていく。健康診断の結果、人民保険のお知らせ、そして『幸せの児童保護園からの封筒』。
彼は懐に孤児院からの封筒を入れると、トイレに行くとホセに伝え、そのままオフィスを出た。
アレックスは個室に入ると、自分のタブレット・デヴァイスと封筒を取り出し、封筒の中にある便箋を内蔵カメラで読み取っていく。その便箋は目には見えない特殊なインクで読み取りコードが書かれてあり、肉眼では全く見えないものだ。
そしてタブレット・デヴァイスで読み取り終わると、パスコードを入力し、そのテキストデータをを開いた。
そこにはこう書かれていた。
『優秀な部下であるキャプテン・ルージュへ。
先日の麻薬取引の摘発は見事としか言いようがない。一人も逃がさず、全員を逮捕することは君しかできないことだ。また、証拠物も一つ残らず収集され、取調べや裁判もスムーズに進むことだろう。親愛なる最高議長もそれをたいそう喜んでいた。
さて、次の任務だが、先日のがさ入れで大打撃をあたえた麻薬組織に引導を渡したいと思う。そこで今回はワザと捜査員の監視が緩い場所を作りギャングどもの脱出経路を作っておいた。君はそこで待ち伏せし、全員を確保してほしい。
詳しい作戦内容は三日後に君の自宅に郵送で送る。待機してくれ。
最高議長の秘書、ラファエラ・サンタナより。』
彼は手紙とデヴァイスをしまい、トイレを後にした。そしてオフィスに入ると、便箋をシュレッダーにかけた。
彼は作戦内容を十分に確認した後、手紙を小さく丸め、灰皿に放り込むとそれに火を着けて燃やした。
同じ頃、暗いドックの中、マスクを被った一人の老人が薄気味悪い笑い声をあげていた。
「グフフフ…キャプテン・ルージュめ、ここでお前をペシャンコにしてやる!」
その老人はゲラゲラと笑いながら、PCモニターを見つめている。そのモニターにはキャプテン・ルージュが参加するギャング捕獲作戦の内容が書かれていた。
「お前をこの世から消し、このクソッタレなアカの国に復讐してやるんだッ!」
老人は再び薄気味悪い笑い声をあげた。
#4
アレックスは夜22:00からコンテナに潜んでいた。ギャングの動きが予想以上に早く、予定では0:00過ぎには到着することが考えられた。
アレックスはその間、いざというときの栄養を補給しようとトマト味の栄養ドリンク、そしてピザトーストを取っていた。
アレックスがピザトーストの最後の一かけらを栄養ドリンクで流し込んだとき、ちょうど海からエンジン音が聞こえた。船員は二人、ライトを消したクルーザーに乗っていた。そのクルーザーは小型だったが、幹部とボスの数人を乗せる程度なら十分すぎる大きさだ。
「この船に潜み、逃げ場のない海の上に進んだときに一網打尽にしてやる」
そう思ったアレックスは、監視が緩んだすきにクルーザーに潜り込み、中の積み荷に紛れた。
同時刻、もう使われていない港に向かい、一台の高級ドイツ車が走っていた。中にはドライヴァーとギャングのボス、幹部二人が乗っていた
「畜生、ルージュのクソッタレのせいで俺たちゃボロボロだ!」
ギャングのボスが葉巻を吸いながら怒鳴る。彼は先日の一斉検挙によって大打撃を食らった組織のボスだ。
「アンダルシアの野郎がつかまっちまいましたが、再起はまだできます。今度はドミニカで一発当てる計画があるんです」
「そうですよ!ここ抜け出せばまたやり直せるんです!」
幹部たちとドライヴァーは必死に彼をなだめる。しかし、本当に逃走先のドミニカで再起を図れるのかは彼らにもわからなかった。
「あんなバケモンがいなけりゃもっと荒稼ぎはできたんだ!それを...って前にあるのはなんだ?」
ボスが前方にある『何か』に気が付いた。続けてドライヴァーが気づき、ブレーキをかける。
「なんだあの鉄の塊...」
彼らがそう言ったその時その『何か』がライトによってまぶしく光り、それが明らかになっていく。それはいくつものフレキシブル・アームがうごめいた多脚ロボだった。ガラス張りのコクピットがボディーにあり、そのコクピットをフレキシブル・アームが守るように覆っていた。
「...タコ?」
そのタコのようなロボットは目の前のドイツ車を見下ろしていた。コクピット内にいるマスクを被った老人は、目の前にあるドイツ車を一瞥すると、笑い声をあげた。
「グフフフフ...ちょうどいい実験台があるわい。さあ!実践テストじゃ!アカ殺し一号!」
そう言うと彼はコクピット内にあるボタンを押した。すると、ドイツ車に向かってアームが振り下ろされた。
#5
船にいたギャングは一人が上陸してボスと幹部の乗った車を待ち、もう一人は逃走経路の海図を再確認していた。アレックスは監視が緩くなり、一安心した。この狭い船、探されたらすぐに見つかってしまう。そうなると少し厄介なことになるし、最悪ギャングを逃がす原因にもなる。それは防がなければならない。
彼が潜んでいると、船尾が明るくなっていることを確認できた。その明かりはオレンジ色にゆらめいてきた。アレックスは妙だと思った。あんな明かり、クルーザの明かりじゃないもっと自然な...
「もしかして!」
彼が気づいたのも遅く、大きな爆音が船着き場に鳴り響いた。
「まだ死んでないんだろう?ルージュ。とどめを刺してやる」
くしゃくしゃに潰れたドイツ車と伸びているギャングたちを後に、老人を乗せたロボットは港に進んでいった。
乗員のギャング二人の首根っこをつまみながら、ルージュは船着き場に降りていた。そして伸びているギャングに手錠をかけ、コンテナに放り込んだ。
「自決か?」と思ったが、国外に行ってまでギャング活動をしようと考えているような人間が、自爆なんてするとは考えにくい。
「どういうことだ?いきなりエンジンから発火したとしても、あの規模の爆発なんて爆薬を使わないと出せないはずだ...」
「その通り!今の爆発はワシがやった!」
ルージュの独り言に、何者かが大きな声で答えた。
「誰だ!」
ルージュが振り向くと、無数のフレキシブル・アームを持つロボットが彼の目に飛び込んだ。
「今の爆発でくたばらなかったとはな!さすがは超人といったところか!」
「貴様!人が死んだらどうするつもりだ!」
「最初からそのつもりだ!貴様を殺すのだ!」
数本のアームがルージュに襲い掛かる!ルージュは背面飛びでそれを回避し、着地した。
「ワシはDr.ドクロ、このクソッタレな国に復讐するためにクソッタレなプロバガンダヒーローを始末するのだ!」
「それは私のことか!Dr.ドクロ!」
「そうさ!」
フレキシブル・アームの先が変化し、重機関銃やニードル、パズソウ(丸鋸)や鉄球が展開される!
「バラバラにしてやる!」
アームがルージュに一斉に襲いかかり、重機関銃からは一斉に鉛玉が発射!ルージュは近くにあったコンテナの陰に隠れるも、容赦なく重機関銃の弾が壁を貫通していく!
「この狂人が!」
「狂人で結構!貴様を殺し、このクソッタレの国をぶっ壊すことでワシの復讐は終わるのだ!」
容赦なくルージュの隠れるコンテナに重機関銃を撃ち込むDr.ドクロ。このままではジリ貧と思ったルージュはコンテナの陰から超人的瞬発力で飛び出した!
「おのれ!」
フレキシブル・アームがルージュを攻撃しようと襲い掛かるが、ルージュはすり抜けるようにアームを躱していく!そしてマシンとルージュの距離はたった3メートル、ルージュの間合いに入った!
「ぶっ潰して...ヌウッ!?」
Dr.ドクロは致命的ミスを犯していた。超近距離では大きなフレキシブル・アームは互いに干渉し、動かしづらい!
「終わりだ!Dr.ドクロ!こいつを食らえ!」
ルージュは腰に差していた小さなハンマーを取り出した。そのハンマーはルージュが力を込めると、金色に発光していく...!
「そんな悠長なこと、わざわざさせるものか!死ね!」
動きは遅れたが、三本のアームが彼に襲い掛かる!だが…
「遅い!」
ルージュがハンマーを振ると、三本のアームはバラバラに粉砕された!
「受けてみよ!これこそがプロレタリアートの武器、平和を守る不殺の力!」
金色に輝くハンマーの柄が長くなり、ハンマーの頭が大きくなる!そして金色に輝くスレッジハンマーと化した!
「勝利の鉄槌!『ヴィクトリー・ハンマー』ッ!」
思い切り振りぬかれたハンマーはロボットのボディーを破壊!そして粉々に爆散させた!
「ぬわぁーーーっ!!!」
そして爆発に吹き飛ばされたDr.ドクロは、水平線の彼方へ吹き飛んだ!
「この国の平和は、私がいる限り犯させるものか!」
#6
ルージュは朝日を見ながら妙な違和感について考えていた。Dr.ドクロの発言だ。
『貴様を殺し、このクソッタレの国をぶっ壊すことでワシの復讐は終わるのだ!』という発言がどうしても引っかかったのだ。果たして彼の逆恨みなのか?それとも国がなにかしら彼にひどい仕打ちをしたのか?そしてなぜ自分が復讐の対象なのか。
「ぶっ飛ばさず、普通に捕まえておけば...」
覆水盆に返らず。彼は自分のしたことに後悔し、頭を抱えていた。
Captain・Rouge-キャプテン・ルージュ-一話 おわり




