第6話:初クエスト・上
すぐに出発する予定だったがお昼に近かったので先に昼食を済ませ、雑談を交えながら目的のモンスターがいる森を目指した。
「俺とシュリが剣でカイムが槍だから前衛は俺とシュリ、中衛をカイムってのが一般的か?」
「そうね、とりあえず1回戦闘してみてどんな感じになるか確認してみるのがいいと思うけど」
「僕もシュリちゃんの意見に賛成!」
「それじゃ、あそこにいるオオカミとでも戦ってみるか?」
俺が指差した方向に灰色のオオカミが3匹警戒するようにこちらを睨んでいた。
「ロウオオカミね、ちょうど良いじゃない」
「ちょ、ちょっと待ってよシュリちゃん、ロウオオカミって言ったら大人が2人がかりで1匹を倒せるくらいの強さなんだよ!」
「それは鍛えてない大人の話でしょ」
「それはそうだけど、目的のジャイアントビーより強いモンスターで試さなくても」
「悪いが話は終わりだカイム、あっちは待ってくれなさそうだからな」
俺とシュリは抜剣し目の前まで迫ってきたロウオオカミを見据え、先手必勝とばかりに俺は駆け出しながらシュリに声をかけた。
「俺が中央と右の2匹を引き受ける、シュリ達は左を頼む!」
「ちょ、ちょっと1人じゃ危な・・もう! カイムは左に回り込んで!」
シュリは俺の提案を慌てて却下しようとしたが既に俺が駆け出していた為、カイムに指示して自身も遅れて駆け出しカイムも慌てて槍を構えて駆け出した。
俺は中央に向かっていき噛み付こうと飛び込んできた狼を側面に回り込むと同時に下から上に一閃して首を切り落とし、返す刀で右から飛び込んできた狼を一刀両断した。2匹を斬り伏せてすぐに2人の方を確認すると、飛び込んできた狼をシュリが小盾で上手く左側にいなしたところにカイムが胴に槍を突き刺しすぐさまシュリが首を切り落とした。
「こ、怖かったよ~」
「なによ、だらしないわねカイム」
「だってイキナリだったから心の準備が・・」
「いやいや、実戦経験無いって言ってた割には上手く連携できてたじゃないか」
「テツヤくんは先行し過ぎ! 今回は上手くいったけど勝手に動くと危ないんだから」
実戦経験の少ない2人より実戦経験の記憶がある俺が先行し多く引き受けた方が安全だなと考え動いたのだが、シュリに独断で危険な行動しちゃダメだと説教されてしまった。
「でもシュリちゃん、テツヤさんの戦闘能力を考えたら先行したのも頷けるよ。一瞬でロウオオカミ2匹を一太刀で倒すなんて僕達じゃ無理だと思うし」
調合素材として売ることが出来るらしいロウオオカミの牙を取りながらカイムが説教に割り込んできた。
「それはそうかもしれないけど、だからって態々危険に飛び込まなくても・・・」
(俺にとっては全く危険を感じなかったがこれ以上シュリに心配させるのもなんだしここは謝ったほうがいいか)
「すまない、次からは気を付けるよ」
「う、ううん、私もちょっと冷静じゃなかったね。言い過ぎちゃってごめん」
(またも少し気まずい雰囲気になってしまった、カイムなんとかしてくれ!)
カイムに訴えるように目を向け、カイムもそれに気づいて頷いた。
「シュリちゃん牙の採取終わったよ、そろそろ森に入ろうか?」
「あっ、お疲れ様。・・・・・よし! 気を取り直して当初の目的のクエストを目指しましょ♪」
完全に吹っ切れたとは思えないが少しは調子が戻ったようだ。
森の中に入りどちらのクエストから終わらせようかと俺が2人に問いかける前にカイムがホワイトキノコを発見していた。
(ホワイトキノコかぁ、どこから見ても俺にはマッシュルームにしか見えないな)
「ホワイトキノコの数はこれで最低限揃ったけど多い程追加報酬があるから」
「分かったわ、ジャイアントビーを探すついでに見つかったら採取でいい?」
「俺もそれで構わない」
「僕もそれでいいよ」
3人で簡単に次の行動方針を決め、30分程森を捜索したところにジャイアントビーの群れを発見した。
「追加のホワイトキノコは見当たらなかったが目的の討伐対象が見つかったな」
「そうなんだけど、20匹近くいるのはちょっと数が多すぎない?」
「そういえばジャイアントビーは巣の周りを一定範囲毎に彷徨ってるんだった」
「バカイム! そんな一般常識を今言うことじゃないでしょ」
「シュリちゃん怒らないでよ。そこが重要じゃなくて群れがいるあそこが一定範囲の重なる場所なんじゃないかなってこと」
「なるほど、一定範囲で彷徨って偶々重なる場所に集まったってことか・・・運が悪いな」
「そうだね、どうするシュリちゃん? バラバラになるまで待つ?」
「多勢に無勢だし、時間もあるから待ちましょう」
3人でジャイアントビーの群れをじっと見ていると、俺は不意に後ろから気配を感じ振り向いた時1匹のジャイアントビーがシュリを今にも針で攻撃しようとしていた。
「シュリ!」
俺はとっさにシュリを突き飛ばすと同時に抜剣し横一閃でジャイアントビーの胴体を半分に切り落とした。ジャイアントビーは金切り声を上げて崩れ落ちたが、最後瞬間の叫びが気に掛かり周囲を警戒した。
「・・・・・・・・」
「大丈夫シュリちゃん!?」
「・・・・・だ、大丈夫よカイム。あ、ありがとうテツヤくん」
「怪我が無ければそれでいい、ただ・・・」
「ただ?」
「さっきのジャイアントビーはしっかり置き土産をしていったようだな」
2人はどういう事かと思いながら俺が見ている方を見ると、先程まで監視していたジャイアントビーの群れが一斉にこちらに向かって来ていた。