三番勝負:魔法少女vs航空○○
「タイトルで某師匠の存在を予想しちゃった向きには申し訳ないけど今回はアフガン航空相撲ネタよ」
「いやもうどうでもいいけど落ちる落ちる落ちる高い高い!」
ヘリコプターに吊り下げられた不安定な土俵の上で俺は絶叫した。
「というわけで今回は暗黒絶叫TVの依頼で伝説のアフガン航空三番勝負を再現する企画に協力するわ。ほら下僕一号、腰抜かしてないでしゃきっとしなさい」
「無茶言いやがって……ていうか、よくもまあおまえそんなキワモノ企画見つけて受けてくるよな実際」
「ふ……魔法受注と言って欲しいものね」
「嫌な受注形態だな……」
「そんなわけで第一番はこちら! 暴カニ男!」
ずずーん、と土俵のあっち側にカニ男が投入された。
「おわあ揺れる揺れる揺れる揺れる!」
「大迫力よねー。さてそれでは下僕一号、まず様子見で戦ってくれる?」
「できるか馬鹿! つうかあれカニ男っていうかただのハサミ持ったおっさんじゃねえか!」
「えー、プロフィールによると岐阜県可児市出身の二男坊だそうです」
「とってつけたカニ要素乙!」
「弱点はメンタルらしいので精神攻撃有効よ。ふぁいと」
「だからその助言俺にどうしろってんだよ! つうかおまえが戦えよ!」
「なによう。最初からわたしが戦ったら企画が成立しないじゃない」
ぶつくさ言いながら斉藤はいつものように風呂敷からサブマシンガンを取り出し、
「はいはい汚物は消毒汚物は消毒」
ががががが、という射撃音と共にカニ男に弾幕が突き刺さり、彼は哀れ土俵から転落した。
「……ていうか、ナチュラルに銃殺しやがったよこの女」
「普通に生きてるわよあれ。そういうの専門のスタントマンだから」
「そういうのってどういうの!?」
『ただいまの決まり手は、サブマシンガンー。サブマシンガンで、ロジカル斉藤の勝ちー』
「なんかアナウンス来た! ていうかサブマシンガンって決まり手なの!?」
「なに言ってんの。アフガンじゃ基本技よ」
「おまえアフガンにそれ以上喧嘩売ってなんかあっても知らないからな!?」
あと結局おまえ弱点突いてないよね。
「では次行きましょうか。第二番、重装甲コンダラII!」
どかーん、とロボっぽいなにかが落ちてきて土俵が大きく揺れた。
「ぎゃああああ落ちる落ちる落ちるううううう!?」
「いやーやっぱ大迫力よねー。じゃあ下僕一号、ちゃっちゃと倒して」
「無茶言うな俺は落ちないので精一杯だよ!」
「べつに落ちながら戦ってもいいんだけど」
「断固断るわ!」
ていうか、落ちながらだろうとなんだろうとあんな鉄のかたまりになにをしろというのか。
「えー、また私が戦うの? ないわー。普通にないわー。どこの世界にロボと戦う魔法少女がいるのよ」
「探せばいるだろ。つうか、そもそもおまえ魔法少女の敵らしい敵と戦ったことあったっけ?」
「そもそも魔法少女の敵ってどんなのが普通なの?」
「え、それは……」
考え込む。
「ら、ライバル魔法少女とか?」
「また妙なのを出してきたわねえ」
「いやでも定番じゃね? いろんな作品で見かけるパターンじゃないかと」
「まあライバル、いないこともないんだけどね」
「え、マジ?」
「うん。普段はおとなしいんだけど事件があるとイケメンに変身して壁ドンしようと迫ってくる子が」
「そんな奇怪な生物がどこにいるんだよ!」
「意外と身近にいるものじゃない? クラスでちょっと目立たない子とかそういう秘密を抱えてたり」
「やめろ人間不信になるから!」
「ほら、たとえば下僕一号が中学の頃からちょっといいなって思ってたB組の西山さんとかそれっぽくない?」
「だからなんで知ってるんだよ畜生!」
そして西山さんは断じてそんな生き物じゃないやい。
「まあともかくそのライバルとの対決は一期のネタだから今期は特に関係ないわ」
「これ二期目だったのかよ!」
「で、あのロボをどうするかね。……うーん、さてどう戦おうかしら。サブマシンガンは効きそうにないし」
斉藤は考え込んだ。
ロボは土俵の真ん中で、特に動かず。
…………沈黙。
ていうか、これって。
「なあなあ、斉藤」
「なによ下僕一号。私はいま考えてるんだから黙ってて」
「いや、なんで戦いの中なのにお見合い状態なのかって話なんだが……というか」
俺はびっ、とロボを指さし、
「あいつさ、実は動けなかったりしない?」
「え?」
「いや。重いからさ。ひょっとしてちょっとでも動くと土俵が傾いて落ちちゃう、とかだったりするのかなって」
「…………」
「…………」
斉藤はとりあえずロボに近寄って、
「斉藤式コークスクリューパンチ!」
べこんっ、と音がして、ロボが後ろ向きに倒れた。
そして、土俵が一気に傾く。
「うぎゃあああああああ落ちる落ちる落ちる!」
必死で土俵のへりに捕まって耐える俺。
斉藤は土俵を吊しているロープにつかまって耐え、そうこうしているうちにロボは土俵から落ちて姿を消した。
『ただいまの決まり手は、アフガン重力殺法ー。アフガン重力殺法で、ロジカル斉藤の勝ちー』
「なんだそのアフガン重力殺法って」
「敵の重量を利用した技のことみたいね」
「技っていうか、敵、単に自爆しただけだけどな」
厳密には、斉藤の使った技はただのパンチである。
「……ところで、下は普通に陸地だったと思うが、あんなの落として大丈夫なのか?」
「あのロボが畑に落ちてきたところからラピュタを巡る遙かな冒険が始まるのよね」
「始まらねえっつうか普通に現代科学の結晶だろうがアレは!」
「果たしてどうかしらね? 土俵に立ってから一度も動かなかったわけだし、実はあれただのフィギュアだったりしない?」
「もっと冒険始まらねえよ!」
まあでも、たぶん武器とかは搭載してなかったっぽいよなあれ……なにもしてこなかったし。
「さあ最後よ! 最後くらいはど派手に魔法少女バトルをさせてもらいたいものね!」
「まあどうせ無理だと思うけどな」
「では出でよ、第三番、待っていました大本命! 先生お願いします、きのこ法師の登場です!」
「ああ、胞子だけに……ってやかましいわ!」
ずどーん、ときのこの着ぐるみを着たいかつい大男が姿を現し、叫んだ。
「きき、きのこーーーーーーーーーーーー!」
「……なあ。あのキャラ付けはあまりにも強引すぎねえか?」
「わかりやすくていいでしょ」
「まあ、おまえよりはわかりやすいな」
「え? 私はこれ以上なくわかりやすい愛と正義の魔法少女でしょ?」
「どこに愛と正義があるっていうかそれ以前に魔法少女の格好すらしてねえよ!」
ただの普通の制服着た女子高生である。
「普通に風呂敷もサブマシンガンもあるし魔法少女でしょ」
「そのふたつはどう勘案しても魔法少女の構成要素じゃねえよ!」
「じゃあなにが魔法少女なのよ」
「魔法! 魔法っぽい成分が欲しいです先生!」
「あなた高校生にもなってまだ魔法なんてロジカルじゃないもの信じてるの?」
「魔法少女はどうなんですか先生!」
「え? どうだろ。きのこ法師、どう思います?」
「微妙」
「微妙だって」
「なんで敵に意見聞いてんだよ畜生!」
そして微妙ってなんだよ。わけわかんねえよ。
「まあそんなことはともかく戦いましょう戦い。ほら下僕一号、行きなさい」
「いやだ。こんな怪人と戦いたくない」
「じゃあ誰とだったら戦うのよ」
「そもそも戦いたくねえよ! ていうかいま気づいたけどなんで俺これに参加してんの!?」
「そういうこと言う人間から死んでいくのよね」
「なんの話だ!」
「わからない? ほら、閉鎖された洋館で殺人事件が起こったときに『人が死んでるんだぞ!』とか言い出すのって大概死亡フラグ――」
「ここは洋館じゃねえし殺人事件も起きてねえよ!」
「でもこの空中に吊された土俵って素敵に閉鎖空間じゃない?」
「やめろフラグ立てていくんじゃねえ!」
まあでも、これだけ空間が狭いとミステリの余地はなさそうだけどな。
「というわけで殺人事件よ下僕一号」
「いやだからミステリの余地は……ってきのこ法師が倒れてるー!?」
驚愕の展開である。
「これは犯人が読めないわね……」
「いやなんか不自然に土俵上に文字があるんだけど。ええとロジカル――」
「私にはアリバイがあるので下僕一号が犯人ね」
「ねえよアリバイ! ていうかそれ以前にこんなタイミングで不思議殺人ができる奴がおまえ以外にいるか!」
「失敬ねえ。私をなんだと思ってるのよ」
「なんなの?」
「愛と正義の魔法少女探偵」
「属性が増えてる!」
『ただいまの決まり手は、湯けむり殺人事件ー。湯けむり殺人事件でー、ロジカル斉藤の勝ちー』
「お、どうやら判定結果が出たようね」
「湯けむり殺人事件が決まり手の相撲って……」
「ていうかよくわからないけどガチで医療班呼んだほうがいいわねこれ。いま脈取ってみたけどかなり不安定」
「結局ただの病気かい!」
ひどい落ちだった。
「……つうか、なんでこんな企画になったんだ?」
「いやほら、夏と冬の特定の時期になると魔法少女がらみの恐ろしい戦いが幕を開けるという話を小耳に挟んでね。どこかの掲示板で聞いたところによると残酷なのは戦争と――」
「結局最後までぎなた読みかよ!」
「その呼び名ってさ、言葉の元ネタがいちばんつまらないわよね。普通ぎなたって読まないでしょっていう」
「身もふたもねえな!」