一番勝負:魔法少女vs宇宙人
夜。
「はあ……はあ……!」
追われている。
後ろにいるから気配しか感じないが、間違いない。
この世ならぬ異形。
人の形を不細工にまねたような、「ヒトならざるモノ」。
それが、俺を追ってきている。
「くそ、はあ、はあ……!」
ぬちゃり、ぬちゃりという足音がする。
こっちは全速力で走り、相手の足音にはスピード感などないというのに。
なぜか、引き離せない。
正体を直視するのも怖くて、振り向くこともできないでいるのだが。
(くそ、なんで俺を追ってくるんだよ……!)
理由のわからない状況で、とにかく逃げる。
捕まったらやばい。本能がそう告げていた。
だっていうのに。
「うあっ!?」
足が滑って、転倒――
しかけたところを、ぐいっと引っ張られた。
「え?」
ぐるんっ、と俺の身体は空中で一回転し、足から着地。
…………
「なにこれ?」
「合気よ」
「うわなんかいた!?」
「……失敬ね。なんかとはなによ、なんかとは」
俺と同じ高校の学生服に、なぜか背負った風呂敷。
そしてシルクハット。……をかぶった、女子。
「よし逃げるぞ」
「待ちなさい」
がしっと捕まれた。
「離せ! ただでさえ俺は追われてるんだ、変人空間にこれ以上放り込まれたらもうどうにもならん!」
「通りすがりの人間に変人とか失礼極まりないわね。どういう教育受けてるのかしら」
「俺の地元ではシルクハットに風呂敷かついだ女子高生は変人って相場があるんだよ!」
「やだなあ。これは仕事着よ。仕事着」
言って女の子は、手をひらひらさせた。
……仕事着?
「なんの仕事なんだ?」
「魔法少女」
「…………」
「我が名は魔法少女ロジカル斉藤。この世にはびこる邪悪なものを退治するために夜な夜な活動するのが仕事よ。
……って、だからなんで逃げようとするのよ」
「やかましいわボケ! それのどこが魔法少女じゃあ!」
「じゃあ逆に言うけど、なんでこれが魔法少女の格好じゃないと?」
「え? そりゃ……ええと……」
答えに詰まる。
「あー……その……衣装のひらひらとか?」
「うちの学校、私用のときも制服着る校則じゃない」
「あれ守ってるやついたのか。
……じゃなくて! じゃあなんだよそのシルクハットと風呂敷は!」
「魔法少女っぽくない?」
「ぽくねえよ!」
俺は絶叫した。
どこの世界に風呂敷+シルクハットの魔法少女がいるというのか。
言われた彼女はしぶしぶと、
「じゃあわかったわよ、はい」
と、シルクハットを取ってどこかにしまった。
「……おい。どこにしまったんだ?」
「え? うちの倉庫に、魔法で」
「そこでとってつけたように魔法要素持ってくるんじゃねえよ」
「それはともかく、これで魔法少女としての体裁がきちんと整ったところで」
「整ってねえよ」
「もうとっくにさっきから追いつかれてるけど、いいの?」
「え?」
振り返った。
そこには、魚を連想させる頭部を持ったヒトモドキのなにかが。
ふしゅるふしゅると吐息を上げながら、こちらに手を伸ばして。
「う……うわあああああああああああああああああああ!?」
とっさに俺は彼女の手を取って逃げ出した。
ふしゅるふしゅる、と声を上げて、怪物が追ってくる。
「おお、手に手を取って夜の逃避行とは、意外と大胆ね少年」
「そんなこと言ってる場合か! つうか、魔法少女ってんならなんとかできないのか、あれ!?」
「別になんとかしてあげてもいいけど」
「マジで!? マジでできんの?」
「できるわよ。なんのための魔法少女だと思ってんの。
というわけでとりあえず、手を離しなさい」
「あ、うん」
ぱっと手を離して、振り返る。
ふしゅるるる、と迫ってくる怪物に対し、
「じゃ、やりますか」
「頼むぜ斉藤、魔法で華麗に撃退してくれ!」
「あなた高校生にもなって魔法なんてロジカルじゃないもの信じてるの?」
「さっきテメエで言ったんじゃねえかよ畜生!」
馬鹿なことを言ってる間にも怪物はどんどん近づいてくる。
「さて、取り出したるはこの風呂敷」
言って、彼女は背負っていた風呂敷を取り、中身を――放り投げた。
「え?」
中に入っていた――鉄でできたなにかは、がしゃんがしゃんがしゃんと空中で組み上がっていき。
そして落ちてきたものを彼女が手に取った。
サブマシンガンを。
「はい汚物は消毒だー」
やる気なく言って、彼女は無造作に引き金を引く。
がががががががががががががががっ!
という音と共に、怪物に無数の穴が空いた。
ばったり倒れる怪物。
ぴくりとも動かない。
「解決、解決。やはりサブマシンガンはロジカルよね。撃ってて気持ちいいわ」
「もう突っ込むのもめんどくさいんだが……ロジカルってなんなんだ?」
「なによそんなことも知らないの? じゃあ交代戦におけるダメージレースの話から――」
と、遠くからサイレンの音。
「警察かしらね」
「げ、やばいじゃん!」
主にサブマシンガンがやばい。あと謎の生物の死体。
「なに? あなた警察に捕まるとまずいタイプの人種? 終わってるわね」
「まずいのも終わってるのもおまえだよ! ていうか、逃げるぞ!」
「あ、ちょっと――」
彼女の手を引いて、俺は駆けだした。
「はあ、はあ……こ、ここまで来ればとりあえず大丈夫だろ」
「なによう。逃げる必要なんてなかったのに」
「おまえそういうのはそのサブマシンガンしまってから言え。
まあ、しかしありがとうよ。おかげで助かった」
一応礼を言う。
と、彼女はちょっと頬を赤くした。
「……面と向かって礼を言われると照れるわね」
「いや、まあ助けてもらったのは事実だからさ。
でもあの怪物なんだったんだろうな。いきなり俺を襲ってきて」
「そうねえ。わたしも状況はよくわかってないから、推測だけど」
「なんだ?」
「たぶんあれは道に迷った宇宙人で、通りすがりのあなたに道を聞こうとしたら逃げられたんでついつい追ってきちゃったんじゃないかしら」
「おまえそれ容赦なく撃ったの!?」
「大丈夫よ。日本の法律は宇宙人に基本的人権を保障する文言がないから彼らには生存権がないわ」
「倫理の問題はどこに!?」
「わたしの目の前に出てきたやつが悪いのよ」
「…………」
悪党すぎる。
「ま、それは予測の話だし、本当は普通に悪党の宇宙人だったかもしれないわね」
「いまさら言われても後味の悪さ消えねえよ!」
「宿題」
「え?」
彼女はぴっ、と指を立て、
「B組は明日が期限だったでしょ? 英語のやつ。ちゃんとやりなさいよ」
「あ、ああ……うん」
「じゃあまた明日、学校で」
ばいばい、と言って、彼女は去って行った。
……なんだったんだろう。
非常識きわまりないやつだったが、とりあえず助けてくれた(推定)んだし。
(明日、どこのクラスか知らないけど、会いに行ってお礼くらい言っておくか……)
そんなことを考えながら、俺も帰路についた。
そして翌日。
「というわけで、今日からこのクラスの仲間になる斉藤さんだ」
「こんにちは。斉藤環です」
「っておまえ転校生だったのかよ!?」




