第9話:遭遇
常備品の買い物を済ませ討伐対象をどう狩っていくかを話しながら南の森へ着く頃には、ギルドでの噂話はすっかり記憶の片隅に追いやっていた。
始めに戦闘経験のあるロウオオカミの討伐を終わらせることにした。話し合った結果討伐手段として俺が引き付けている間に横からシュリとカイムが速やかに連携して各個撃破していくという風でかすり傷一つ負う事は無かったが、3~4匹の集団と次々に接触し数回分以上の討伐クエと同じだけ狩ることになってしまった。
討伐が一段落する頃には日はすっかり真上にきていたので俺達は携帯食で昼食を摂ることにした。
「はぁ~、まさか朝だけであんなに戦闘するとは思わなかったわ」
「そうだねー、でもその分かなりの素材を採取できたからけっこうな収入だよ」
2人は少しグッタリした顔だったが愚痴(?)りながらもパンをあっという間に食べ終わった。
「もう一つの討伐対象はコボルトだっけ?」
「うん。ロウオオカミよりは知性があって武器も持ってるし、同じように主に集団行動してるから慎重にいかないと」
「テツヤくんの意見は?」
「コボルトは会ったことないからなぁ、カイムの意見を参考に慎重にいくしかないんじゃないか?」
「そっか、かくいう私も会ったことないからそれでいいわ」
「きゃーーーーーーーーーーー!!」
ぼちぼち出発しようとしたその時、絶望と恐怖の入り混じったような悲鳴が聞こえた。突然のことで俺達は驚き一瞬お互い顔を見合ったが、すぐさま声がした方に森の中を全速力で駆け出した。
「あっ、あそこ!」
500~600m程走った先に2つの人影を発見したが、人影の近くには魔物の姿もあった。
「大丈夫かっ!?」
俺達は魔物を牽制するように間に割り込んだ。突然の乱入者によって魔物は一時動きを止めたので、その間にシュリ達に2人の様子を確認してもらった。
「女性の方は特に怪我は見られないわ」
「こっちの男の子は意識は朦朧として、怪我も重傷だよ!」
「怪我の治療が先だ、全部使っていいから何とかしてくれ」
魔物に意識を向けたまま俺は回復薬を全てカイムに渡した。魔物は突然の乱入者を少し不信に思ったようだが、俺達の姿を確認しさして驚異でないと判断したようで舌を舐めずりながら距離を縮めてくる。
「小柄な方はカイムが話してたコボルトだろうが、後方にいる人一倍以上ありそうな奴はなんだ?」
「・あれ・・まさか・・・ハイコボルト!?」
「それって何なのカイム?」
「僕も見るのは初めてだけど。森の奥で一定のコボルト集団を統率する奴で、通常のコボルトの数倍以上のパワー&スピードを有してるって話だよ。間違ってもこんな森の入口の方にいる魔物じゃないよ」
「どこに居るかはともかく、そんな奴相手にどうすればいいのよ?」
「ハイコボルト単体でもかなり厄介ってことだな、とりあえず奴らが油断してるうちに周囲の5体のコボルトを速やかに殲滅するか」
俺は急いでシュリとカイムに作戦を耳打ちした。
「! テツヤくんそれ本気?」
「あぁ。治療に時間が掛かる以上今の俺達では怪我人を庇いながら逃げ切る可能性は低い、まして下手に交戦し警戒されてハイコボルトを交えて連携されたらそれこそ分が悪い」
「・・・たしかにテツヤくんの話ももっともだし、その作戦以上に現状を打破できる良い案もないわね」
「じゃあ、作戦実行でいいな?」
「えぇ、カイムもそれでいいわね?」
「否定してもやるんでしょ、2人共気を付けてよ」
「カイムも彼女達を守ってくれ、作戦の要はシュリだ・・頼むぞ」
「今度こそ足を引っ張らないようにやるわ!」
俺とシュリはコボルトに向けて駆け出した。