契約の儀式
「これが、教室...」
リアに案内された先は、まるで宮殿のような教室だった。天井は高く、大きな窓からは柔らかな光が差し込んでいる。
「あの、座席は...」
「そ、そうですね。えっと...私の隣が空いてるので...」
リアの声は相変わらず小さい。彼女の隣に座るのは気が引けたが、他に知っている人もいないので従うことにした。
「おはようございます、みなさん」
教室に入ってきたのは、若い女性の先生だった。
「本日は特別な日です。新しい仲間を迎え、そして...天使との契約を行います」
教室が一気にざわついた。
「男子...?」
「天使の祝福を受けた男子なんて...」
「あり得ないわ...」
様々な視線が俺に集まる。特に、前の席の金髪の男子が振り返って俺を見つめていた。
「エリオット、前を向いてください」
先生に注意された金髪の男子...エリオットは不満そうに前を向き直した。
「では、契約の儀式を始めます。まずは...泡沫 纈さん」
「え?」
突然の指名に戸惑う俺。隣でリアが小さく「が、頑張って...」と囁いた。
儀式場は教室の中央。床には複雑な魔法陣が描かれている。
「手の甲の紋章を、魔法陣の中心に」
先生の指示に従い、天使の絆が刻まれた右手を差し出す。
その瞬間—
「これは...!?」
魔法陣が激しく輝きだした。だが、通常の青い光ではなく、紫がかった不気味な色だ。
「先生!これは異常です!」
エリオットが叫ぶ。
突然、俺の意識が遠のいていく。そこには...
「君が...私の契約者?面白い...」
漆黒の翼を持つ天使が、俺を見下ろしていた。
「何者だ...?」
「私は...セラフィム」
最上位の天使...?だが、その姿は教科書に描かれている神々しい天使とは全く違う。
「契約しましょう...ただし、あなたには代償を...」
意識が途切れる直前、俺は確かに聞いた。
天使の...笑い声を。
「纈くん!しっかりして!」
目を覚ますと、リアが心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫...なのか?」
俺は自分の体を確認する。手の甲の紋章は前より濃く...そして黒ずんでいた。
「前代未聞ね...」
先生が眉をひそめている。
「契約は...成立したの?」
リアが不安そうに尋ねる。
「ああ...でも、普通じゃない契約みたいだ」
教室は静まり返っていた。エリオットは明らかに警戒的な目で俺を見ている。
これが運命の始まりだった。
俺には、まだ分からない。
この異常な契約が、どんな結末をもたらすのか—