黎明に託す願い事
夜が明ける。
東の空が明るさを増し、間をおかずして眩しいほどの陽光が辺りを照らす。
まだ暗い時分に、街の中でも見晴らしのよい場所を探して、スメラはその様を見守っていた。
なんでも、一年の始まりの日、その朝の日の出を拝んで願い事をすると、それが叶うらしい。
一種、おまじないのようなもので、子供の頃には眠い目を擦りながら、家の窓から日の出を見ようとしたものだが、大抵は上手くいかず、明けてしまった空を見ては、がっくりと肩を落とした。
眼下に広がる城下は、未だ多くの人々が夢の中だ。そんな静かな街並みを見下ろしながらスメラ自身、何をしているのだろうと自嘲の笑みをもらす。
何か、これ、という願いがあったわけではないのだ。
ただのきまぐれ。久しぶりのまとまった休暇に合わせて、昔出来なかった事をしてみたくなった。ただそれだけである。
「でも……。」
もし、本当に願いが叶うなら。
スメラは知らず手を組み、目を閉じる。
目を閉じれば、辺りはとても静かで微かな風の音しか聞こえない。
まるで、世界が消えてしまったようだ。そう思った。
スメラはそろりと目を開けた。世界は変わらずそこにある。
そして、今スメラがいるこの場所よりも、さらに一段高い場所にある、この国の王がおわす城を見上げた。
もし、本当に願いが叶うなら。
「どうか、あの方に心休まるひとときを……」
冷たい仮面を被るあの人へ、そのおもいが届くようにと。